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プレスリリース

平成29年8月9日

大学共同利用機関法人自然科学研究機構
核融合科学研究所

イオン温度1億2,000万度を達成

概要

 自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長 竹入康彦)は、我が国独自のアイデアに基づいた世界最大級の超伝導核融合プラズマ実験装置である大型ヘリカル装置(LHD)を用いて、平成29年3月7日より行ってきた重水素実験で、プラズマ中のイオンの温度1億2,000万度を達成しました。この温度は核融合を実現するために最も重要なプラズマ条件の一つであり、今回の成果により、定常運転性能に優れたLHD方式によるヘリカル型核融合炉実現への見通しを確立しました。

研究の背景

 LHDでは、これまで軽水素ガス(一般に用いられる水素ガス)を用いて実験を行ってきましたが、本年3月7日より、軽水素の同位体で2倍の重さを持つ重水素ガスを用いた実験(重水素実験※1)に移行しました。これまでに行われたトカマク型※2のプラズマ実験装置における実験結果から、重水素プラズマは軽水素プラズマより性能(温度等)が向上することが分かっており、同様の性質がヘリカル型※3のプラズマ実験装置でも観測されることが期待されるため、ヘリカル型装置で初めてとなるLHDの重水素実験によるプラズマの高性能化に関心が高まっています。
 核融合を実現するために最も重要なプラズマ条件の一つに、イオン温度1億2,000万度があります。トカマク型装置では、既にこの条件を達成していますが、将来の核融合発電に必須の定常運転に課題を残しています。それに対して、LHDのようなヘリカル型装置は定常運転性能に優れていますが、イオン温度1億2,000万度に代表されるプラズマの高性能化に課題を残していました。世界最大級のヘリカル型装置であるLHDでは、トカマク型装置においてプラズマの高性能化が達成されている重水素実験を開始したところですが、僅か1週間でイオン温度1億度を達成するなど、この課題を解決することが期待されていました。

実験方法

 今回の重水素実験開始に向けて、LHDではプラズマ加熱装置の改造、プラズマ生成ガスの供給・排気を行う粒子制御装置の高性能化、計測器の増設、安全設備の整備等を行い、平成29年3月7日に重水素実験を開始しました。
 重水素実験は、LHDの真空容器に100万分の1気圧程度の重水素ガスを入れて、マイクロ波と呼ばれる電磁波を入射し、重水素プラズマを生成します。そのプラズマ中に高エネルギーの重水素ビームを入射して追加熱を行い、プラズマの温度を上昇させます。高温プラズマを実現するためには、加熱パワーを効率よくプラズマに注入するとともに、その損失を最小限に抑え、プラズマ中に保持することが重要です。LHDでは効率的な加熱を行うために、加熱パワーの入射方法やタイミングの最適化、プラズマの粒子源である重水素ガスの効率的な注入と余剰粒子の徹底的な除去を行いました。また、蓄えたエネルギーを逃がさないため、エネルギー損失の原因となる、プラズマ中に発生する乱れに対して強いプラズマ形状を選択し、真空容器壁を清浄に保つ手法を確立しました。

結果

 上述の方法で実験を行うことにより、重水素実験開始1週間後には1億度を超えるイオン温度を達成し、軽水素プラズマで記録された9,400万度を更新したことは、既にご報告していますが、更にその約1ヶ月半後の4月26日に、イオン温度1億2,000万度を初めて観測しました。研究所ではこのデータ検証を進めるとともに、7月5日に再現実験を行った結果、LHDがヘリカル型装置における最高イオン温度1億2,000万度を達成したことが確認されました。下図は、その時の実験で得られたイオン温度分布、電子温度分布、電子密度分布です。横軸はプラズマの位置に相当する半径で、0mがプラズマ中心です。

今後の展開

 将来の核融合発電の実現のためには、核融合によるエネルギー発生を行う核融合燃焼の実証・制御及び発電に必須の定常運転性能を達成する必要があります。これに向けて、トカマク型とヘリカル型による研究が進められています。トカマク型は、重要な核融合条件であるイオン温度1億2,000万度を既に達成しており、国際協力によりフランスで建設が進められている、核融合燃焼を行うITER(国際熱核融合実験炉)という装置に採用されていますが、短時間の運転に限られているため、核融合発電の実現に向けて、定常運転が課題として残っています。一方ヘリカル型は、原理上定常運転が可能なため、将来の核融合発電に適した方式として有望視されていますが、イオン温度1億2,000万度をまだ達成しておらず、プラズマの高性能化が課題でした。
 今回、世界最大級のヘリカル型装置であるLHDにおいて、イオン温度1億2,000万度を達成したことは、ヘリカル型の課題であったプラズマの高性能化に対して、その解決への見通しをつけた点で、非常に大きな意義があります。今後、ITERによる核融合燃焼の結果を取り込むことにより、ヘリカル型がITER後に計画されている実際に核融合発電を行う発電炉の最有力候補になることが期待されます。
 LHDは、イオン温度1億2,000万度を重水素実験開始後僅か数か月で達成しましたが、今後、こうした核融合実現に必要な条件を満たす高性能なプラズマの研究を更に進めることにより、ヘリカル型核融合炉の設計を確実なものとすることが可能となります。つまり、イオン温度1億2,000万度という、核融合を実現するための重要なプラズマ条件の一つを達成したLHDは、定常運転性能に優れていることに加えて、将来の核融合発電炉に外挿可能なプラズマを手中に収め、核融合実現へ向けた本格的な実験を行う条件を備えたことになります。今後は国内外の共同研究者とともに、重水素実験で得られる超高温プラズマの性質や同位体効果、高エネルギー粒子の挙動等を学術的に明らかにし、ヘリカル型核融合炉の実現に向けた研究を大きく展開していきます。

第19サイクルの終了に当たって

 平成29年2月8日からの軽水素実験に始まり、3月7日からの重水素実験等と約半年間に渡った第19サイクル実験は、3月29日付けで、登録検査機関から施設検査合格証が交付されるとともに、重水素実験の安全管理計画に基づいて設置されたトリチウム除去装置、放射線総合監視システム等の健全性、並びに実験実施体制、危機管理・連絡体制、防災訓練の実施等、安全確保上の体制も十分機能していることを確認し、トラブルもなく予定どおり、重水素実験は7月7日に、それに引き続く軽水素実験も8月3日に無事終了しました。この間、ヘリカル型装置における初めての本格的な重水素実験ということで、実験期間中、国内外の大学・研究機関から多くの共同研究者が来所し、250を超える様々な課題の共同研究を実施しました。

【用語解説】

※1 重水素実験
 重水素ガスを用いて生成したプラズマを用いる実験。重水素は、軽水素と同じ電荷を持っており、化学的な性質は同じだが、質量が軽水素の2倍と重く、同位体と呼ばれている。トカマク型装置における実験では、軽水素プラズマよりも重水素プラズマの方が、より高い性能のプラズマが得られることが観測されている。

※2 トカマク型
 プラズマが磁力線に巻き付いて運動するという性質を利用して、磁力線で編んだカゴ状の磁気容器内に高温・高密度のプラズマを閉じ込める、磁場閉じ込め方式の一つ。コイルで作られるドーナツ状の主磁場に加え、プラズマ自身に電流を流し、その電流が作る磁場で、プラズマ閉じ込めに必要な捻れた磁場構造を作る方式。捻れた外部コイルが必要ないため、ヘリカル方式に比べ、コイルの構造が単純となる。既に、イオン温度が1億2,000万度を超えるなど高性能プラズマを実現しているが、定常的に効率よくプラズマ中の電流を維持することが難しく、定常運転に課題を残している。

※3 ヘリカル型
 プラズマが磁力線に巻き付いて運動するという性質を利用して、磁力線で編んだカゴ状の磁気容器内に高温・高密度のプラズマを閉じ込める、磁場閉じ込め方式の一つ。ドーナツ型のプラズマ閉じ込め容器の周りにらせん状のコイルを巻いて、それに電流を流してプラズマ閉じ込めに必要な捻れた磁場構造を作る方式。パルス運転(短時間運転)となるトカマク方式に比べ、コイルに定常的に電流を流すことが可能なため、定常運転性能に優れるが、イオン温度1億2,000万度に代表される高性能プラズマの実現に課題があった。

【本件のお問い合せ先】

  • 自然科学研究機構 核融合科学研究所
    大型ヘリカル装置計画研究総主幹  森﨑 友宏
    (TEL: 0572-58-2200)