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平成30年8月8日
プラズマに負けない強い壁を作る
-超熱負荷試験装置で加速する炉壁研究開発-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合研究では近年、プラズマ物理に対する理解が進んだことや、実験装置が大型化したことに伴って、「実際に核融合発電所を作るための工学研究」がより一層重要となってきています。その一つが、熱に強い核融合炉の内壁(炉壁)を作るための研究です。
磁場閉じ込め型の装置では、生成したプラズマを磁力線のカゴで閉じ込めますが、プラズマ中の一部の粒子はカゴから外に出て、装置の内壁に当たり熱を与えます。この熱の面積当たりの量を「熱負荷」と呼びます。内壁の中でも、特にダイバータと呼ばれる部分には、プラズマが壁材料に直接当たるため、熱負荷が大きくなります。将来の核融合発電所では、ダイバータの熱負荷は10 MW/m2(MW=100万W)を超えると考えられています。これは宇宙ロケットのエンジンスカート(火を吹いているところ)の内壁の熱負荷と同程度で、将来の核融合炉ではこれが年単位で壁に与えられ続けることになります。もちろん炉壁は水等の冷却材を流して冷却しますが、それでもこれはとても厳しい条件です。この条件に耐えるため、炉壁の材料や構造には、融点の高さ(高温でも溶けない)と熱伝導の高さ(熱をすばやく逃がせる)が必要となります。そして、世界中の研究グループが、この条件を満たす新しい材料や構造を研究・開発しています。
現在研究中の様々な新材料や材料を接合するための技術が、核融合炉で採用できるのかを判断するためには、それらが「実際に使える」のか調べる必要があります。そこで、核融合科学研究所では、大型の電子ビームを使った超熱負荷試験装置ACT2(Active Cooling Teststand 2)を整備しました。ACT2は、最大出力300 kWの電子ビームを直径2 cmに収束させることで新材料の熱負荷試験を行う装置で、核融合炉で予想される10MW/m2以上の熱負荷を小試験体に与えることができる上に、柔軟な運転が可能です。例えば、熱負荷を徐々に高めていくことで、広い温度範囲で新材料の特性を調べる試験や、電子ビームのONとOFFを数秒で切り替えることで何千回もの熱サイクルを与えて、新材料の熱疲労を調べる試験等も可能です。
 この超熱負荷試験装置ACT2を使った最近の研究成果を、いくつか紹介します。核融合科学研究所では、除熱能力を高めた新たなダイバータを作るために、タングステン(金属の中で最も融点が高い)と銅合金(熱伝導が高い)を接合する新技術を開発しました(詳しくは、バックナンバー276をご参照ください)。そして、この接合技術を用いてダイバータの試験体を作成し、核融合炉で予想される熱負荷を与える試験をACT2で行った結果、高い除熱能力が確認できました。また、炉壁には、ダイバータに比べると熱負荷は少し低いのですが、より高い強度が必要となる部分があります。その部分の材料として有望視されているのが、炭化ケイ素材料や特殊な鋼材です。これらの材料を使って試験体を作成し、ACT2で熱負荷試験を行った結果、材料の破壊等が起こらず、十分な強度があることが確かめられました。さらに、このような材料研究から派生して、熱によって材料が歪む様子を測定する研究がスタートしています。熱負荷を受ける材料の表面の歪みを測定することは既存の手法では困難でしたが、特殊なカメラで観測することで計測する手法を開発中です。また、炉壁を冷やす冷却水の研究も進展しました。冷却能力の向上には、冷却水の流路に凹凸を付けて、水の流れが渦を巻いて進む「旋回流」を作ることが有効だと言われています。そのような旋回流を模擬する試験体を作成し、ACT2で熱負荷試験を行った結果、旋回流による冷却能力の向上がはっきりと確認できました。
 このように、ACT2によって、熱に強い炉壁を作るための工学研究が加速しています。今後も、ACT2を用いた熱負荷試験を重ねることで、炉壁の性能を向上させ、核融合発電の実現に貢献していきます。

以上

超高熱負荷試験装置ACT2(Active Cooling Teststand 2)

図1.核融合科学研究所の超高熱負荷試験装置ACT2(Active Cooling Teststand 2)の写真

ACT2で大型ヘリカル装置(LHD)のダイバータに熱負荷試験を行った時の写真

図2.ACT2で大型ヘリカル装置(LHD)のダイバータに熱負荷試験を行った時の写真。電子ビームによって高い熱負荷が与えられている部分が帯状に赤熱しています。LHDのダイバータには、熱に強い炭素が使われています。