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令和3年4月26日
環境モニタリングや医療など幅広い応用が期待される赤外光源を開発
高速・高精度な成分分析に利用可能
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 発電施設、工場施設などの安全かつ安定な運転のためには、それらの施設の内外におけるガスや液体等の成分を常時測定する「環境モニタリング」が必須です。また、医療分野では、呼気に含まれる微量のガス成分を検査する「呼気診断」が、コロナ患者の重症化リスクを判断する有効な方法の一つとされています。核融合科学研究所は、秋田県立大学との共同研究により、このような成分分析を高速・高感度で行うことを可能にする赤外光源の開発に成功しました。

 一般的な分子は赤外線を吸収する性質を持ち、それらが吸収する光の波長(吸収波長)は分子の種類によって異なります。そのため、赤外線を物質に照射し、その物質を透過してきた光が、どの波長でどの程度、吸収されて弱くなっているかを計測することで、存在する分子の種類と量が分かります。特に、中赤外線の波長範囲(2~15マイクロメートル)には、炭酸ガス、炭化水素、水蒸気などの多種多様な分子の吸収波長があるため、中赤外線は様々な成分分析に利用できます。
 核融合科学研究所と秋田県立大学の研究グループは、赤外線と光ファイバーを利用した「赤外光ファイバーセンサー」の開発研究を進めています。これは、高速・高精度な成分分析を行うためのものであり、中赤外線を高輝度で安定して発生する光源が必須です。また、赤外線を特殊な構造の光ファイバーに伝送させてセンサーにしますが、そのためには、光源が発する光は、効率良く光ファイバーの中へ送り込めるものでなければなりません。
 研究グループは、光源開発のために、フッ化物ガラスに特殊な元素を添加した材料を新たに開発しました。この新材料は、安価で小型な半導体が発する光(波長0.98マイクロメートル)を照射するだけで、広い波長範囲の中赤外線を発します。研究グループは、この新材料を使って特殊な光ファイバーを作製し、半導体と組み合わせた光源を構築しました。この光源は、半導体の光をファイバーに入射し、そこで強い中赤外線を発生させて外に取り出すという仕組みです。新材料で作製したファイバーは、中赤外線を発するとともに、それを強める役割を担います。この光源により、従来になかった広範囲な波長(2.5~3.7マイクロメートル)で、かつ高輝度な安定した中赤外線を発生させることに成功しました。さらに、この光源は、発生した中赤外線を効率良く伝送用の光ファイバーの中へと送り込めることが分かりました。これにより、開発した光源が、赤外光ファイバーセンサーに適用可能であることを示すことができました。
 広い波長範囲の中赤外線を高輝度で安定して発生する本光源は、小型でシンプルな構成であるため安価で実用的であり、様々な成分分析に利用できます。さらに、本光源を使って、研究グループが開発研究を進めている「赤外光ファイバーセンサー」が実現すれば、高速・高精度な成分分析が可能になり、幅広い応用が期待できます。例えば、工場施設では、施設内外に光ファイバーを張り巡らせて、窒素酸化物、硫黄酸化物、炭酸ガス等の温室効果ガスを監視できます。将来の核融合発電所では、水蒸気や炭化水素などの測定に利用されます。私たちに身近なところでは、微量なメタン及びブタンを検知するガス漏れ検知器、シックハウス症候群の原因であるホルムアルデヒドの測定への応用も期待できます。また、医療分野では、呼気診断に応用されれば、呼気中の一酸化窒素濃度を即時に測定できようになり、コロナ患者の重症化リスクの迅速な判断が可能になります。このような次世代の高速・高感度センサーの実現を目指し、研究を推進していきます。

以上

図1 開発した赤外光源の概略図

図1 開発した赤外光源の概略図(左)。シンプルな構成であるため安価に作製できます。
光源から取り出した中赤外線は、伝送用の光ファイバーに送り込みます(右)。

図2 開発した赤外光源が発する光のスペクトル

図2 開発した赤外光源が発する光のスペクトル。下段は主なガス分子の吸収波長を示しています。本光源が発する光の波長範囲には多くの分子の吸収波長があります。そのため、本光源は様々な成分分析に利用できます。