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平成29年3月1日
電子からの熱によってイオンを加熱する
-高出力・高周波電磁波による加熱実験-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 将来の核融合炉では、水素同位体の核融合反応で生じる高エネルギーのヘリウムがプラズマを加熱することで、核融合反応を持続します。ヘリウムは、プラズマ(イオンと電子に分離した状態)の主に電子の方を加熱します。加熱された高温の電子から、イオンへと熱が移動することによって、間接的にイオンが加熱されます。外部から加熱を行わずに核融合反応を持続させるためには、電子からイオンへと移動する熱によって、1億度以上のイオン温度を保持する必要があります。従って、電子加熱が主である状況において、電子からイオンへと熱が移動する過程を通して、どの程度高いイオン温度が実現されるのかを明らかにすることが、核融合発電実現に向けての重要な課題の一つとなっています。
 電子からイオンへの熱の移動は、プラズマ中で電子がイオンと衝突することによって起こります。電子とイオンの衝突が十分な頻度起こるためには、プラズマの密度が高いことが必要です。また、熱は温度が高い方から低い方に向かって移動しますので、電子からの熱移動でイオンを加熱するためには、電子温度がイオン温度よりも高くなければなりません。イオン温度が電子温度よりも高い場合に、イオンから電子に向かって熱が移動します。つまり、電子からイオンへの熱移動を調べるためには、高密度で、かつ、電子とイオンの温度差が十分大きなプラズマを生成する必要があります。
 大型ヘリカル装置(LHD) では、プラズマを加熱するために、家庭用電子レンジを大掛かりにしたような、ジャイロトロンと呼ばれる高周波電磁波の発生装置が使用されています。ジャイロトロンによって生成される電磁波は、非常に周波数が高い(約70ギガ~150ギガヘルツ)ため、プラズマ中の電子を加熱しますが、イオンは加熱しません(つまり、電子への加熱が主である状況をつくることができます)。また、この電磁波は、波長が数ミリメートルであることからミリ波と呼ばれますが、LHDでは、約1,000キロワット (家庭用電子レンジの約千倍) の出力のジャイロトロンを5台用いて、最大5,400キロワットのミリ波をプラズマ中に入射することが可能です。この高出力のミリ波を用いることで、高密度で、電子温度がイオン温度に比べて十分高いプラズマを生成することが可能となりました。プラズマ中に入射するミリ波の出力を徐々に増加させた実験では、ミリ波出力の増加に伴って電子温度が上昇し、電子とイオンとの間の温度差が大きくなるにつれ、イオン温度が上昇していくことが明確に示されました。さまざまな密度のプラズマを生成して同様の実験を行った結果、プラズマの密度の増加に伴い、電子とイオンの衝突頻度が増加することで、電子からイオンへと移動する熱量が大きくなり、プラズマ中のイオン圧力(温度と密度の積)の増加量が大きくなることが示されました。
 この研究によって、プラズマ中の電子が主として加熱される状況において、電子からイオンへの熱の移動が起こり、イオン温度が上昇することを実験的に初めて明らかにしました。また様々な密度条件でのイオン加熱とその加熱量を示すこともできました。この結果は、将来の核融合炉において、外部からの加熱入力が無い状況で、どの程度のイオン温度が達成されるのかを見通す上で、重要な知見となります。

以上

図: (a)は電子温度の分布、(b)はイオン温度の分布。▲(青色)はプラズマ中へのミリ波入射を行っていないとき、●(赤色)はミリ波入射を行ったときの温度を示します。ミリ波を入射し、電子温度を上昇させることで、電子からイオンに熱が移動し、イオン温度が上昇しています。この時のプラズマの平均密度は21兆個/ccです。