大学評価、 教育サービス面にかんする社会貢献

核融合科学研究所の大学評価にかんする委員会は先日、'教育サービス面における社会貢献'の今年度のテーマで報告書を作成し、大学評価・学位授与機構に提出いたしました。ここでは報告書が膨大なものになりますので、根幹にあたる、社会貢献のとらえ方、目的・目標、取り組みの現状の部分を掲載いたします。

2.       教育サービス面における社会貢献に関するとらえ方

 

(1) 社会貢献活動全体の位置付け

核融合科学研究所は「核融合プラズマの学理とその応用の研究」を行うことを目的として平成元年に設立以来,地域社会への貢献にも努力を傾け,

ア 市民に開かれた研究所

イ 市民に親しみを持ってもらえる研究所

ウ 社会に貢献できる研究所

を実現することを心がけてきた。

この背景にあるのは本研究所の目指す核融合エネルギーの実現が,人類が抱えるエネルギー問題を解決する未来の恒久的エネルギー源として最もふさわしいことを市民の皆さんに理解していただくことにあるが,核融合が原理的に核反応を利用する原子力エネルギーの一種であることから,必然的に発生する放射能の問題を避けて通ることはできない。もちろん関係設備については,高エネルギー粒子研究等で使用されている加速器やX線発生装置と同様,法律に基いて十分な安全管理体制のもとに研究を行っている。今後とも,放射線安全管理の方法などについては,「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」などを遵守するとともに,監督官庁へ状況を適時報告し,安全には万全を期して行く。しかし,放射線に対する市民の不安感は根強く,本研究所が原子力発電所と同じように一部の住民に受け入れ難いものと受け取られている現状がある。これには心理的なものも含まれており,近隣住民に対して科学的根拠に基づく安全性を理解していただき,研究所との信頼関係を築くことが必要となる。

エネルギーを自分は大いに利用したいが,原子力は困る,一方,硫化物・窒化物や二酸化炭素も出さない夢のエネルギー源は,行政なり電力会社が確保すべきという考えがある。そういう考えではなくて,エネルギー問題を自分たちの問題としてとらえ,次世代のために現在の自分たちが何をすべきかを市民と研究者が一緒に建設的に考えていくよう促すことは我々に課せられた仕事であるとともに,重要な社会貢献であるととらえている。

本研究所はあらゆる機会を利用し,エネルギー開発関連の基礎研究として地域社会に支持されるべく努力を積み重ねていく。市民がエネルギー問題を自分達の問題として的確にとらえるためには,正しい科学的知識が必要であり,本研究所の教育サービス活動が長期的・持続的に必要であると考えている。

一方,科学の最先端の知識を市民へ提供することや子供達への科学的なものの見方を伝えること,真理を知ることの楽しさを伝えることも大事な本研究所の教育サービス活動であるととらえている。

 

(2) 教育サービス面における社会貢献のとらえ方と活動

市民の本研究所見学希望の随時受付,2000人以上規模の見学者に対する一般公開の実施,地元近隣の小中高の理科の先生との環境放射線の共同測定・共同研究,近隣が陶磁器の産地であることから,地元の陶器祭りへ参加すること等あらゆる機会を利用して,教育サービス活動を実施している

 本研究所は毎年土岐市で国際会議を開催するとともにその機会に著名な外国人研究者及び核融合研究の第一線の日本人研究者による市民講演会を行い,広くプラズマ研究等の最近の進歩を紹介することにより,研究の面白さ,科学の面白さを伝える努力をしている。また本研究所は様々な先端技術を駆使して核融合研究を遂行しており,その知識・技術・経験の社会への応用にも心がけることに努めている。

 このように,市民に開かれた研究所,施設開放やイベント開催など市民に親しみを持ってもらえる研究所,高度の学術成果を活かした市民への総合学習・生涯教育への貢献を行い,また最先端の研究で培われた技術やノウハウを伝えるなど社会に貢献できる研究所であり続けることを目指しており,それがまた我々の進める核融合研究が地域社会から支えられることにもなると考える。


3. 教育サービス面における社会貢献に関する目的及び目標

 

(1) 目的

本研究所の教育サービス面における社会貢献に関する目的は,大きく分けて,

ア 人類が解決すべきエネルギーの課題とその解決への展望の市民への説明

イ 理学・工学の最先端の知識の還元と総合学習・生涯教育への貢献

の2つである。

 

ア 人類が解決すべきエネルギーの課題とその解決への展望の市民への説明

現在のエネルギー源については,現在まで石炭,石油,天然ガスなどの化石燃料が主として使われ,さらに核分裂による原子力エネルギーが用いられている。しかし,化石燃料は埋蔵量に限度があり,しかも石炭,石油からの窒化物や硫化物などの環境汚染物質,化石燃料を燃やしたときに発生する二酸化炭素による地球温暖化の問題などがある。また,化石燃料は化学製品などの材料ともなるものであり,総合的に判断して温存すべきものである。核分裂による原子力エネルギーも高レベル放射性廃棄物の処理や国民への理解を進めることなどの課題がある。一方,世界の人口は既に60億人を突破し,なお確実に増加し続けていて,生活水準の上昇とあわせて,エネルギーの消費量も増加の一途をたどるものと予測され,将来的なエネルギーの安定供給は世界全体の大きな課題となっている。これを解決するには永続性のある新しいエネルギー源を開発することがぜひとも必要となる。エネルギー源の大きさ,エネルギー発生密度を考えたときに,水素同位体等を燃料とする核融合が未来の恒久的エネルギーとして最もふさわしいと考えられる。

核融合の研究は,これまで世界各国において活発な研究が進められ,高温プラズマの生成及びその制御に成果を挙げてきた。とはいえ,実用炉に至るまでにはなお克服すべき課題が多く残されている。このような状況にあって,本研究所では「核融合プラズマに関する学理及びその応用の研究」を設立の理念に掲げ,炉心プラズマに外挿し得る高温高密度領域プラズマの閉じ込めの物理を総合的に理解することを目的として,それらの課題に学術的観点から果敢に挑戦している。将来の核融合炉実現に向けて基盤的研究を推進するため,平成元年に創設されて以来,ヘリカル型核融合プラズマ閉じ込め装置として世界最大規模である大型ヘリカル装置(LHD)を用いた実験研究を中心として,磁場閉じ込め方式核融合プラズマ研究を行っている。さらに,プラズマの複雑な挙動・特性に関して,より基礎学術的な観点からの探求を行うため,広い視野から核融合プラズマの学理体系化を行うとともに,非線形性,非平衡性,開放性の性質を持つ系に生起する構造形成など他の学問分野にも共通する新しい研究対象を開拓することを目指して,スーパーコンピュータを駆使した大規模計算機シミュレーションによる先駆的研究を推進している。また,大学共同利用機関として,共同研究,国際協力,大学院教育を積極的に推進し,国内外のセンターオブエクセレンス(COE)としての役割を果たしている。

 したがって,上述のようなエネルギーについて人類が解決すべき課題とその解決への展望を市民に説明し,理解してもらうことは,市民自身がエネルギー問題を自分の問題としてとらえること,及び核融合研究の必要性の理解と安全性を含む正しい基本原理の理解を深めると言う両方の意味から極めて重要である。そのような市民への説明活動を行うためには,日頃からの市民との積極的な対話や意見交換を通じて市民の考え方を的確に把握することも重要であると考えている。

 

イ 理学・工学の最先端の知識の還元と総合学習・生涯教育への貢献

最先端の学術研究は,その得られた知識が人間の好奇心を満たし,その応用が人類の未来を豊かにするものである。これは人類の持つ資産であって,若い世代によって引き継がれていかなくてはならない。本研究所の行っている高温プラズマ研究は,未来のエネルギー源である核融合を実現させ,その複雑性の中に豊かな物理現象を見いだすものである。最先端の科学研究を行っている研究機関として,真実を探求する喜び,自然界を構成している仕組みの奥深さ,特にプラズマは宇宙の大半を占めるものであり,この宇宙を理解していくためにも,プラズマの研究が大切であることなどを一般市民にわかりやすく伝える努力をすることは,研究者の重要な責務の一つとして位置付けられるものと考える。

また,特に,思考が柔軟で知的好奇心の旺盛な中高生に最先端の科学研究成果を紹介し興味を持ってもらうと同時に,子供たちに科学的な物の見方や考え方を持ってもらうこと,そして視点を更に広げ人類が直面するであろうエネルギー問題まで考えてもらうことを目的とする。

本研究所ではLHDを用いた最先端のプラズマ実験を行うとともに,スーパーコンピュータを用いた高度のシミュレーション研究などを行っており,その過程で高度の学術及び工学の知識・経験の集積がなされ,また多くの人材を育てている。例を挙げると,LHDでは超伝導,ビーム制御,高周波制御,高真空,高電圧など最先端の技術が結集して構成されており,また,プラズマ閉じ込め実験におけるプラズマ物理学や原子・分子分光学研究,さらには超伝導工学・極低温物理学・材料科学等を含む炉工学など,多彩な先端的研究が行われている。そしてシミュレーションなどを駆使した研究では非線形・非平衡・開放系に生起する自己組織化現象や複雑性の科学の樹立など新しい領域の科学が探求されるとともに,バーチャルリアリティなど先進的情報技術の開発が進められている。これら理学・工学分野の最先端における知識を一般市民にも平易に還元することや,合理的な物の見方,自然界の仕組みとその素晴らしさを伝える総合学習・生涯教育への貢献も重要であると考えている。

 

(2) 目標

上述の目的に対応して、目的を達成するための目標を以下のように設定している。

ア 人類が解決すべきエネルギーの課題とその解決への展望の市民への説明

○一般公開見学会

ヘリカル型核融合装置として世界最大のLHDやプラズマの複雑な現象を定性的・定量的に理解するためのスーパーコンピュータ等を見学していただき,同時に核融合研究のエネルギー問題の中での位置付け,プラズマの応用の多様さ,科学の面白さ等の理解が可能になるよう努める。

WEBでの研究所活動紹介,安全情報公開

  研究所の活動内容をWEBで全世界に配信し,研究所の活動やプラズマ物理・核融合について,世の中に理解してもらう。

○科学館や公民館などにおける展示・広報活動

  核融合に関連する科学技術の理解を深めるために本項では以下を目標とする。(ア)年1回程度の頻度で展示を実施すること。(イ)展示にあたっては直接体験することが可能な展示機器を製作し使用すること。(ウ)展示場において見学者が直接研究職員と会話し,質問回答を行うことができるシステムを提供すること。

○パンフレット,ブックレット,ビデオの作成・配布

  エネルギー源としての核融合の重要性を国民に示し,世界の核融合研究の現状,そのなかでの本研究所の役割を理解してもらうために,パンフレット,ブックレット及びビデオを作成し配布する。また,核融合科学の面白さを理解してもらう。

 

イ 理学・工学の最先端の知識の還元と総合学習・生涯教育への貢献

 ○公開市民講座

最先端における知識を一般市民に平易に還元し,合理的物の見方,自然界の仕組みとその素晴らしさを伝えることに努める。そのため,年1回以上の開催を目標としている。

 ○初等・中等教育へのサービス

研究所は大学とは異なり,その高度な専門性故に一般の方と接する機会は大学と比較して少なく,更に子供たちについては一層その傾向が強くなる。そこで以下に示す幾つかの機会を利用し小中高生への教育サービスの充実を図ることとする。

   (ア)研究所公開日を利用した子供たちへの体験的な学習の提供

   (イ)インターネットを利用した遠隔授業

   (ウ)「総合学習」など新しい指導要領に即した機会を利用した教育活動

 また,子供たちを教育する立場にある学校の先生や教育委員会の方たちに知識や理解を深めていただくことも重要であり,地域の中学・高校とのつながりを深めていく。

   (エ)地域の学校・教育委員会との連帯を促進する中での教育活動

 ○一般公開見学会

本研究所の活動に対し理解を得るためには,研究所にできるだけ多くの人々に実際に来ていただく。様々な実験の実演を通じて,科学の面白さ等を体験できるよう心がけている。

 ○施設の開放

運動施設(野球場及びテニスコート)と図書館を市民に開放し,市民と研究所職員との交流を深めるとともに、研究所が健康増進の場,総合学習や生涯教育の場として機能することを市民に認知してもらうことを目標とする。

 

以上のような活動について積極的に取り組み,各年度ごとに各項目について実績を残すことを目標とする。また,今後は,活動の成果を分析することにより,目標の設定変更あるいはレベルを上げていくことを計画している。

 

 


4. 取り組みの現状

ア 公開市民講座

 最先端の理学・工学分野の知識を一般市民にも平易に還元することや,合理的物の見方,自然界の仕組みとその素晴らしさを伝える総合学習・生涯教育への貢献を行う活動として公開の市民講座を開催するよう積極的に取り組んでいる。定期的に行なっている公開の市民講座としては,(ア)研究所一般公開時の公開市民講座,(イ)国際土岐コンファレンス開催時の公開市民講座がある。

イ 初等・中等教育へのサービス

 初等・中等教育へのサービスにおいては,目標に掲げた4つの具体的な課題に対して以下のように取り組んでいる。(ア)一般公開日に催す子供たちのためのイベント企画には所内の若手研究者を中心とした実行委員会を組織してこれにあたっている。(イ)遠隔授業の実施にあたっては,本研究所共同研究のネットワークを生かし,三重大学教育学部との共同により周到な準備の下に実施した。(ウ)中高生への直接授業に関しては,講師としてベテラン教官(教授)を派遣し,広い知識と深い経験をもとに講義を行うよう配慮する一方,研究所への生徒の訪問にあたっては若手教官が対応し,親しみやすさに配慮している。また,(エ)子供を教える立場にある小中高の先生方との交流も地元教育委員会にご協力をいただき定着している。

ウ 一般公開見学会

 研究所の一般公開はその重要さを考え,研究所をあげて取り組んでいる。核融合研究に関するパネル等を多数製作し,来所者に説明を行うとともに,実験棟のクレーンの高さが約30mあることを利用し,日本で最大のフーコー振り子をつくり,地球の回転を実感できるなど,科学実験の面白さ等を体験してもらう企画を練っている。また,中部大学・東京大学等の先生方にも共同研究のつながりの中で研究所に来所していただき,来所者向けの科学実験を行っている。また,研究所の見学に随時対応している。

エ WEBでの研究所活動紹介,安全情報公開

 本研究所はインターネットのWEBを用いて,研究所の活動,共同研究の申し込みや研究所が行う研究会などの広報,プラズマ・核融合に興味を持つ人々への最先端の研究の紹介,一般公開などのイベントの情報,行政文書開示の情報などを全世界に向けて発信している。

 

オ 科学館や公民館などにおける展示広報活動

 科学館などでの展示広報活動には,小学生以下の子供を含む一般の人々を対象とした展示と各種学会の展示に代表される他分野研究者を対象とした展示の二種類がある。前者においては,単に研究所の研究成果をパネルなどで展示するだけでは,本活動の目的である知的好奇心の喚起を実現することは難しい。そこで,展示にあたっては,実施グループを組織し,会場に訪れる見学者の層を考慮に入れた展示品の選定,科学を身近に体験できる展示専用の物品の製作を行っている。また,展示当日には研究者を会場に派遣し,説明を行うだけでなく各種質問に答えるようにしている。各種学会関連の展示では,研究開発過程における試作品を展示するなど,より現物に即した展示を実施している。

カ パンフレット,ブックレット,ビデオの作成及び配布

 研究所の現況と研究状況を紹介するため,和文と英文の2種類の核融合科学研究所パンフレットを発行している。また,市民に核融合研究への興味と理解を深めてもらうためのブックレット,最新のシミュレーション研究の成果や核融合実験の安全性を知ってもらうためのパンフレットなどを随時発行している。また,研究所紹介用ビデオを制作し核融合研究の重要さと面白さが伝わるよう工夫している。各種刊行物は,研究所の広報活動の方針,内容のとりまとめを行っている図書・出版委員会が,刊行物ごとに担当者を決め,編集内容等については,研究所全体の意見が反映されるよう,多くの研究所員の協力を得て,発行されている。

 ビデオの作成はビデオ作成編集委員会を設け,核融合研究の流れが初心者にも理解できるよう配慮し,また核融合科学研究所の目標が明らかとなるよう工夫している。

キ 施設の開放

 目標を達成するため,市民が運動施設(野球場及びテニスコート)を利用することや,あるいは,図書館において図書を閲覧したり,コピーすることができるよう受付の窓口を整備し,地域への周知を図っている。

 運動施設は,研究所職員と地域住民との交流試合にかなり活用されている。また,図書館は,市民の利用が増えてきている。

   

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