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平成30年12月12日
高速粒子が歪めるプラズマ中の電位
-高精度粒子シミュレーション研究-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 暗く垂れ込む雲の中や、雲と地表との間に、稲妻が走るのを見たことがある人は多いと思います。稲妻が走る瞬間、そこには電流が流れます。水が水位の高いところから低いところへ流れるのと似ていて、電流は「電位」の高いところから低いところへ流れるという性質があります。例えば、乾電池は中に含まれる化学物質の働きによって、プラス極の電位がマイナス極よりも高くなっています。電位の高低差を表すのに使われる「電圧」という言葉は、より馴染み深いのではないでしょうか。プラズマの内部にも、雲や電池の場合と原理は異なりますが、電位の高低差=電位差が生じることがあります。今回は、プラズマの電位に着目した、計算機シミュレーション研究をご紹介します。
 大型ヘリカル装置(LHD)では、強力な磁場を使ってねじれたドーナツ形の高温プラズマを閉じ込める研究を行っています。LHDの高温プラズマは水素ガスを使って生成していますが、そのプラズマの中には、電子と水素イオンの他に、炭素や酸素や金属等のイオンも含まれており、それらを「不純物イオン」と呼びます。不純物イオンがプラズマ中に多く溜まると、プラズマの温度が下がってしまいます。そのため、プラズマ中の不純物イオンがどのように移動していくのか、その流れを明らかにすることは重要な研究課題となっています。
 不純物イオンの流れに重要な影響を及ぼすのが、プラズマ中の電位差です。電気を帯びた粒子は電位差に反応しますが、粒子の電気(電荷)が大きいほど、その反応は敏感です。水素イオンの電荷は1ですが、不純物イオンは大きな電荷を持つため(例えば、鉄イオンの電荷は20以上にもなります)、ほんの小さな電位差にも反応します。そこで、僅かな電位差(ここでは、電位の“歪み”と呼びます)がどのように生じ、不純物イオンの流れにどう影響するのかという問題が、最近注目を集めています。
 核融合科学研究所の理論・シミュレーショングループでは、電位の歪みを生み出す要因として高速粒子に着目し、その歪みを計算機シミュレーションで調べる研究を進めています。ここでの高速粒子とは、プラズマを加熱するために打ち込んだ高速の水素原子が、プラズマの中で高速の水素イオンに変わったものを指します。発生した高速粒子は、磁場の影響を受けたりプラズマの電子やイオンと衝突したりしながら、プラズマの中を移動して徐々に散らばっていき、高速粒子の密度の分布が形成されます。高速粒子は電荷を持っているので、プラズマ中の高速粒子の密度が不均一になると、電荷の多いところと少ないところが生じ、電位の歪みが発生すると予想されます。つまり、電位の歪みを計算するためには、多数の高速粒子一つ一つの移動を追跡して、その結果生じる高速粒子の密度分布を求めることが必要なのです。私たちは、このような高速粒子の軌道を高精度に追跡するシミュレーションコードを開発し、高速粒子の詳しい密度分布を求めることに成功しました。そして、磁場に対して垂直な方向から水素原子を打ち込んだ際に発生する高速粒子は、磁場の弱い領域に閉じ込められやすいという特徴により、プラズマ中に電位の歪みが発生していることが明らかとなりました。さらに、この時に発生する電位の歪みには、プラズマの外側へ向かう不純物イオンの流れを増やす性質があることが分かってきています。
 今後は、この新しいシミュレーションの結果とLHDにおける高速粒子の密度分布や電位の計測結果を詳細に比較することによって、シミュレーションの信頼性を高め、プラズマ中の電位が大きな影響を及ぼす不純物イオンの流れを、より正確に予測することを目指します。

以上

図1 LHDの模式図(左)とその断面図(右)。高速粒子はコイルから離れた磁場の弱い領域に閉じ込められやすいという特徴があります。

図2 シミュレーションで求めた高速粒子の密度(左)と電位の歪み(右)のプラズマ断面上における分布。横軸のRはドーナツ中心からの距離、縦軸のZはプラズマ中心からの上下位置です。