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平成29年10月4日
プラズマから「流れ去る」不純物
-不純物遮蔽効果の分光計測による観測-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)では、磁力線でドーナツ型のカゴを作り、高温のプラズマを閉じ込めています。閉じ込めたプラズマの中には、炭素や酸素、金属等のイオンが含まれており、これらを「不純物」と呼びます。不純物イオンはプラズマからエネルギーを吸収して光として放出し、プラズマの温度を下げてしまうため、磁力線のカゴの内部でプラズマの温度を高く保つためには、不純物を少なくする必要があります。実はLHDは、不純物が少ないプラズマを作るのに適した装置なのです。不純物イオンがプラズマに侵入しにくくなる「不純物遮蔽」という現象が起こるためです。今回は、この不純物遮蔽に関する最近の観測結果を紹介します。
 どのように不純物が遮蔽されるのか、LHDの主要な不純物である炭素イオンを例にとって説明してみましょう。LHDの磁力線のカゴの周辺には、長短さまざまな長さの磁力線が折り重なった、複雑な磁力線構造を持つ「エルゴディック層」と呼ばれる領域があります。これらの磁力線は、最終的には、プラズマからは離れたところに設置されている「ダイバータ板」と呼ばれる受熱板に導かれます。磁力線に沿ってカゴの中から移動してきたプラズマの粒子がダイバータ板に衝突すると、ダイバータ板の材料である炭素原子がはじき出されます。炭素原子は電離し炭素イオンとなって磁力線に巻きつくように運動しながらエルゴディック層へと向かいます。エルゴディック層では、磁力線に沿った方向にプラズマの温度や密度の勾配があり、それによって炭素イオンに力が加わります。ここで、炭素イオンをプラズマに引き込む力よりもダイバータ板に押し戻す力のほうが強ければ、ダイバータ板に向かう方向に炭素イオンの「流れ」が生じ、プラズマへの侵入が妨げられます。つまり、エルゴディック層の中での不純物イオンの流れが不純物遮蔽をもたらしていると考えられているのです。
 このような考え方が妥当であるのかを実験で確かめるためには、エルゴディック層の中に不純物イオンの流れが存在するのかを計測することが一番直接的な方法です。ここで役に立つのが、プラズマが発する光を波長ごとに分けて計測する「分光」という手法です。プラズマ中の不純物イオンは、その種類によって異なる波長の光を放出します。これを不純物イオンの「線スペクトル」といいます。この線スペクトルの波長と光の強さを調べることにより、不純物の種類と量が分かります。そこで、LHDでは、エルゴディック層の中の不純物が発する「真空紫外光(私たちが目で見ることのできる「可視光」よりも波長の短い光)」を細かい空間間隔で観測する分光計測システムの整備を進めてきました。そしてこの度、このシステムを利用してプラズマの電子密度を増加させた時の、炭素イオンの線スペクトルの変化を計測しました。その結果、炭素イオンの線スペクトルの波長の中心が短波長側にシフトすることが観測されました。この波長シフトは「ドップラー効果」によるもので、炭素イオンに流れがあり、その流れが観測者(計測器)に近づく方向であることを示しています。この計測によって分かった流れの方向を、理論を基にした数値シミュレーションによる計算の結果と比較したところ、不純物イオンがプラズマからダイバータ板に押し戻される方向、つまり不純物が遮蔽される方向であることが分かりました。また、計測によって、プラズマの電子密度を増やすと流れの速度が大きくなる傾向があることも分かり、これもシミュレーションの結果と良く一致しました。この流れの速度の増大は、電子密度が増えて密度の勾配が大きくなるにつれて、不純物イオンに働く力が強くなることで生じていました。つまり、今回の計測で、「不純物に力が働き、流れが駆動される」という考えを、実験で初めて検証することができました。今後は、このような計測を通して、不純物イオンが効率的に遮蔽され、磁力線のカゴの外側に留まっていてくれるような不純物制御手法の研究を進めていきます。

以上

図1 LHDの真空容器の断面図と磁力線の構造。磁力線のカゴでプラズマを閉じ込める「閉じ込め領域」、その周辺の「エルゴディック層」、その層と「ダイバータ板」を連結する「ダイバータレッグ」が主な構造です。エルゴディック層では磁力線に沿った方向の力が不純物イオンに働き、不純物の「流れ」が駆動されます。

図2 3価の炭素イオンの真空紫外光スペクトル。線スペクトルの波長シフトは、炭素不純物イオンに流れがあること、その流れの速度のうち計測器に近づく方向の成分は秒速6キロメートル程度であることを示しています。