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平成24年10月22日

不純物からの目に見えない光を測る −真空紫外分光計測−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 大型ヘリカル装置(LHD)では、将来の核融合発電を目指して、高温度の水素プラズマを生成して閉じ込める研究を行っていますが、高温プラズマ中の水素は目に見える光を出さないため、通常、プラズマ内部は暗く見えます。しかし実際には、プラズマ内部に含まれている炭素や鉄などの不純物から、目に見えない光が出されています。今回は、真空紫外と呼ばれる目に見えない波長領域の光を計測することにより、それを発光する不純物やプラズマの状態を調べる研究について紹介します。

 光は広い意味で電磁波であり、その波長によって性質が異なります。人間の目に見える光は可視光と呼ばれ、その波長領域は400〜800ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)ですが、電磁波としての光の波長範囲全体からみると、そのごく一部にすぎません。LHDの高温プラズマを普通のカメラで見ると、プラズマの周辺部のみが明るく光って内部は暗く中空のように見えますが、実際には可視光より波長の短い光が内部から放出されています。この目に見えない光には、プラズマ内部に侵入した炭素や鉄などの不純物からの発光が含まれているため、それぞれの発光に対応した波長領域の光を計測することにより、プラズマ内部の不純物の状態を詳細に知ることができます。中でも不純物の挙動を知る上で重要なのが、真空紫外と呼ばれる波長領域の光です。
 太陽光をプリズムで7色に分けるように、光を波長ごとの成分(スペクトル)に分けて調べることを分光と呼び、そのための装置を分光器と言います。一般に、波長が数10〜約400ナノメートルの光を紫外線、数10ナノメートル以下の光をエックス線と呼びますが、真空紫外線とは、これらの領域の一部をそれぞれ含む波長約200 ナノメートル以下から0.2ナノメートル程度までの領域の光を指します。この波長領域の光は大気中では強く吸収されてしまい、真空中のみを伝わることからそのように呼ばれています。真空紫外領域では、計測するための光路全体を真空状態に保つ必要があり、また、観測波長が短いため、特殊な検出器が必要になるなど、真空紫外領域の分光器の構成は可視光領域に比べて複雑で大がかりになります。
 LHDでは、このような真空紫外分光計測により、高温プラズマ中の不純物の研究が行われています。また、LHDの温度の高いプラズマを利用して、特定の元素を不純物としてごく少量プラズマ中に入射して、その発光を分光計測することで、その元素の原子過程などの基礎研究に応用する実験も行われています。最近では、ITER(国際熱核融合実験炉)のプラズマ対向壁に使われるタングステンや、半導体のリソグラフィーへの応用で重要なスズや希土類元素の発光スペクトルがこの方法で調べられました。実験では発光する場所のプラズマ温度と発光スペクトルの関係が明瞭に観測され、それを理論計算による予想と比較しました。その結果、入射した元素の発光に寄与するイオン状態が特定され、例えばタングステンの場合では、これまであまり着目されていなかったイオン状態の寄与が無視できないことが明らかになりました。今回の実験結果をさらに詳細に解析することにより、これまで知られていなかったスペクトル線の同定や原子理論モデルの検証が進展し、プラズマ中の不純物の振る舞いの解明にもつながる成果が期待されます。


以上