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平成26年9月8日
電子の動きからイオン温度を測る -マイクロ波協同トムソン散乱法-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 将来、核融合によりエネルギーを取り出すためには、1cc当たり100兆個の密度で、水素イオンの温度を1億2,000万度以上にする必要があります。大型ヘリカル装置(LHD)では、9,400万度のイオン温度を達成していますが、この温度計測には、プラズマ中に混入した不純物イオンが出す光を利用しています。ところがプラズマの性能が上がると不純物も減少してくるため、イオン温度の計測に支障をきたしてきます。今回は、核融合研究で一番大切であるにもかかわらず計測が難しいイオン温度の計測手法として、LHDで開発を進めているマイクロ波を用いた協同トムソン散乱法について紹介します。

 核融合プラズマは水素イオンと電子からなりますが、電子に比べて水素イオンの計測は簡単ではありません。高温プラズマ中でも電子が全てはぎ取られていない不純物イオンは光を出すので、温度などの計測に利用できるのですが、電子を持っていない水素イオンは光を出さないため、同様な計測ができません。また、プラズマ中の電子は軽くて動きやすいため、マイクロ波やレーザー光に応答して精度よく密度や温度を計測することができますが、水素イオンは約1800倍と電子よりずっと重いため、マイクロ波やレーザー光の影響を受けにくく、それらを用いた直接の計測は大変困難です。
 そこで、水素イオンの温度や密度を計測するために、周波数77GHz(1GHzは10億ヘルツで、電子レンジでは2.45GHzのマイクロ波が使われています)、波長3.8mmのマイクロ波を用いた新しい計測手法の開発に取り組んでいます。でも、電子にしか反応しないマイクロ波を用いて、どうやってイオンを計測するのでしょうか? プラスの電気を持ったイオンとマイナスの電気を持った電子は、プラズマ中では全体的に電気的な中性を保つように一緒に動いています。そこで、イオンの運動に追随して動く電子の運動に注目して、マイクロ波をプラズマに入射したときに、このような電子の運動により散乱したマイクロ波を計測すると、イオンの運動を知ることができます。イオンと電子が「協」力して「同」じように動くので、この運動は「協同」運動と呼ばれ、このような電子の協同運動を散乱計測で計測する手法を協同トムソン散乱計測と言います。イオンの運動を直接は測定できないものの、イオンと一緒に動く電子をマイクロ波で計測することによって、イオンの運動を間接的に計測することができるのです。これは、あたかも湖の水面を泳ぐ白鳥の動きを、白鳥を見るのではなく、白鳥が作る水面の変化を見て白鳥の動きを知ることに似ています。
 マイクロ波には、プラズマ加熱用の大出力のマイクロ波発生源を用いますが、協同トムソン散乱で計測する信号はとても微弱で、入射したマイクロ波の強度の100億分の1程度の信号です。ちょっとした雑音が計測に大きな影響を与えるので、特別な計測装置の開発と慎重な調整が必要です。マイクロ波協同トムソン散乱では、プラズマ中のイオンの温度と密度だけではなく、プラズマを加熱する高エネルギーイオンも計測することができます。
 マイクロ波協同トムソン散乱法は、将来の核融合炉では必須の計測手法と考えられており、現在フランスで建設中のITER(国際熱核融合実験炉)にも、この計測装置が設置される予定です。ITERでの装置はデンマークのグループにより開発が進められていますが、このグループと情報交換をしながら、LHDにおける計測性能の向上を図っています。

以上