第20回レーザー応用プラズマ計測に関する国際シンポジウム

 2023年9月10日から14日にかけて第20回レーザー応用プラズマ計測に関する国際シンポジウム(20th Laser Aided Plasma Diagnostics; LAPD20)を核融合科学研究所と北海道大学主催で京都ガーデンパレスホテルにおいて開催しました。本シンポジウムは2年に一度開催されますが、コロナ禍の影響により延期され、前回2019年に米国で開催されて以来4年ぶりの開催となりました。通常、本シンポジウムの参加者は80名程度ですが、今回は通常の開催より参加者が増え、14か国106名の参加者となりました。

      
会議集合写真

レーザー応用プラズマ計測を通じて活発な議論や交流が行われた

     
会議風景

 本シンポジウムでは、レーザー応用計測に関する最新の研究成果について、世界のトップクラスの研究者が集い議論します。本シンポジウムは、通常は、あまり交流のない磁場閉じ込め高温プラズマの研究者と、基礎プラズマや産業応用プラズマなどの低温プラズマの研究者がレーザー応用計測を通じて一堂に会して議論することに特徴があります。
 基調講演では、現在国際協力で建設が進められている国際熱核融合実験炉(ITER)のレーザー、マイクロ波計測の責任者である Geroge Vayakis 博士によるITERにおける両計測の現状と将来の核融合実証炉における計測の展望についての発表がありました。今回は20回、40周年の記念開催であり、記念講演として当シンポジウムを1983年に提案、開始された九州大学村岡克紀名誉教授、及び当シンポジウムの運営に長らく携われてきた EUROFusion の Tony Donne 教授による記念講演が行われました。村岡教授は高温プラズマから始まったレーザー応用計測の低温プラズマへの適用の歴史について講演され、Donne 教授は高温プラズマのレーザー、マイクロ波計測の発展の歴史について講演されました。

ポスターセッションの様子

口頭発表、ポスター発表を含めて96件の発表がありました。高温プラズマ計測は58件、低温プラズマ計測は38件であり、総発表数では高温プラズマが過半数を占めましたが、口頭発表は高温プラズマ計測18件、低温プラズマ計測19件とほぼ同数の発表が行なわれました。口頭発表において、高温と低温の発表件数を同数程度にしたことが、高温、低温の両コミュニティの相互交流を活発にしたと思います。ポスターセッションでは、ポスター発表の前に各発表者がスライド1枚を用いて、2分間で内容を報告するプレポスター発表を行いました。これにより参加者はポスターの内容を事前に把握することができ、ポスターセッションでの活発な議論につながったと思います。

 発表内容では、レーザートムソン散乱計測に関する発表が最も多く、34件ありました。村岡教授の講演では、1969年に行われた英国のカラム研究所のグループによる旧ソ連の T3トカマクでのルビーレーザーを用いたトムソン散乱計測の結果が引用されました。すなわち、この計測により、トカマクで電子温度 1keV 達成を確認したことが核融合研究の流れを変え、現在に至るまで核融合はトカマク中心の研究となりました。

     

異なる研究分野との融合で期待されるレーザー応用計測の今後の展開

 村岡名誉教授は記念講演で、 Cross Fertilisation が重要だと指摘されました。Cross Fertilisation とは、生物学では“異種交配”という意味がありますが、他の意味として“異なる文化、あるいは相互に生産的で有益である異なる考え方の交換”という意味があります。本シンポジウムは、低温プラズマと高温プラズマ、及び他の科学技術研究分野の Cross Fertilisation (CF) を通じて、レーザー応用計測の学際的な研究の発展を目指すものです。村岡名誉教授の講演では、各分野へのLAPDの寄与の程度をCFポイントで評価すると、上記T3トカマクでの結果を基準として、CFポイントは100となるとしました。CFポイントの評価値の例としては、村岡名誉教授のグループで1970年代後半より行っている、低温プラズマにトムソン散乱を適用した大気中放電、エキシマレーザー励起放電、半導体製造用低圧放電などが、それぞれ15、30、40との説明がありました。その研究の流れを引き継いだ九州大学溝口計特任教授(ギガフォトン社前副社長)、北海道大学富田健太郎准教授により、半導体リソグラフィ光源として有望なスズプラズマのレーザートムソン散乱計測に引き継がれたことが報告され、村岡名誉教授によれば同グループの結果は、現在CFポイントが40程度であるが、これらの計測結果がリソグラフィ光源の開発に結び付けば、最終的なCFポイント値はもっと高いものになるだろうとのコメントがありました。

バンケットの様子

 会議の質疑応答においても韓国の先端科学技術研究所(KAIST)の Choi 教授より、高温プラズマ計測の技術は、低温プラズマ、特に産業応用プラズマの研究開発で強く要求されているとのコメントがありました。さらに、産業応用への適用では、できるだけ簡便で、かつ信頼性のある計測が必要だという指摘もありました。高温プラズマ計測と低温プラズマ計測の融合は必ずしも容易ではありません。本シンポジウムにおいても、全ての参加者が、このようなCFを意識しているわけではないのですが、少なくとも一定数の研究者は異なる分野の学際的融合の重要性を認識し、研究に生かそうとしていると思われます。今後も本シンポジウムを継続することにより、レーザー応用計測の今後の新しい展開が期待できると思われます。

 ポスターセッションでは博士号取得後5年以内の若手研究者4人に優秀ポスター賞が授与され、総研大 核融合科学コースのJ. J. Simon君が、“Simulation of Doppler-free Spectra using the Collisional Radiative Model”のポスター発表で受賞しました。

 会議期間中は天候にも恵まれエクスカージョンでは宇治の平等院鳳凰堂を訪問し、日本文化の歴史と伝統を会議参加者に堪能していただきました。最後に、本シンポジウムを開催するにあたり、助成及び協賛いただいた各財団や企業の皆様、並びに会議運営に献身的に尽力していただいた現地実行委員の皆様、核融合科学研究所の管理部研究支援課、財務課の皆様にこの場を借りてお礼を申し上げます。

エクスカージョン平等院鳳凰堂

(田中謙治 可知化センシングユニット 教授)