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令和2年7月1日
経済的核融合炉を実現するプラズマの高精度予測が可能に
-高圧力プラズマの保持をシミュレーションで再現-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 定常核融合炉の実現には、磁場の強さが同じであれば、より高い圧力(温度と密度の積で数気圧のオーダー)のプラズマを安定に長時間閉じ込められる装置が、経済的で有望だとされています。今回は、そのような経済的核融合炉の実現に向けて、プラズマの計算機シミュレーション研究が大きく前進したことを紹介します。

 核融合発電では、磁場で高い圧力のプラズマを安定して長時間閉じ込める必要があります。磁場はコイルに電流を流して発生させるため、コイルの規模や電気代などの経済性の面から、磁場の強さが同じであれば、より高い圧力のプラズマを閉じ込められる装置が有望だとされています。定常性に優れたヘリカル型のプラズマ実験装置である大型ヘリカル装置(LHD)は、高圧力プラズマの保持に成功しています。このため、将来のヘリカル型核融合炉の実現に大きな期待が寄せられています。
 将来の核融合炉の設計研究の基盤となるのが、プラズマの振る舞いを予測する計算機シミュレーションです。高い精度のシミュレーションが必須ですが、そのためには、シミュレーションは既存の実験結果を再現できなければなりません。ところが、これまでシミュレーションは、LHDにおける高圧力プラズマの保持を再現できておらず、経済的な核融合炉の設計研究における大きな問題となっています。
 高圧力プラズマのシミュレーションは、これまで、プラズマを水や空気と同様に流れる物体(流体)とみなして計算する方法(流体モデル)が用いられてきました。プラズマ中では多数のイオンがそれぞれ異なる速度で異なる動きをしていますが、流体モデルは、これらイオンの平均的な動きを計算します。核融合科学研究所では、より精密な計算を行うため、流体モデルでは考慮されていない、多数のイオンの動きの違いを取り入れた「ハイブリッド・シミュレーション」を開発してきました。そして、これを用いて、将来の核融合炉でプラズマを加熱する役割を担う、高速イオンに関する重要な成果を上げてきました。例えば、高速イオンがプラズマの振動を引き起こし、その振動がプラズマを加熱することを世界で初めて証明しました(詳細はバックナンバー326をご参照下さい)。そこで今回、この研究を発展させて、ハイブリッド・シミュレーションを用いて、LHDにおける高圧力プラズマの保持を再現することに取り組みました。
 LHDにおける高圧力プラズマの保持を再現するために、様々な動きをするイオンの中で特に注目したのが、往復運動しながら進んでいく「捕捉イオン」です。この捕捉イオンの動きはLHD特有のものであるため、その効果を調べる必要があります。そこで、ハイブリッド・シミュレーションで、数百万個の捕捉イオンを含む、数千万個のイオンの運動とプラズマの圧力の変化を計算しました。さらに、高圧力を保持できるかどうかを示すためには、長時間にわたる変化を調べる必要があります。これは膨大な計算量となりますが、核融合科学研究所のスーパーコンピュータである「プラズマシミュレータ」を駆使することで、その計算を実現しました。その結果、LHDの高圧力プラズマの保持をシミュレーションで再現することに初めて成功しました。また、捕捉イオンの運動とプラズマの圧力変化との関係を詳しく解析しました。これにより、捕捉イオンが、プラズマ中に発生する揺らぎが大きくなるのを抑えることによって、高圧力プラズマの保持に大きく貢献していることを明らかにしました。
 このように、ハイブリッド・シミュレーションで、LHDにおける高圧力プラズマの保持を再現できたことで、将来のヘリカル型核融合炉における高圧力プラズマの予測精度を大幅に向上させることができました。今後、本研究成果が基盤となって、ヘリカル型核融合炉の経済性向上を目指す設計研究が大きく進展すると期待されます。

以上

図1 LHDのプラズマとその中のイオンの軌道例

図1 LHDのプラズマとその中のイオンの軌道例。LHDのプラズマは捻じれたドーナツの形をしています。白色と黄色の線がイオンの軌道を表します。白線で示すイオンは、ドーナツの中を周回し、一方向に進み続けています。それに対して、黄色で示すイオンは往復運動をしています。また同時に、その往復運動の中心も少しずつ移動しています。このような往復運動するイオンは「捕捉イオン」と呼ばれていて、その動きはLHD特有のものです。なお、プラズマの色は圧力を表していて、圧力が中心で高く、外に向かうほど低くなることを示しています。

図2 LHDの高圧力プラズマのシミュレーション結果

図2 LHDの高圧力プラズマのシミュレーション結果。プラズマ断面の圧力分布を示します。左図は、色が圧力を表していて、プラズマの中心部で圧力が高くなっています。右図は、その圧力分布の時間変化です。従来の流体モデル(右上図)では、最終的に、プラズマ中の揺らぎが大きくなって、中心の圧力が著しく小さくなってしまいます。それに対し、イオンの動きの違いを取り入れたハイブリッド・シミュレーション(右下図)では、長時間にわたって揺らぎは小さいままで、高圧力プラズマが保持されています。