核融合科学研究所 > 一般の方へ > 研究活動状況 > 核融合プラズマを長時間維持するためのコツが分かってきた

平成28年6月1日
核融合プラズマを長時間維持するためのコツが分かってきた
-ミクロな堆積層がプラズマの持続を支配-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 

 大型ヘリカル装置(LHD)は、2013年度に2,300 万度のプラズマを48分間維持することに成功しています。これは、高性能プラズマを長時間維持させた世界最高の記録ですが、核融合発電の実現には1億度以上のプラズマを1年中維持する必要があります。しかし、世界最高の長時間維持に成功したおかげで、もっと長い時間に渡ってプラズマを維持し続けるためのコツの一つが分かってきました。研究で壁にぶつかったときはいつも「1.なぜうまくいかないのか理由を見つける」「2.うまくいくにはどうすれば良いか考える(うまくいくコツを見つける)」「3.思いついたコツを試してみる」という道を辿ることが必要です。今日は皆さんと一緒に1⇒2⇒3の順番でプラズマの更なる長時間維持を目指す道を辿ってみましょう。

  1.  まず、高性能プラズマを何時間も維持し続けることがなぜ難しいのかを調べてみたところ、その理由の一つが、LHDの真空容器の壁に形成される混合堆積層と呼ばれる層が剥離し、プラズマの温度を下げてしまうからだということが分かりました。
     ここで、混合堆積層について説明しておきましょう。LHDの壁はステンレス鋼と炭素でできていますが、プラズマ中の粒子が壁に衝突することで壁材料が削り取られ、削り取られたカスが吹き溜まりのような所に積もって堆積層が形成されます。この層は炭素や鉄(ステンレス鋼の成分)の層が混合して形成されているため、混合堆積層と呼ばれています。混合堆積層は厚さが1マイクロメートル(1ミリメートルの1,000分の1)、各層の厚さは10~100ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)というサイズです。これまでも、場合によってはプラズマの性能に影響を及ぼすものとして注目されており、壁表面のいろいろな場所から混合堆積層の破片を切り出して、電子顕微鏡を用いてその特性が調べられてきました(バックナンバー191を参照)。
     今回は、混合堆積層とプラズマの長時間維持との関係を明らかにするため、冒頭に紹介した記録を達成した直後のLHDの真空容器の壁表面を調べ、プラズマを終了させる原因の一つとなった混合堆積層の場所を突き止めました。そして、そこから混合堆積層の破片を切り出して微細構造と組成を詳しく解析したところ、全体的に見ると炭素が主成分なのですが、各層で炭素と鉄の割合が異なっており、それらが折り重なってミルフィーユというケーキのような複雑な構造をしていることが分かりました(ミルフィーユケーキは、異なる材料でできた層がいくつも重なっています)。さらに、その混合堆積層の強度を、超微小機械的特性試験機を使って調べたところ、このミルフィーユ構造が剥離をもたらす要因だったことが分かりました。ミルフィーユケーキにフォークを刺すと脆く崩れてしまいますよね。スケールはとても小さいのですが、混合物堆積層も同じように外から僅かに力を加えただけで、脆く崩れて剥離してしまうのです。LHDのプラズマの体積は30立方メートルですが、1マイクロメートルというとても小さな堆積層がそのプラズマの持続を支配してしまうというところがとても興味深いですね。
  2.  次に、このような混合物堆積層の生成と剥離をどうすれば防止できるか、つまり、プラズマをもっと長時間に渡って維持し続けるためのコツを考えてみましょう。答えは意外と単純で、核融合炉の壁の材料が全て1種類の材料だけで構成されていればミルフィーユ構造の堆積層は生成されません。しかも、その材料はプラズマにできるだけ削り取られない強い材料であれば完璧です。
  3.  早速、思いついたコツを試してみたいところですが、核融合炉の壁の全ての場所に対応可能な素晴らしい材料は残念ながらまだ見つかっていません。そのため、プラズマの更なる長時間維持の実現は、まだ道半ばです。思いついたコツを現実に試すことができるように、核融合科学研究所では、金属やセラミックス材料を混ぜ合わせた強くて丈夫な材料や、炭素材料や銅合金の表面にタングステンと呼ばれる高融点金属を張り合わせた熱に強い材料の開発なども強力に推し進めています。
     今後の展開にどうぞご期待下さい。

以上

図
(a) プラズマの長時間維持を停止させる要因となっていた混合堆積層の写真です。かさぶたのように脆く剥がれ落ちてきます。
(b) 混合堆積層(a)の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察しました。集束イオンビーム加工観察装置(FIB)という装置を用いて、超微小加工を行い、TEMで観察できる試料を作りました。黄色の破線で囲んだ内側の領域の炭素及び鉄の分布を示しています。赤色、黄色が濃いほど炭素及び鉄の量が多いことを意味しています。炭素と鉄がミルフィーユケーキのように折り重なっていることが分かります。このような組成と構造を持つ混合堆積層はとても脆いことが分かりました。