核融合科学研究所 > 一般の方へ > 研究活動状況 > 人工ダイヤモンドを用いた高エネルギーイオン閉じ込め研究

令和2年8月5日
人工ダイヤモンドを用いた高エネルギーイオン閉じ込め研究
―高性能計測システムの開発―
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 将来の核融合炉では、核融合反応により生成された高エネルギーイオンがプラズマを加熱する役割を担うため、高エネルギーイオンをプラズマ中に良好に閉じ込めることが必要不可欠です。このため、世界の様々なプラズマ閉じ込め実験装置において、高エネルギーのビームを打ち込む方法、あるいは電磁波を入射してイオンを加速する方法を用いて高エネルギーイオンを生成し、その閉じ込めを調べる研究が行われています。核融合科学研究所では、この研究を実施するために、大型ヘリカル装置(LHD)に世界最大級の高エネルギー粒子の計測システム群を設置していますが、この度、人工ダイヤモンドを用いた計測システムを新たに導入しました。

 プラズマの粒子(イオンや電子)は電荷を持っており、磁場に巻き付いて運動するという性質があります。これを利用してLHDでは磁場で高温のプラズマを閉じ込めていますが、1億度を超えるような高温プラズマの中に計測装置を入れることはできません。ところが、プラズマ中の高エネルギーイオンは、ある低い確率でプラズマの外に飛び出してくるので、LHDの真空容器内でこれを測ることによりその情報を得ることができます。プラズマ中には僅かな量ですが、電荷を持たない中性粒子が存在します。高エネルギーイオンはこの中性粒子と衝突すると、中性粒子から電子を受け取って電荷がゼロとなり、高エネルギーの中性粒子となります。すると、この粒子はもはや磁場の影響を受けなくなり、プラズマの外へと飛び出してくるのです。
 高エネルギーの中性粒子を測る方法はいくつかありますが、今回紹介する人工ダイヤモンドを用いる方法は、ダイヤモンドが半導体であることを利用しています。半導体はそのままでは電気が流れませんが、外からエネルギーが与えられると電気が流れるようになるため、高エネルギー粒子の検出器として利用できるのです。ただし、電気の流れやすさは、同じ半導体でもダイヤモンドとシリコンでは異なります。シリコンは室温レベルのエネルギーでも電気が流れるようになります。このため、検出器はこの影響を除くために約マイナス200度まで冷却することができる装置が必要となり、装置が大型化するという弱点がありました。それに対し、ダイヤモンドは室温程度のエネルギーでは電気は流れません。そのため、検出器は冷却の必要がなく非常にコンパクトになります。この特徴は、検出器を複数個設置する際に非常に有利です。ただ、ご存じのように天然ダイヤモンドは高価ですし、人工ダイヤモンドは、その内部に含まれる不純物により検出器としての性能が低下するという問題がありました。しかし、近年、人工ダイヤモンドの精製技術・加工技術の向上によって、不純物の非常に少ないダイヤモンドが安定して生成されるようになり、性能の良いダイヤモンド検出器を容易かつ安価に入手できるようになりました。これにより、LHDでは、世界で初めて人工ダイヤモンド検出器を高エネルギー粒子計測のために導入し、高性能計測システムの開発に成功しました。
 この計測システムを用い、LHDにおける高エネルギーイオンの閉じ込め研究を開始しました。プラズマ中に電磁波を入射して高エネルギーイオンを生成する実験において、プラズマから出てきた高エネルギー中性粒子の数(カウント数)を、異なる場所に設置した3台の人工ダイヤモンド検出器で計測しました。その結果、磁場の弱い領域の真下に設置した検出器のカウント数が著しく増える一方、そこから少し離れた場所にある検出器のカウント数は余り変わらないことが分かりました。これにより、電磁波入射によって生成された高エネルギーイオンは磁場の弱い領域に閉じ込められやすいという性質を、人工ダイヤモンド検出器によって確認することができました。
 今後は、今回得られた結果について詳細な解析を行い、LHDプラズマにおける高エネルギーイオンの閉じ込めについての理解を深めます。また、ダイヤモンド検出器がコンパクトであるという利点を活かして検出器を増やし、高エネルギー粒子の計測システムをより高性能化したいと考えています。

以上

LHDに設置した、人工ダイヤモンドを用いた高エネルギー粒子計測システム

図 LHDに設置した、人工ダイヤモンドを用いた高エネルギー粒子計測システム。検出器はドーナツ状のヘリカルプラズマ中心から7.7m下に位置し、プラズマを真下から観測しています。検出器は、それぞれプラズマの内側(Ch1)、中心(Ch4)、外側(Ch7)を見るように3台設置されています。内側と外側のCh1とCh7は、青色で示した磁場の弱い領域の真下にあります。この領域は、ヘリカルリップルと呼ばれ、ヘリカル型装置特有のものです。プラズマに電磁波を入射して、緑の線で示した場所付近のイオンを加速すると、生成された高エネルギーイオンは、このヘリカルリップルに閉じ込められやすいという性質があります。