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プレスリリース

令和元年6月5日

大学共同利用機関法人自然科学研究機構
核融合科学研究所

重水素によってプラズマ性能が向上する「同位体効果」が発現-プラズマの温度領域が大きく拡大-

 

概要

 大型ヘリカル装置(LHD)の重水素プラズマ実験で、核融合条件の一つであるイオン温度1億2,000万度を保持したまま、電子温度を従来の1.5倍の6,400万度に上昇させたプラズマの生成に成功しました。これにより、軽水素プラズマでは困難だった、イオン温度を低下させずに電子温度を上昇させることを、重水素プラズマで実現することができました。これは、重水素によりプラズマ性能が向上する「同位体効果」が発現したことを示しており、その物理機構の解明に繋がる画期的な研究成果です。また、将来の核融合炉では、イオン及び電子の温度がともに1億度以上の高温プラズマになることから、今回の成果は、定常運転が本質的に可能なヘリカル方式による「核融合炉級高性能プラズマの定常維持の実現」に向け、研究を大きく前進させました。

研究の経緯

 核融合発電を実現するためには、1億度以上という超高温のプラズマを強力な磁場で閉じ込めて維持することが必要です。磁場でプラズマを閉じ込める方式には、トカマク型とヘリカル型がありますが、これまでのトカマク装置を用いた実験によって、重水素ガスを用いてプラズマを生成すると、通常の軽水素を用いた場合と比較して、プラズマの閉じ込め性能が向上することが分かっています。これは「同位体効果」と呼ばれますが、その物理機構はまだ解明されていません。定常運転が本質的に可能なヘリカル型の装置であるLHD(図1)で、同位体効果を示し、その物理機構を解明してさらなるプラズマの性能向上に繋げることができれば、核融合発電の実現に大きく近づくと期待されています。

図1.(大型ヘリカル装置(LHD)の内部。二重らせん状の超伝導電磁石を用いて、高温のプラズマを閉じ込めている。

図1 大型ヘリカル装置(LHD)の内部。二重らせん状の超伝導電磁石を用いて、高温のプラズマを閉じ込めている。

 LHDでは2017年より「重水素プラズマ実験」を行っています。その第1年次の重水素プラズマ実験では、核融合を実現するために最も重要なプラズマ条件の一つである「イオン温度1億2,000万度」を、ヘリカル型装置として世界で初めて達成しました。また、高い周波数の電磁波(マイクロ波)をプラズマに入射して電子を加熱する実験では、重水素プラズマでは、軽水素プラズマに比べて、熱が逃げにくいことを示しました。さらに、プラズマの定常維持に不可欠な、プラズマの制御に関する研究においても、新たな発見がありました。高イオン温度を維持するうえで問題となるのは、プラズマが不安定な状態になること(不安定性と呼びます)ですが、プラズマにマイクロ波を入射することで、不安定性を抑制できることが分かりました。
 このように、第1年次の重水素プラズマ実験において重要な成果が得られましたが、イオン温度1億2,000万度を達成した時の電子温度は4,200万度と、イオン温度に比べて低い値に留まっていました。将来の核融合炉のプラズマは、イオン温度と電子温度が共に1億度以上になることが予測されており、それに近い「核融合炉級高性能プラズマ」を実現して研究を行うことが必要です。そして、その核融合炉級高性能プラズマを実現するためには、1億度を超える高イオン温度のプラズマで同位体効果を示し、それを基に研究を発展させていかなければなりません。
 そこで、第2年次の重水素プラズマ実験では、核融合条件の一つである「イオン温度1億2,000万度」を保持したまま、電子温度も高いプラズマの実現を目指しました。ここでポイントになるのは、「イオン温度を低下させずに、電子温度を上昇させる」ことです。従来の軽水素を使った実験では、高イオン温度のプラズマにマイクロ波を入射して電子を加熱すると、電子温度の上昇に伴ってイオン温度が低下するという問題がありました。重水素ガスを用いることで、このイオン温度の低下が抑制されれば、同位体効果を示すとともに、核融合炉級高性能プラズマの実現に向けた大きな一歩となります。

研究成果

 今回の実験では、イオン温度1億2,000万度の重水素プラズマにおいて、電子温度を従来の4,200万度よりもさらに高くするために、電子を積極的に加熱しました。マイクロ波による電子加熱を効率良く行うために、マイクロ波を発生させる発振管とプラズマとの間の伝送路を調整するとともに、第1年次の重水素プラズマ実験に引き続き、マイクロ波を用いてプラズマの不安定性の回避を試みました。
 このような方法を用い、マイクロ波の入射タイミング等を変化させながら調整を重ねていったところ、イオン温度を1億2,000万度に保持したまま、電子温度を従来の1.5倍である、6,400万度に上昇させたプラズマの生成に成功しました。つまり、軽水素プラズマ実験では困難だった、「イオン温度を低下させずに、電子温度を上昇させる」ことを、重水素プラズマ実験で実現できたのです。これにより、同位体効果を示すとともに、LHDで生成されたプラズマの温度領域を大幅に拡大することができました(図2)。
 また、マイクロ波を用いたプラズマの制御については、電子温度が高くなればなるほど、不安定性がより抑制される効果があることが分かりました。これは、今後のプラズマの高性能化にも繋がる重要な成果です。

成果の意義と今後の展開

 重水素プラズマ実験で、イオン温度1億2,000万度を保持したまま、電子温度を上昇できたことで、同位体効果を示し、核融合炉級超高性能プラズマの実現に向けて研究を大きく前進させることができました。今後は、この同位体効果の詳細なメカニズムを解明し、それを基にプラズマのさらなる高性能化を目指します。また、超高性能プラズマの定常維持に不可欠な、プラズマの制御についても、研究をさらに加速させていきます。

図2  LHDで生成されたプラズマのイオン温度・電子温度領域

図2 LHDで生成されたプラズマのイオン温度・電子温度領域

【用語解説】

※1 トカマク型
 プラズマが磁力線に巻き付いて運動するという性質を利用して、磁力線で編んだカゴ状の磁気容器内に高温・高密度のプラズマを閉じ込める、磁場閉じ込め方式の一つ。コイルで作られるドーナツ状の主磁場に加え、プラズマ自身に電流を流し、その電流が作る磁場で、プラズマ閉じ込めに必要なねじれた磁場構造を作る方式。ねじれた外部コイルが不要なため、ヘリカル方式に比べ、コイルの構造が単純となる。

※2 ヘリカル型
 プラズマが磁力線に巻き付いて運動するという性質を利用して、磁力線で編んだカゴ状の磁気容器内に高温・高密度のプラズマを閉じ込める、磁場閉じ込め方式の一つ。ドーナツ型のプラズマ閉じ込め容器の周りにらせん状のコイルを巻いて、それに電流を流してプラズマ閉じ込めに必要なねじれた磁場構造を作る方式。パルス運転(短時間運転)となるトカマク方式に比べ、定常運転性能に優れる。

※3 重水素プラズマ実験(重水素実験)
 重水素ガスを用いて生成したプラズマを用いる実験。重水素は、軽水素と同じ電荷を持っており、化学的な性質は同じであるが、質量が軽水素の2倍と重く、同位体と呼ばれている。トカマク装置における実験から、軽水素プラズマよりも、重水素プラズマの方がより高い閉じ込め性能が得られると言われている。また、将来の核融合プラズマで重要となる、高エネルギー粒子の閉じ込め研究に必要な実験を行うことができる。