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プレスリリース
8,000万度を越えるイオン温度を達成

 

平成23年11月1日

 

 核融合科学研究所(岐阜県土岐市、所長・小森 彰夫)は、我が国独自のアイデアによる世界最大の超伝導定常プラズマ実験装置である大型ヘリカル装置(LHD)の第15サイクルプラズマ実験を7月28日から開始し、10月20日に終了しました。この実験において、プラズマ中心のイオンの温度が8,000万度を超える高温のプラズマを生成することに成功しました。これまでの最高イオン温度は7,500万度であり、核融合エネルギー実現を見込むために必要な1億度以上の目標にさらに、一歩近づきました。図1にその時のイオン温度のプラズマ中の分布を示します。

図1 最高イオン温度を記録したプラズマ中のイオン温度分布
図1 最高イオン温度を記録したプラズマ中のイオン温度分布
            プラズマ断面半径位置0がプラズマの中心

 将来の核融合発電炉では1億度以上の温度で重水素と三重水素の間で起こる核融合反応を用います。1万度以上の温度では、全ての物質はプラズマと呼ばれるイオンと電子に分かれ、電離した気体の状態になります。核融合は水素イオン同士が融合する反応であることから、イオン温度が高いことが必要です。イオンはプラスの電気を持っているため、このプラスの電気同士の間に働く反発力に打ち勝って、イオン同士を融合する距離まで近づけないといけません。このためには、電気の反発力に打ち勝つスピード、すなわち高い温度が必要です。大型ヘリカル装置では水素ガスを用いたプラズマのイオンの温度を8,000万度以上に上げることに成功しました。定常方式では世界最高の記録です。この高温プラズマ状態を詳しく調べることによって、目標である1億度以上に近いプラズマの性質の研究を行い、核融合発電炉の設計を現実的なものにしつつあります。これまで得られたプラズマ性能を表に示します。

プラズマ性能 LHD達成値 LHD最終目標値 核融合条件の目安
イオン温度 8,000万度
(密度13兆個/cc)
1億2千万度
(密度20兆個/cc)
1億2千万度
100兆個/cc
電子温度 2億3,000万度
(密度2兆個/cc)
1億2千万度
(密度20兆個/cc)
密度 1,200兆個/cc
(温度300万度)
400兆個/cc
(1,500万度)
ベータ値
(プラズマ圧力/磁場圧力)
5.1%
(磁場0.425テスラ)
4.1%
(磁場 0.75テスラ)
5% 
(磁場1-2テスラ)
5%
(磁場5テスラ)
定常運転 54分28秒(500kW)
13分20秒(1,000kW)
1時間(3,000kW) 定常(1年)

大型ヘリカル装置(LHD)でこれまで達成されたプラズマ性能の最高値を最終目標値
と核融合条件の目安と比較。赤字は平成23年度の実験で得られたもの。

 

 大型ヘリカル装置は世界最大の定常プラズマ実験装置であり、国内はもとより海外の大学や研究機関の研究者がこれを用いて多くの学術研究を共同で行っています。第15サイクル実験には国内より392名(うち所外288名)、海外から56名の参加により、267件の実験提案がありました。

図2 プラズマ境界に関する国際共同実験を行っている中心研究者たち

図2 プラズマ境界に関する国際共同実験を行っている中心研究者たち

 

 例えば、海外の研究者と次のような国際共同実験を第15サイクル実験から新たに開始しました。現在建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)や将来の核融合発電炉では核燃焼によってプラズマから大きな熱が発生します。このため、運転にはプラズマの位置を精密に把握し、制御することが極めて重要です。プラズマは外部の電磁石による磁場で閉じ込められ、プラズマの境界位置が決まりますが、プラズマがこの位置を変化させることがあります。この重要な課題に、米国の主力トカマク装置を擁するジェネラルアトミックス社にオークリッジ国立研究所(米国)、プリンストン大学プラズマ物理研究所(米国)が加わり、核融合科学研究所と共同で取り組み始めました。図2に国際共同実験を進めている中心研究者の写真を示します。
  この他にも、第15サイクルプラズマ実験ではプラズマの高温高密度化、プラズマ物理学の体系化などの共同研究を国内外の共同研究者と大いに進めることができました。現在、実験データの解析を鋭意進めており、これらの成果を後日、報告したいと考えております。

【本件のお問い合せ先】
      核融合科学研究所 大型ヘリカル装置計画 研究総主幹 教授 山田 弘司
      TEL  0572-58-2200

参考資料
平成23年度第15サイクル実験 運転スケジュール
平成23年度第15サイクル実験 運転スケジュール

イオンの温度が上がった理由: プラズマを加熱する電力は昨年と違いはありません。今回、イオンの温度を上げることができた理由はプラズマの周辺部にあるガスを制御することに成功したことにあると考えています。これまで真空容器の壁に吸着したガスが放出されることによってプラズマの周辺の密度が上がる傾向にありましたが、電磁波によって生成したプラズマを使って、あらかじめ壁を洗浄して吸着したガスを取りのぞくことによって、周辺の密度が下がることが分かりました。図3にあるように周辺の密度を下げるとプラズマ中心部でイオン温度が上がりました。来年度は、高性能排気装置が稼働し始め、特に周辺の密度の制御性が大きく向上しますので、さらに好ましい状況が期待されます。

図3 電磁波により生成したプラズマで真空容器内壁を洗浄する前(青白抜き○)
図3 電磁波により生成したプラズマで真空容器内壁を洗浄する前(青白抜き
と後(赤)の電子密度(左)とイオン温度(右)の比較