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平成25年3月19日

遠赤外レーザー光を用いたプラズマ密度計測の高度化

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ性能も年々向上し、より高い温度、より高い密度のプラズマを実現しています。こうした性能の向上したプラズマを詳細に調べるためには、従来の計測手法を高度化して、測定の精度を向上させることが必要となります。今回は、レーザー光を用いてプラズマ中の電子の密度を測る方法の高度化に関する研究と、それに向けて開発を進めているレーザー装置について紹介します。

 自動車のガソリンエンジンでは、霧状にしたガソリンをエンジンルームに注入しますが、効率よく出力を得るためには、霧状のガソリンを最適な「濃さ」にすることが必要です。プラズマの電子密度は、プラズマの「濃さ」を示す指標であり、この値を基に、プラズマに注入する水素ガスの量をコントロールします。また、プラズマの振る舞いを調べる上でも電子密度は重要な値で、精度高く測定することが求められています。
 それでは、電子密度はどのようにして計測するのでしょうか? コップに水を入れて斜めから光を入れると、水面で光は屈折しますね。これは、空気と水の屈折率が異なるためで、この屈折率は物質やその密度に依存します。そして、光は電磁波ですが、その物質中を伝わる速度は物質の屈折率で変わるため、水面で光は屈折するのです。プラズマの屈折率も電子密度で変わります。電磁波をプラズマ中に入れると、空気中よりも速く進むため、プラズマを透過した電磁波は空気中を透過した電磁波よりも早く検出器まで到達します。この到達する時間差は電子密度が高いほど大きくなるので、この時間差を測定することにより、プラズマの電子密度を知ることができます。
 ところが、プラズマ中を伝わる電磁波の周波数が低くて波長が長いと、電子密度が高くなるにつれて、電磁波は屈折してまっすぐ進むことができなくなり、測定が難しくなります。これまでのプラズマ実験における電子密度では、波長1ミリメータ程度のミリ波で測定が可能でしたが、性能が向上して密度が高くなったプラズマには、波長0.1ミリメータ程度の「遠赤外線」のレーザー光が適しています。LHDでは、波長0.119ミリメータのアルコールレーザー装置を開発し、通常の実験で使用しています。しかし、最近、プラズマ性能が向上して、当初の目標を大きく上回る高密度プラズマの生成に成功しています。そこで、そのような超高密度プラズマの測定のため、0.05ミリメータ程度とさらに短い波長のレーザー装置を開発したところ、その出力パワーは2.4ワットと遠赤外領域では世界最高を記録しました。
 このレーザー装置のもう一つの特徴は、一つのレーザー装置で0.057ミリメータと0.048ミリメータの二つの波長のレーザー光を同時に発生させることができる点です。時間差の測定はとても高精度が求められるため、レーザー装置や光学部品の振動による誤差を小さくする必要があります。一つのレーザー装置で2つの波長の同時測定を行い、振動による誤差を1/100以下に低減できることを実証しました。
 遠赤外線は「光と電波の境界」と言われ、発生や測定が難しいこともあり、これまで産業応用から取り残されていました。そのため市販品が限られていることもあり、LHDでは高精度の測定装置を作るために、中部大学等との共同研究でレーザー装置を自主開発して運用しています。遠赤外領域は、近年「テラヘルツ領域」とも呼ばれて、病理細胞診断、材料や絵画などの透過画像診断など、様々な分野に応用しようという機運が高まり、研究が盛んになってきています。核融合プラズマの研究に必要なレーザー装置の開発はもちろんですが、こうした核融合研究で培った技術の産業応用にも期待が寄せられています。


以上