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平成27年10月5日
不純物が自然に少なくなるLHDプラズマ
 -周辺プラズマの不純物輸送研究-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合発電を目指した高温プラズマは、目に見えない磁力線のカゴでドーナツ型に閉じ込めることで、真空を保持するための真空容器には触れないようになっています。とは言っても、高温プラズマが真空容器に完全に触らない訳ではありません。真空容器がステンレス鋼製であれば、プラズマ実験中にステンレス鋼の構成元素である鉄がプラズマに流入します。鉄イオンはプラズマからエネルギーを吸収し、それを光の形で放出するため、プラズマの性能が著しく劣化することが分かっています。そこで世界の核融合実験装置の多くは、ステンレス鋼製真空容器の表面全体を炭素タイルで覆うようにしています。もちろん、炭素タイルから出た炭素イオンがプラズマ中に混入しますが、炭素は鉄のような重たい原子ではないので、プラズマに与える影響を小さく抑えることができます。ところが、大型ヘリカル装置(LHD)では、真空容器表面のほとんどがステンレス鋼であるにもかかわらず、他の実験装置で観測されたような鉄イオンによるプラズマ性能の劣化は全く観測されていません。なぜでしょうか?この謎解きが今回のトピックスです。

 ドーナツ型のプラズマを閉じ込めるための磁力線は2種類に大別されます。プラズマの大部分に存在してドーナツを無限に周回する磁力線と、プラズマの周辺部(真空容器に近い側)に存在して、最終的には真空容器の一部に配置されたダイバータ板と呼ばれる受熱板に到達する磁力線です。LHDの大きな特徴は、周辺部の磁力線が縦横に複雑に捻じれていて、磁力線がダイバータ板に到達するまでの長さが長いことです。最も長い磁力線は1km以上になり、これは他の実験装置の10倍以上の長さです。通常、電子やイオンは、プラズマ周辺ではこの磁力線に沿って運動し、最終的にダイバータ板に到達します。その運動を反映し、結果としてプラズマからダイバータ板まで、磁力線に沿った電子やイオンの密度や温度の勾配が発生します。ここで、勾配とは、密度や温度がある距離離れたところでどれだけ違うかを表すものです。一般的にプラズマの周辺部では、密度の勾配が大きくなると、鉄イオンのような不純物はプラズマからダイバータ板へ向かって押し戻されます。逆に温度の勾配が大きくなると、不純物はダイバータ板からプラズマに向かって進むようになります。LHDでは、周辺部の捻じれ磁力線の距離が長いため、プラズマとダイバータ板の間の温度の勾配が自然と小さくなっています。一方で、プラズマの素である水素ガスを注入すると、ガスが電離するのに必要な長さが短いため、水素ガスは捩れ磁力線の途中で水素イオンになり、そこで密度が増加します。すると、密度の勾配が大きくなり、これまで真空容器表面やダイバータ板から放出されプラズマ側へ移動していた不純物が向きを変え、ダイバータ板へ押し戻されるようになります。更に密度を上げると、ますますダイバータ板へ向かうようになり、不純物はプラズマに侵入しなくなります。この現象を「不純物遮蔽」と呼んでいます。LHDではこの不純物遮蔽効果が非常に有効に機能し、プラズマ中での不純物量を低減していた訳です。

 LHDでは最近、不純物イオンが発する極端紫外領域(紫外線とX線の間の波長領域)における光の強度の2次元構造を精密に観測できるようになり、プラズマ周辺に不均一に存在する不純物イオンの振舞いをより詳しく研究できるようになりました。そして、その観測結果を計算機シミュレーションと比較することで、プラズマ周辺の不純物の振舞いを、捻じれた磁力線の構造と直接比較して調べることが可能になり、不純物遮蔽に関する物理的理解を更に進めることができるようになりました。また、周辺部の捻じれ磁力線の構造を、LHDの上部と下部に設置した電磁石で作った磁場により少し変形させることで、より積極的に不純物遮蔽を促進できることも明らかになりつつあります。これらの成果はLHDプラズマの、より安定な定常維持に向けた大きな進歩となります。今後の更なる研究の発展が期待されています。

以上