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プレスリリース

平成22年4月9日

 核融合科学研究所(岐阜県土岐市、所長・小森 彰夫)は、我が国独自のアイデアによる世界最大の超伝導核融合実験装置である大型ヘリカル装置(LHD)を用いて、電子の温度が1億7,000万度に達する高温のプラズマを生成することに成功しました。また、温度が上がるとともに燃料である水素原子以外の不純物原子がプラズマの外へ排除される現象について、原子番号が大きいほど吐き出し効果が大きくなることを発見しました。この2つはいずれも将来の核融合発電炉に求められる重要な要件です。これらの研究成果は、4月12日と13日に核融合科学研究所で開催される「平成21年度大型ヘリカル装置(LHD)実験成果報告会」で報告されます。また、これまでの研究成果により、平成22年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を本研究所の居田克巳教授らが受賞することとなりました。

  核融合エネルギーの実現を目指す学術研究を推進している本研究所は、大型ヘリカル装置の第13サイクルプラズマ実験を昨年10月1日から開始し、同年12月24日に終了しました。世界最大規模のらせん(ヘリカル)状の超伝導コイルによって安定で高温のプラズマを生成し、これを対象とした学術研究を大学などの研究者と共同で進めることによって、核融合エネルギー実現に貢献する多くの成果を得ることができました。今期の成果を含めて、これまでに得られた結果を図1にまとめます。

  核融合発電炉では核融合反応を起こすために必要な高温(1億度以上)を定常に維持する必要があります。大型ヘリカル装置は我が国で発案されたらせん状の電磁石を用いて高温のプラズマを閉じ込める磁場を定常的に発生することができます。このため、すでに1,000万度以上のプラズマを1時間保持することに成功しています。したがって、大型ヘリカル装置計画では、現在、プラズマの温度を上げることに力を注ぎ、その性質を調べています。

  今期に得られた代表的な成果の詳細を以下に説明します。

  1. 温度を上げるためには加熱電力を増やすことと、プラズマから熱が逃げないようにすることの両方が必要です。プラズマは電離した気体であり、電子とイオンからなっています。この電子とイオンを加熱するにはそれぞれの性質を利用した固有の方法があります。筑波大学と共同で、電子を加熱する手段である電子サイクロトロン共鳴加熱を行う装置の研究開発を進め、平成21年度にはこれを大型ヘリカル装置に取り付け、3,000キロワットを超える加熱電力を実験に用いることができるようになりました。平成20年度までは1,200キロワットでした。具体的には77ギガヘルツの周波数を持つマイクロ波を発生するジャイロトロンと呼ばれる装置です。このマイクロ波は磁場中の電子の回転運動と共鳴し、電子を加熱します。この大電力マイクロ波加熱を、これまでの実験研究で明らかになったプラズマから熱が逃げにくい閉じ込め磁場に組み合わせることによって、図2にあるようにプラズマの中心の電子温度を1億7,000万度にまで上げることに成功しました。これまでの最高記録は1億2,000万度ですから、記録を大きく更新したことになります。これによって、これまで培ってきた閉じ込め磁場の最適化の考え方が、より高い温度で有効であることを確認することができました。

  2. 平成20年度の実験で、温度の高いプラズマ中心部では、不純物として炭素の小粒を意図的にプラズマ中へ入射しても、イオン温度の上昇に伴って自動的に炭素が排除されるという現象を発見しました。平成21年度には、この現象を炭素以外の元素(ヘリウムとネオン)を注入することにより、詳細に調べました。その結果、原子番号が大きくなるほど、この排除の効果が強まるということを発見しました。図3はヘリウム(原子番号2)、炭素(同6)、ネオン(同10)のプラズマ中での割合の分布を示したものです。主たる燃料の水素に対し、中心部ではヘリウムは2%、炭素は0.3%程度、ネオンは0.03%程度になっています。図4はドーナツ形状のプラズマを斜め方向から見た画像で、(a)は可視光、(b)、(c)はX線です。X線は不純物からの放射によるものですが、温度が上がると、(b)から(c)に変化し、不純物が外に排除されていることが分かります。将来の核融合発電炉では、水素の同位体である重水素と三重水素を燃料として使用し、これがヘリウムに変わる核融合反応を利用します。言わば、このヘリウムは灰です。また、プラズマ中には水素以外の元素(炭素、酸素、金属など)が壁から混入します。これらの不純物や灰のヘリウムは水素燃料の純度の低下をもたらすとともに、原子は原子番号が大きいほど高温になるとより強い光を出すため、この輻射による損失がプラズマの温度を下げます。したがって、灰や不純物の排除は核融合発電炉にとって極めて重要な課題であり、大型ヘリカル装置における実験においてもプラズマの温度を上げるために克服すべき課題です。この成果は大型ヘリカル装置において、プラズマの温度をさらに向上させる上で、明るい見通しを与えるものであり、将来の核融合発電炉において、極めて好ましい性質の発見です。

  3. 「磁場閉じ込めプラズマにおける回転流の発見と炉心改善の研究」により、平成22年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を本研究所の居田克巳教授、藤澤彰英九州大学教授(平成21年9月まで核融合科学研究所准教授)が受賞することとなりました。プラズマ中に自発的に発生する流れを世界で初めて確かめた業績によるものです。授賞式は4月13日、東京において行われます。

 大型ヘリカル装置は大学共同利用機関である核融合科学研究所の主力実験装置であり、全国の大学や研究機関からの多くの研究者がこれを用いて幅広い学術研究を共同で行っています。平成22年度は10月6日から12月24日まで実験を実施する予定で、現在その準備を進めています。

 核融合科学研究所では、上で述べた成果を中心に、第13サイクル実験で得られた様々な学術研究成果を報告する「平成21年度大型ヘリカル装置(LHD)実験成果報告会」を以下の日程で開催いたします。

日時: 平成22年4月12日(月)午後1時40分より 13日(火)午後4時00分まで
場所: 核融合科学研究所 管理棟4階第1会議室

 この報告会では例年、大学や関係研究機関の研究者が集まり熱心な議論が行われます。一般の方のご参加も可能ですので、ご関心のある方は下記までお問い合わせ下さい。

【本件のお問い合せ先】
核融合科学研究所 大型ヘリカル装置計画 研究総主幹 教授 山田 弘司
TEL  0572-58-2200

図1 大型ヘリカル装置実験・第13サイクル実験までに得られたプラズマ性能

図1 大型ヘリカル装置実験・第13サイクル実験までに得られたプラズマ性能

 

図2 プラズマ中の電子の温度分布。大半径位置3.5mがプラズマの中心、

図2 プラズマ中の電子の温度分布。

 

図3	プラズマをドーナツ形状に接する方向から見た画像。

図3 プラズマ中の不純物割合の分布。左端がプラズマの中心、右端がプラズマの端である。原子番号が2のヘリウムから、6の炭素、10のネオンと大きくなるにつれて、外側へ排除される効果が強まり、温度の高い中心部ではそれぞれ、2%, 0.3%, 0.03%までに下がる

図4プラズマをドーナツ形状に接する方向から見た画像

図4 プラズマをドーナツ形状に接する方向から見た画像。
(a)可視画像。(b)、(c)X線画像。X線は不純物からの放射による。温度が上がると、(b)から(c)に変化し、不純物が外に排除されていることが分かる。