Thailand Tokamak-1オープニングセレモニー

 核融合科学研究所とタイ国家原子力技術研究所(Thailand Institute of Nuclear Technology (Public Organization)、以下、「TINT」)は、2016年12月に国際学術交流協定を締結して以降、プラズマ物理と核融合工学に係る学術研究、日タイ双方の学生教育、若手研究者・技術者育成等を協同して進めています。TINTは、タイの高等教育、科学、研究、及び技術革新省に属する公的研究機関であり、放射線科学技術の研究及び利用における同国の中枢拠点です。TINTは、八つの研究センターで構成され、農業、製造業、製薬、環境等の分野にて放射線科学技術に係る研究開発を幅広く推進しています。

タイ国家原子力技術研究所におけるThailand Tokamak-1オープニングセレモニーにおけるグループ写真。写真中央は、マハ・チャクリ・シリントーン王女殿下。1列目の左端が筆者。

世界から大きな注目と期待を集めるTT-1プロジェクト

 経済発展の著しいタイでは、近年のエネルギー問題への関心の高まりと環境に優しいエネルギー源への期待を背景に、トカマク型装置の新設を決定しました。TINT は、2017年から進めてきたThailand Tokamak-1(TT-1)プロジェクトの遂行に必要な建屋や実験設備等の整備を終え、2023年から核融合プラズマに係る実験研究を開始しました。核融合プラズマ研究を本格的に始動するにあたり、TINTから筆者宛にタイ王国マハ・チャクリ・シリントーン王女殿下ご主宰のTT-1オープニングセレモニーへの招待状が届き、同セレモニーに参列させていただきました。オープニングセレモニーは、2023年7月25日に、タイ中部のナコーンナーヨック県オンカラックにあるTINT本部にて厳かに執り行われました。時節柄、入場に際し、参列者全員がその場で新型コロナウィルス感染症を対象とする抗原検査を受け、陰性確認した上で入場しました。セレモニーには、TINT及びタイ国内外の研究機関や大学関係者に加え、海外政府機関、在バンコク外国公館、タイ国内における電力事業社や産業界等の幅広い分野から多数の参列がありました。また、タイ国内の報道機関のみならず、海外報道機関による取材もあり、TT-1プロジェクトは、タイ国内外から大きな注目と期待を集め、晴れやかにスタートを切りました。

核融合科学研究におけるタイとの交流

Thailand Tokamak-1を背景にタワチャイ・オンジュンタイ国家原子力技術研究所長(写真右)とともに。

 筆者とタイとの研究交流は、2016年3月に遡ります。タイで核融合科学研究を本格化するにあたり、当時のTINT副所長及び大学関係者2名が核融合科学研究所にお越しになりました。筆者は、その際に対応したメンバーの一人でした。タワチャイ・オンジュン TINT所長は、当時大学に所属しておられ、タイ側派遣団のお一人でした。この時、様々な意見交換が行われ、それが起点となり、核融合科学研究所とTINTは国際学術交流協定の締結に至りました。以降、TINTの協力を得て総合研究大学院大学(総研大)「アジア冬の学校」を「ASEAN School on Plasma and Nuclear Fusion」と共催の形で毎年タイにて開催するようになり、筆者は、日本側の講師としてタイを往訪し、また、タワチャイ・オンジュン所長が来日した際には核融合科学研究所を来訪するなど、双方向の交流を積み重ねてきました。この間、日本から総研大生をタイで開催するスクールに派遣する一方、タイ・マハラサカーム大学の若手研究者を核融合科学研究所特任研究員として二年間受け入れ、また、2023年10月には、タイ・キングモンクット工科大学トンブリ校から、総合研究大学院大学先端学術院核融合科学コースへ入学する学生が現れるなど、核融合科学研究所が行う日タイの核融合科学分野における協力は、国際共同研究の場として役割に加え、日タイ双方の学生や若手研究者育成の場としても機能しています。

(磯部光孝 構造形成・持続性ユニット 教授)