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プレスリリース
スーパーコンピュータで10億個のプラズマ粒子を計算-プラズマの紐の動きを粒子レベルで解明-

平成28年12月13日

プレスリリース内容

 自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・竹入康彦)では長谷川裕記助教、石黒静児教授らの研究グループが、研究所のスーパーコンピュータ「プラズマシミュレータ」を用いて、10億個のプラズマ粒子の動きとそれが作る電場を計算し、超高温のプラズマの周辺に現れる紐状のプラズマの動きを、粒子レベル(ミクロレベル)から解明することに世界で初めて成功しました。この研究成果は、核融合発電の実現のために必要な、紐状のプラズマの挙動の解明と予測制度の向上に貢献するものです。

 本研究成果は、11月29日から12月2日に仙台で開催されたプラズマ・核融合学会第33回年会において招待講演として発表され、大いに注目を集めました。

研究の背景

 核融合発電は高温のプラズマ中の核融合反応を利用します。核融合発電を実現するためには、磁場でプラズマをドーナツ状に閉じ込め、プラズマの中心部の温度や密度を高くすると共に、それを取り巻く「周辺」のプラズマを制御することも必要です。閉じ込められたプラズマの周辺部には、紐状のプラズマが現れることがあります。これは、中心部から飛び出てきたもので、プラズマを閉じ込める容器の壁の方に向かって動いており、壁にぶつかってプラズマの温度を下げてしまうことが懸念されています(図1)。このような紐状のプラズマを制御するため、その動きを正確に理解し予測することが、核融合発電実現に向けての重要課題の一つとなっています。

 プラズマの複雑な動きを詳しく調べるためには、計算機シミュレーションが欠かせません。多数の電気を帯びた粒子(イオンや電子)の集まりであるプラズマをシミュレーションする方法は幾つかありますが、最も正確なものは、プラズマを構成する粒子一つ一つの運動と、それらが作る電場を計算するという方法です。紐状のプラズマの挙動を正確に理解するためには、このようなミクロレベル(粒子レベル)からのシミュレーション1)が求められますが、これには膨大な計算量を要するため、実行することは極めて困難でした。

図1

図1: 「周辺」のプラズマに現れる紐状のプラズマは、磁力線に沿った細長い形状をしています。このプラズマは多くのプラズマ粒子(イオンや電子など)でできていますが、磁力線の形状とプラズマ内部にできる電場の影響で、プラズマを閉じ込める容器の壁の方に向かって飛んでいきます。

研究成果

 核融合科学研究所の数値実験炉研究プロジェクトでは、研究所のスーパーコンピュータ「プラズマシミュレータ」を用いて、「周辺」のプラズマに現れる紐状のプラズマを、ミクロレベルからシミュレーションすることに世界で初めて成功しました。プラズマシミュレータは、プラズマ・核融合科学専用計算機としては世界一の性能です。今回、計算プログラムを新たに開発するとともに、プラズマシミュレータの性能を活用することによって、10億個という膨大な数のプラズマ粒子の動きとそれが作る電場を計算することができました。これは、紐状のプラズマを塊として計算していた従来の方法で、同じ大きさのプラズマを計算する場合に比べて、1万倍以上の計算量になります。
 このシミュレーションにより、従来の方法では不可能だった、粒子の動きや電場が相互に与える影響を取り入れた詳細な解析が可能になりました。そして、紐状のプラズマの動きを粒子レベルから追跡すると同時に、その中の粒子の運動や温度分布といったミクロな内部構造を明らかにすることができました(図2)。このような内部構造が分かると、それが紐状のプラズマの運動に与える影響を調べることが可能になります。更に、紐状のプラズマが不純物2)を運ぶ(輸送する)様子を明らかにしました(図3)。

 本研究成果は、紐状のプラズマの挙動についての理解を大きく進展させると同時に、その予測精度を大幅に向上させるものです。プラズマ・核融合学会にもこの研究成果は高く評価され、11月29日から12月2日に仙台で開催された同学会年会に長谷川助教が招待されて、講演を行いました。

図2

図2: (a)紐状のプラズマの3次元空間分布の時間変化(右から左へ時間が経過)。紐状のプラズマは、緑色の透けた面のところにあり、そのなかの4つの異なる場所での断面で、プラズマの密度が高い部分を赤色、低い部分を緑色で表しています。時間の経過と共に、紐状のプラズマは容器の壁の方(左の方)に動いています。(b)プラズマ粒子(電子)の速度分布3)。速度分布の幅が温度を示しています。速度分布などが分かることにより、ミクロな内部構造が紐状のプラズマの運動に与える影響を調べることが可能になります。

図3

図3: 紐状のプラズマが不純物イオンを輸送する様子。磁力線を横切る断面図で、右から左へ時間が経過しています。白い破線で囲まれたところが紐状のプラズマの断面です。不純物イオンが多い部分を赤色で、少ない部分を青色で、それぞれ示していますが、不純物が多い場所に紐状のプラズマが侵入すると、不純物が右側の方向に運ばれています。

【用語解説】
1)ミクロレベルからのシミュレーション
  プラズマを総体として捉えて計算する流体モデルシミュレーションは、少ない計算量でプラズマの大まかな挙動を知ることができますが、プラズマ粒子の運動が原因となる現象を再現することができません。プラズマを構成する粒子一つ一つの運動と、それらが作る電場を計算する方法(ミクロレベルからのシミュレーション)は、そのような現象を調べると同時に、プラズマの総体の挙動を追跡することができます。これは、例えば、人口10億人のある国の国民一人一人のお金の収支の動きすべてをシミュレーションし、なおかつ、国全体でのお金の流れを掴めるようになるのと似ており、膨大な計算量を要します。
2)不純物
  周辺では、様々な理由で不純物(水素以外の炭素、酸素、鉄など)が発生しており、それらが中心部のプラズマに入り込むとプラズマの温度を下げてしまうという問題があります。この不純物の挙動を理解し正確に予測することも、核融合発電実現に向けての重要課題の一つとなっています。
3)速度分布
  空気やプラズマなどの気体を構成する粒子は、その一つ一つが、それぞれ異なる速度を持って飛び回っています。この粒子の速度を横軸に、その速度を持つ粒子の数を縦軸にして描いたものが速度分布です。この速度分布の幅が温度を表しており、幅が広いほど、温度が高いことを意味しています。

【本件のお問い合せ先】
  • ヘリカル研究部・基礎物理シミュレーション研究系・准教授
    兼 対外協力部副部長
    樋田美栄子(といだ みえこ)
    (TEL: 0572-58-2379)
  • ヘリカル研究部・基礎物理シミュレーション研究系・助教
    長谷川 裕記(はせがわ ひろき)
    (TEL:0572-58-2380)