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令和元年5月22日
プラズマの高性能計測技術の開発
-レーザー光を高速で繰り返し発生させるには-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)では、高温のプラズマを安定して閉じ込める研究を行っています。そのためには、プラズマの温度や密度といった情報を正確に計測し、プラズマがどのような状態なのかを知ることが必要です。今回は、米国ウィスコンシン大学との国際共同研究で進めている、プラズマの高性能計測技術の開発研究をご紹介します。
 プラズマは電子とイオンがばらばらになって動き回っている状態であり、温度が高くなるほど、それらの動きは速くなります。LHDでは、1億度を超える高温のプラズマを生成していますが、その電子温度の計測には「トムソン散乱計測」という手法が用いられています。この手法では、強力なレーザー光をプラズマに入射します。レーザー光は、プラズマ中の電子に当たって散乱されます。この時、散乱された光(散乱光)は、ドップラー効果によって、電子の速さに対応して波長が変化します。そのため、散乱光の波長の変化を測定することで、電子の速度の分布、すなわち、温度を知ることができるのです。また、散乱光の明るさを測ることで、電子密度を知ることもできます。LHDでは、プラズマ中の144の場所の電子温度・密度を同時に測って、それらの空間変化を測定しています。これは、世界トップレベルの空間分解能です。
 プラズマの状態を知るためには、空間変化に加えて、時間変化の測定も重要です。トムソン散乱計測は、レーザー光のパルスを何度も繰り返しプラズマに入射することで、時間変化を測定します。LHDのトムソン散乱計測装置の繰り返しの周波数は10~100ヘルツに対応していますが、これを高速化して時間変化をより詳細に測ることができれば、プラズマ中で起きる様々な現象のより深い理解や新発見につながると期待されています。
 そこで、核融合科学研究所は、2017年から米国ウィスコンシン大学マディソン校と共同で、高速化したトムソン散乱計測装置の開発研究を進めています。開発中の計測装置では、現在の装置の標準運転モードである30ヘルツの測定に加えて、500倍の15キロヘルツと約30倍の1キロヘルツの測定が可能になります。ただし、強力なレーザー光を高速で繰り返して長時間発生させ続けると、装置の発熱が問題になるため、短時間動作させた後にしばらく休止し、再び短時間動作させて休止するという、間欠的な運転を行います。そして、この2つの間欠的な高速測定と、通常の30ヘルツの測定を組み合わせることで、詳細な時間変化を測定するのです。
 計測装置の高速化に向けて、まず、強力なレーザー光のパルスを高速で何度も繰り返し発生させる(高繰り返し化)装置の開発に取り組みました。強力なレーザー光は、種となる光のパルスを固体の媒質に入射し、そこで増幅することで発生させます。光を増幅するためには、固体の媒質に外からエネルギーを与えて、励起状態にする必要があります。この際にエネルギーの一部が熱に代わり、媒質が発熱しますが、レーザーパルスの高繰り返し化では、この発熱が問題になります。発熱によって媒質内に温度差が生じると、媒質の場所によって光の進み方が異なるという熱光学効果が現れます(例えば、暑い日のアスファルト上で見られる「陽炎(かげろう)」も熱光学効果によって現れています)。熱光学効果が大きくなると、レーザーパルスの出力が低下したり、光学部品が損傷したりといった問題が起こります。そこで、この熱光学効果を回避する方法を検討するため、媒質内の温度の時間変化を詳細に調べました。その結果、媒質が励起状態になった直後は、媒質内の温度はどの場所でもほぼ等しいことが分かりました。これは、時間が極めて短いため、この時間内では熱が媒質の外へ逃げていくことができないからだと考えられます。この励起直後の温度差がほとんど無い時間内(1ミリ秒以下)に、種となる光のパルスを媒質に複数回入射して増幅することで、熱光学効果を回避して、強力なレーザーパルスを高速で繰り返し発生させることができると分かったのです。
現在、このアイデアを取り入れたトムソン散乱計測装置の開発を急ピッチで進めています。研究の進展にご期待ください。

 

以上

図 レーザー光の散乱を利用したトムソン散乱計測による、プラズマの電子温度・密度計測。散乱光はドップラー効果によって、波長が変化(シフト)します。プラズマの電子温度によって波長の変化が異なる(図中のグラフの青線は温度が高い場合、緑線は温度が低い場合)ため、これを調べることで電子温度と密度が分かります。