イオン温度8000万度のプラズマ
機関間連携

NPC(NINS-Princeton Collaboration)プログラム

 自然科学研究機構とプリンストン大学は、2016年7月にプラズマ物理学に関する国際共同研究のための学術交流協定に調印しました。核融合科学研究所は、国立天文台と協力してこの国際共同研究を推進する役割を担っています。
 プラズマ物理学の発展は、その黎明期においては宇宙プラズマ現象の解明が主な研究ターゲットとなっていました。その後核融合研究という、国家のエネルギー政策にも強く関係する研究分野が現れてからは、プラズマの不安定性や粒子・エネルギー輸送等の詳細な解明は、核融合の分野で大きく発展してきた歴史があります。この国際共同研究では、そのようにして主に核融合研究分野で得られた方法論、解析手法、シミュレーション手法を宇宙プラズマの研究課題に適用し、また一方、宇宙プラズマ独自の研究方法論を核融合プラズマの研究課題に適用することにより、それぞれの分野における研究の新しい展開を実現することを目指します。
 NPCの推進母体は自然科学研究機構ですが、プリンストン大学との研究協力においては広く国内の大学研究者とも協力して、幅広い視野と研究実績に基づいた研究を展開します。核融合プラズマと宇宙プラズマの融合的研究のテーマは多方面に及びますが、NPCでは特に核融合研究と宇宙物理学の双方に共通する基礎的研究テーマを選び、異なる研究背景を持つプラズマ物理学者がそれぞれの研究経験と発想を融合することにより、新しい研究展開を得ることを目指します。4つの基礎的研究テーマとしては、(1)磁気再結合現象(Magnetic Reconnection)、(2)乱流(Turbulence)の発生機構とその効果、(3)高エネルギー粒子(Energetic Particles)の生成機構と付随する現象、(4)磁気回転不安定性(MRI)の物理機構の解明、を取り上げています。
 これらの研究テーマに対して、日本側とプリンストン大学側とでCoordinatorを4人ずつ指名しています。Coordinatorはそれぞれの研究領域で指導的な役割を担っている研究者ですが、NPCでは国際共同研究のプラニングとプログラムの実施状況を把握する役目を果たします。またプログラム全体の推進に責任を持つ実施責任者(P.I.)は、4つの研究テーマグループ間の調整役も果たします。日本側ではCoordinatorに加えて、4つの研究テーマに対して若手研究者の中からAssistant Coordinatorを指名し、Coordinatorを補助してプログラムの効率的な実施にあたります。以下にNPCの実施体制を示します。

 4つの研究テーマの具体的な内容は以下のとおりです。

磁気再結合現象

 磁気再結合過程は普遍的なプラズマ物理の問題であり、天体物理、宇宙科学、磁場閉じ込め研究において、磁場のエネルギーの熱的あるいは運動論的エネルギーへの変換を理解するための中心的課題である。一般的には磁気再結合の速さは簡単な抵抗性MHDモデルでは説明できない。再結合線(X点)近傍でのプラズマの流れに対する制限を緩めることにより、磁気再結合のスピードを速めるような新たな効果を取り入れる必要がある。オーム法則のさらなる一般化、運動論的効果、乱流の効果等に加えて、三次元の時間変化を伴うようなシミュレーション計算が要請される。
 太陽の観測や宇宙での測定とは別に、科学目的に特化された室内実験では、異なるスケールでの同時観測や理論モデルに適合したプラズマパラメタを選ぶことによりユニークな情報を得ることができる。現在稼働中のMRX実験と、その後継機として建設中のFLARE実験では、制御された実験条件での磁気再結合の研究が可能である。このプログラムに属する他の実験装置では、強磁場中での鋸歯状振動や主崩壊過程のような自発的な磁気再結合現象の研究に加えて、装置としての優れた制御性と高度な観測機器を活用した強制再結合の研究も可能である。この目的のため、時間的に変化する共鳴変調磁場を加えて、回転するプラズマ中への磁場の浸透を研究する。
 これらの室内実験と宇宙における衛星観測及び太陽観測では、理論と密接な関係を持ちながら既存の理論モデルの範囲を拡張することを目指しつつ、磁気再結合の物理の核融合研究への新しい応用を開拓することも可能である。

乱流とその効果

 今日、宇宙及び天体プラズマにおいて乱流が普遍的で重要な現象であるとの認識は確立されたものである。このことは惑星や星の内部から、惑星間、星間、銀河間の宇宙空間までにおいて正しい。また一方、乱流は核融合のための磁場閉じ込め研究において、粒子、エネルギー、運動量の輸送を主として担う現象であり、核融合炉の大きさの下限値を決定する因子となっている。プラズマ乱流は、磁気再結合、磁気回転不安定性、異常輸送を引き起こすと同時に、またこれらの現象から乱流自体も誘起される。実験室プラズマ、核融合プラズマ、宇宙と天体プラズマでの解析法はそれぞれ異なるものであるが、それらに共通に関わる物理課題が存在する。それは流体あるいは運動論的なプラズマ物理であり、多階層に及ぶ相互作用であり、また普遍的な相似則である。
 乱流の分析手段は天体プラズマと実験室プラズマでは大きく異なるが、その間には補完的な関係が存在する。また乱流の理論及びシミュレーションにおけるモデリングは、実験室プラズマと天体プラズマで共通の部分がかなりある。
 特に、磁場閉じ込めプラズマの勾配励起の乱流解析モデルは、空間スケールにおいて、イオン回転半径からプラズマの全体スケールまでを、一つの総合シミュレーション計算において同時に取り扱うことも実現している。このプログラムに加わっている日米両国の大学及び研究所は、このようなシミュレーションコードの開発において、その最初期のモデリングから主要な役割を果たしてきた組織である。今後、室内プラズマ実験研究に関わる乱流の理論及びシミュレーション研究は、天体プラズマ分野との研究協力を通してさらに発展した上で、それらに有効に活用されるものと予想される。

高エネルギー粒子

 天体プラズマと核融合プラズマの双方において、高エネルギー粒子は重要な役割を担っている。核燃焼プラズマにおいて、高速アルファ粒子の閉じ込めは最重要な課題の一つである。また高エネルギー粒子によって励起されるMHD不安定性が、その高エネルギー粒子の輸送と損失を招く可能性もある。一方トカマクにおける電流崩壊時に強く励起された電場によって、数メガ・アンペアにも達する量の相対論的にまで加速された閉じ込めの良い逃走電子が発生する。天体プラズマにおいては、高エネルギー粒子の加速機構は重要な研究テーマである。前説にも書かれているように、天体プラズマ中での粒子加速のメカニズムの一つは磁気再結合であり、高速の磁場再結合過程で発生する強い電場によって磁場エネルギーが高エネルギー粒子の運動エネルギーに変換される。別のメカニズムの候補はMHD衝撃波であり、微視的な運動機構が働く。天体プラズマと核融合プラズマでは、高エネルギー粒子の発生源と関連する不安定性は非常に異なるが、波動と粒子との相互作用や位相空間に現れる不規則性等が本質的であるという点、また巨視的なMHD現象と微視的な運動論過程との相互作用が重要であるという点は共通している。基本的な挑戦課題は天体プラズマでも核融合プラズマでも同じである。
 高エネルギー粒子励起の不安定性の本質的に複雑なところは、空間スケールの複雑さに加えて、波動と粒子間、あるいは波動と波動間の非線形作用からもたらされる。高エネルギー粒子励起の不安定性の記述には、これまでのところしばしば理想MHD理論に摂動的に高エネルギー粒子を加えたモデルが使われてきた。しかし本来適切な理論記述は、高エネルギー粒子と熱粒子の両方に運動論を用いることである。このプログラムに加わっている日米両国の大学及び研究所は、このようなシミュレーションコードの開発に成功している。高エネルギー粒子の分布が、励起される不安定性に伴って再分配される問題は、核融合プラズマにおいて極めて重要な研究課題である。最近の特殊計測の開発により、励起不安定性と損失粒子が同時に測定されるようになり、この課題における理論・シミュレーションと実験による検証による協力研究が可能となってきた。

磁気回転不安定性

 宇宙における降着円盤の軸上に周辺の物体が集まる現象は、回転運動量が外に輸送されるという仮定を導入して始めて説明される。その大きさは流体の層流理論から計算される値よりも数桁大きくなる。磁気回転不安定性は、この回転運動量の異常輸送を説明する可能性の高いものとして登場しているが、実験室内でその存在は確認されていない。この実証を目指して、液体金属を用いた実験とプラズマを用いた実験の二つが存在する。これらの実験のため、シミュレーション研究による相補的な研究として、実験結果との直接比較と非線形MHDシミュレーションが計画されている。トカマクにおいては流れの勾配と乱流との強い相互作用が予想されており、本研究課題との関連も強い。シミュレーションコードの開発とその応用において協調的な研究の進展も可能であり、トカマク実験では外部制御による磁場変動の沁み込みと回転運動量の変化を研究することが計画されている。
 天体物理学では磁場の存在は普遍的であり、また重要な働きを担っていることもわかっているが、その発生のメカニズムについては理解が進んでいない。宇宙・天体プラズマ及び実験室シミュレーション実験に対して、導電性流体の乱流とダイナモ過程の計算モデリングが、MRI研究と一部共通の仕組みで計画されている。三次元MHDシミュレーションコードのAthena++ (プリンストン大学)とCANS+ (日本)を用いて、MRI励起のダイナモと降着円盤の物理の研究を進める。プリンストン大学とNINSは、実験室プラズマ現象と天文の観測データをシミュレーション結果と比較するための解析ツールと計算コードを検証するために協力する。MRI励起の乱流、プラズマの加熱現象さらに放射輸送を考慮することにより、観測データと現象論的なアルファ円盤モデルとの食い違いの問題について解決法が見つかることが期待される。