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平成25年8月19日
完璧さをしのぐ綻びのある磁力線のカゴ −摂動磁場の効果−
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)では、磁力線で編まれた「カゴ」の容器に、数千万度を超える超高温のプラズマを閉じ込めています。LHDのカゴは、磁場を作る超伝導コイルの製作精度の高さと長年にわたる基礎研究の積み重ねにより、ほぼ「完璧」な状態に仕上がっています。ところが最近の研究により、カゴの表面を変化させて、敢えて少しだけカゴに「綻(ほころ)び」を持たせると、プラズマ中への不純物の侵入が抑えられるなど、プラズマ周辺部の熱や粒子特性に「味わい深い効果」が得られることが分かってきました。今回は、こうした「ほどよい綻びのあるカゴ」が示す特性について紹介します。

 超高温のプラズマは目には見えない磁力線のカゴに閉じ込められていますが、このカゴは鉄やコンクリートと違って高温で溶けることがないため、プラズマにとっては鋼鉄よりも頑丈な容器ともいえます。磁力線のカゴは編み方の違う生地を何枚も重ねたような層構造になっており、その1枚1枚には磁力線が整然と織り込まれています。超高温のプラズマをしっかりと閉じ込めるためには、この層構造の磁力線の生地が、乱れることなく織り込まれている必要があります。ところが、このような完璧な磁力線のカゴは、確かに中心部の超高温プラズマの閉じ込めにはよいのですが、低い温度が望まれるカゴの外側のプラズマの温度を上げてしまうなど、時として「完璧さ」が裏目に出ることもあります。
 そこで、完璧に編まれた磁力線のカゴの表面だけにわずかな磁場の「乱れ」を加えて織り目を変化させ、少しだけ綻びのあるカゴにすることを試みています。わずかな変動のことを「摂動(せつどう)」ということから、これを「摂動磁場」と呼んでいます。LHDでは、カゴ本体を作る超伝導コイルとは別に、カゴに摂動磁場を作るために、上下で1対の小さな円形コイルが10対設置されています。これらのコイルが作る磁場の強さは、超伝導コイルが作る磁場の強さの1,000分の1程度と非常に弱いのですが、このような磁場を重ねることによって、磁力線のカゴの表面のごく薄い領域にわずかな綻びを作ることができます。これは堅くて丈夫なカゴの表面を、薄くて柔らかい布で部分的に覆ったような状態ともいえます。
 では、この綻びはどのような役割をするのでしょうか。LHDにおける実験やコンピュータを用いたシミュレーション研究により、このような綻びのある構造は、不純物をカゴの表面近傍に留めて、プラズマ中心部への侵入を防ぐ効果のあることが分かってきました。真空容器から出てくる鉄や炭素などの不純物がプラズマ中に侵入するとプラズマの温度を下げる原因となるため、この効果はプラズマの性能を向上させる上で重要です。さらに最近の実験により、カゴの表面の綻びは、カゴの外側に出てきたプラズマが流れ込む機器への入熱を和らげる効果があることも確認されました。このような効果は将来の核融合炉でも必要と考えられており、磁力線のカゴの表面に作るわずかな綻びが核融合発電の実現に大きな貢献をする可能性があります。
 徒然草の第137段に、「花は盛りに、月は隈なきをのみ、見るものかは」という一節があります。完璧な状態でない方がかえって趣深いという意味ですが、プラズマを閉じ込める磁力線のカゴも、少し綻んでいる方がよい場合もありそうです。

以上