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平成27年11月16日
プラズマの「紐」の振る舞いを計算機シミュレーションで調べる
-周辺プラズマでのミクロな効果-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)のような高温プラズマ実験装置では、真空を保持するための真空容器の中に、磁力線のカゴを生成することによって高温高密度のプラズマを閉じ込めています。しかし、実際には、カゴの中心の熱いプラズマの一部がまわりに徐々に漏れ出てきます。この漏れ出てきたプラズマのことを周辺プラズマと呼びます。また、最近の実験では、中心部から間欠的に飛んでくる、磁力線に沿った紐状のプラズマの塊(プラズマブロッブ)が観測されていて、このような紐状の塊も、周辺プラズマの供給源であると考えられています。核融合発電を実現するためには、周辺プラズマを制御することも重要な課題の一つです。今回は、周辺プラズマを調べるうえで重要となるプラズマの「紐」についての計算機シミュレーション研究を紹介します。

 周辺プラズマは、通常、磁力線に沿って動くと考えられています。このため、磁力線の終端に「ダイバータ板」と呼ばれる金属板を設置し、周辺プラズマの粒子が最終的にダイバータ板にぶつかるようにして、真空容器の壁に当たらないようにしています。もし、真空容器の壁にプラズマの粒子が当たると、壁の金属原子が弾き出されて、プラズマの温度を下げてしまうからです。しかし、プラズマの「紐」は、磁力線の曲がり方などによっては、磁力線を横切って動き、秒速数キロメートルにもなるスピードで真空容器の壁に向かいます。このスピードは、周辺プラズマが磁力線に沿ってダイバータ板に向かうスピード(通常、およそ秒速数十キロメートル)よりは遅いですが、ダイバータ板までの磁力線の長さよりも真空容器の壁までの距離のほうが圧倒的に短いため、プラズマ粒子がダイバータ板に到達する前に、壁にぶつかってしまうかも知れないのです。このようなプラズマの「紐」の振る舞いを制御するためには、まずはその性質を理解することが必要です。プラズマは複雑なため、その理解には計算機シミュレーションが欠かせません。
 これまでの「紐」についてのシミュレーションは、プラズマの紐状の塊全体の動きに注目したものであり、塊を構成しているプラズマ粒子1つ1つの運動は計算していませんでした。この方法では、個々の粒子が引き起こす効果、すなわちミクロな(微視的な)効果を取り入れることができません。そのため、例えば、プラズマ粒子がダイバータ板にぶつかる際にできるシースと呼ばれるミクロな電場が計算できないため、プラズマの「紐」の内部の電流回路が、正しく再現されているのか分からないという問題がありました。電流回路は、磁場の中でのプラズマの「紐」の振る舞いを調べる際に重要となるので、ミクロな効果を取り入れたシミュレーションで検証しなければなりません。そこで、核融合科学研究所のスーパーコンピュータ「プラズマシミュレータ」を用いて、「紐」を構成する多数のプラズマ粒子1つ1つの運動と、これらの粒子が作る電場の時間変化を計算するという大規模シミュレーションを行っています。このシミュレーションでは、ミクロな電場であるシースも矛盾なく計算できるため、「紐」の内部の電流やプラズマ粒子の動きを正しく再現できるようになりました。そして、このシミュレーションによって、プラズマの「紐」の内部をらせん状に流れる電流系の存在を確認しました。また、「紐」の内部の電位構造等を詳しく調べることも可能となりました。「紐」の内部には、その断面で見ると、電位が高い部分と低い部分があるのですが、その電位の高低に合わせて、プラズマの温度も高低の分布を持つことが明らかになりました。
 プラズマシミュレータは2015年6月に更新され、計算性能が従来に比べて8倍以上に向上しました。今後は、この新プラズマシミュレータを用いて、更に大規模なシミュレーションを行い、プラズマの「紐」の振る舞いを、より詳しく検証していきます。そして、「紐」を含めた周辺プラズマの挙動の予測を可能にし、核融合発電の実現に貢献することを目指します。

以上