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平成25年4月15日

スーパーコンピュータを用いた壁材料のシミュレーション研究

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 大型ヘリカル装置(LHD)のように、磁場によりプラズマを閉じ込めている装置では、高温プラズマが容器の壁に直接触れることはありませんが、外側の温度の低いプラズマの一部は、受熱板に入り込むなど、壁に影響を与えます。こうした「プラズマと壁との相互作用」は、これまで主に実験により研究が進められてきましたが、最近、スーパーコンピュータを使ったシミュレーションによる研究が発展してきています。今回は、プラズマとの相互作用により、壁材料がどのような影響を受けるのか、についてシミュレーションにより調べている研究を紹介します。

 将来の核融合発電を実現するためには、高真空の容器の中で、燃料ガスを1億度を超える高温のプラズマ状態にして保持する必要があります。そのため、磁場の「かご」の中にプラズマを閉じ込めて、容器の壁に高温のプラズマが直接触らないようにしています。一方、この磁場の「かご」から漏れ出た比較的温度の低いプラズマは、「かご」の外側から伸びる磁力線に沿って、閉じ込められたプラズマから遠く離れた場所に導かれ、そこに置かれた受熱板に入ります。そのため、長期間にわたってプラズマが入ることにより、受熱板は少しずつ損耗していくことになります。
 こうした材料の損耗を抑えることは、将来の核融合発電所の設計にとって重要なため、長期間のプラズマ照射に耐えられる材料の開発を進めています。そのためには、プラズマが壁材料に及ぼす影響やその時に生ずる現象を調べることが必要です。このような「プラズマと壁との相互作用」はLHDでも調べられていますが、実験だけでは細部を明らかにすることは難しいため、スーパーコンピュータによるシミュレーション研究を相補的に行って、観測される現象の背後にあるメカニズムの理解を進めています。
 シミュレーションでは対象とする現象をモデル化するのが一般的ですが、今回の研究では、材料を構成する原子そのものに注目し、その周りに存在する電子の状態を量子力学に基づいて計算しています。実験で観測された材料の性質などをモデル化に用いることなく、原子の種類と位置関係だけを指定するほかは何も用いないという意味で、「第一原理シミュレーション」とも呼ばれています。
 これまでのLHDをはじめとする核融合プラズマ実験装置では、受熱板の材料として炭素(カーボン)材が用いられてきましたが、次世代の装置では、高耐熱金属であるタングステンを使うことが検討されています。そこで、タングステン材が核融合生成物であるヘリウムに照射されたときの現象をシミュレーションしたところ、ヘリウム原子は、ばらばらの状態で中に入っても、タングステン中ではお互いに集まって、集団として存在する傾向にあることが分かりました。実験では、ヘリウム原子は、タングステン中でヘリウム溜り(バブル)とよばれる局所的にまとまった構造を形成することが観測されていますが、シミュレーションの結果はこれをよく説明しています。
 第一原理シミュレーションでは精度の高い結果が得られる一方、個々の電子に注目しているため、膨大な計算量となり、計算にかかる時間とコストの制約から、大きな系や広い範囲の計算に適用することは困難です。今後は、第一原理シミュレーションによる研究を進めるとともに、より大きな系に適用可能な手法を組み合わせることで、シミュレーションによる壁材料をはじめとするプラズマと壁との相互作用に関する研究をさらに発展させる計画です。


以上