HOME > ニュース > プレスリリース > 第20回国際土岐コンファレンスを開催し、研究所の最新の成果を報告
平成22年12月7日
核融合科学研究所(岐阜県土岐市、所長・小森 彰夫)は、世界の核融合とそれに関係する研究を発展させるため、第20回国際土岐コンファレンスを土岐市のご協力の下に主催し、セラトピア土岐を会場として、4日間の予定で12月7日に開幕しました。
会議では世界で行われている核融合研究の最新の成果が報告されますが、本研究所からは、大型ヘリカル装置(LHD)において、1,800キロワットの大電力マイクロ波発振管の開発の成功とそれを用いたプラズマ加熱により、2億3千万度の電子温度が達成されたことが報告されました。さらに、新しいシミュレーション手法を開発して、世界で初めて核融合プラズマの崩壊を引き起こす物理過程を計算機シミュレーションにより再現したことも報告される予定です。
また、会議の最初の基調講演では、国際協力により建設が進んでいる国際熱核融合実験炉(ITER)の最新の状況が、前核融合科学研究所長である本島修ITER機構長より報告され、人類が初めて行うプラズマ燃焼実験に向けた順調な進展が示されました。
なお、会議期間中の12月8日には、宇宙航空研究開発機構の國中均教授による市民学術講演会「はやぶさ 小惑星探査機の深宇宙オデッセイ」を開催します。
- 国際土岐コンファレンスは、本研究所が設立された1989年に開始して以来、土岐市で毎年開催され、今回で20回目となります。(研究所主催の他の国際会議と重なった2回を除きます。)国際的な科学技術会議が同一都市で毎年開催されるのは世界的に見ても例がありません。この間、本会議は核融合研究の主要な国際会議として、世界の核融合研究者に認識されるようになり、毎回、海外から多くの研究者が参加しています。(各回のテーマと参加者数の推移は、参考資料をご参照下さい。)今回は、20回目という節目を迎え、プラズマ核融合科学の進展を基盤に今後の20年を展望する会議として、12月7日から12月10日まで、セラトピア土岐で開催します。会議登録者は約270人であり、そのうち海外からの参加者は約60人となっています。会期中には市民を対象とした学術講演会や土岐市長主催のレセプションも企画され、本国際会議を通じた地元との交流も活発に行われます。
- 会議初日には、小森 彰夫 核融合科学研究所長より基調講演が行われ、大型ヘリカル装置(LHD)をはじめとする本研究所の最新の研究成果が報告されました。その中で、核融合プラズマの加熱、特にプラズマの電子温度を上げるために必要不可欠な超大出力マイクロ波発振管(ジャイロトロン発振管)の研究開発において、世界最高値1,800キロワット/1秒を高効率(約40%)で達成し、それを用いたプラズマ加熱により、大型ヘリカル装置(LHD)におけるプラズマの電子温度を2億3千万度まで高めることに成功したことが報告されました。
これまで核融合プラズマ加熱用として研究開発されたジャイロトロン発振管は、日本原子力研究開発機構が行った1,500キロワットが実用値として最高出力でしたが、各部の設計を最適化し、運転方法を工夫することによって、これを大きく上回る1,800キロワットの出力が1秒間得られました。これは第1図に示しますように、世界最高出力です。なお、開発したジャイロトロン発振管の発振周波数は77ギガヘルツ(77×109ヘルツ)で、電子レンジで用いられている周波数(2.45ギガヘルツ)の約30倍以上と高いものです。このジャイロトロン発振管は、本研究所と筑波大学との学術交流協定、及び日本原子力研究開発機構との連携協力協定に基づく共同研究により開発が進められてきたものです。
LHDにおいて、この開発されたジャイロトロン発振管を3本用いることにより、マイクロ波によるプラズマの加熱電力を従来の2,000キロワット程度から3,400キロワットまで増加させることができました。その結果、プラズマの電子温度を1億7千万度から2億3千万度まで高めることに成功し(第2図参照)、LHDにおける記録を更新しました。
なお、本研究所のマイクロ波技術は陶磁器の焼成にも応用され、土岐市等においてマイクロ波焼成炉の実用化が計られています。 - 本研究所では、将来のヘリカル型核融合発電所の実現を目指して、LHDによる実験研究と並行して、シミュレーション研究を進めています。数千万度から1億度に及ぶ高温のプラズマの動きは複雑なため、磁場に閉じ込められたプラズマの振る舞いをスーパーコンピュータを用いた計算機シミュレーションにより再現・予測しています。従来のシミュレーションでは、1万分の1cm以下といった非常に狭い範囲で、1000分の1秒以下の非常に短い時間に起こるプラズマの現象の計算(ミクロ現象と呼ぶ)と、プラズマを閉じ込めている装置サイズ程度の広い範囲で、0.1〜1秒以上の長い時間に起こるプラズマの現象(マクロ現象と呼ぶ)が、同時に、お互いに影響し合いながら発生します。そのため、高温プラズマで発生する現象を統一的に理解するには、従来の個別現象のみを扱うシミュレーションではなく、異なる空間・時間スケールを持つミクロ現象とマクロ現象を矛盾なく結び付けて解くことのできる新しいシミュレーショ手法の開発が必要となっています。
本研究所ではこのたび、このようなミクロ現象とマクロ現象と同時に解くことのできる新しいシミュレーション手法を開発し、核融合プラズマの崩壊現象や太陽フレアー現象などでなどで本質的な役割を果たす磁気リコネクション(再結合)現象に適用することに世界で初めて成功しました。第3図に、シミュレーション結果の例を示します。
プラズマは磁場と強く結びつくその性質により磁場によって閉じ込めることができます。一方、磁気リコネクションは非常に狭い領域(ミクロ領域)で起こる現象で、このプラズマと磁場の結びつきを切断する働きをします。そのため、磁気リコネクションが発生すると、プラズマを閉じ込めている磁場の形状全体が大きく変化する可能性があります。時として、磁場中に蓄積されていたエネルギーが高温プラズマと一緒に非常に短い時間で逃げてしまうことも起きます。今回の成果は、プラズマと磁場の結びつきが切断されるミクロ領域から、磁場形状が変化する閉じ込めスケールの領域(マクロ領域)までを統一的に解析することを可能にするもので、磁気リコネクション現象の解明が進むとともに、核融合プラズマの理解がさらに進展するものと期待されます。
この成果は、国際土岐コンファレンスの2日目に本研究所 宇佐見 俊介 助教により報告されます。なお、宇佐見俊介 助教は、この成果によりプラズマ・核融合学会の第15回学術奨励賞を受賞しました。 - 本年7月に、国際熱核融合実験炉(ITER)の機構長に本島 修 前核融合科学研究所長が就任しました。ITERは、核融合反応によりプラズマを燃焼させる装置で、日本、欧州、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7つの国・地域の国際協力によりフランスで建設が進んでいます。今回の国際土岐コンファレンスでは、初日に本島ITER機構長による基調講演が行われ、建設状況をはじめとする計画の最新の進捗状況が報告されるとともに、核融合エネルギー実現に向けたITERの意義と重要性が強調されました。
ITERは人類初のプラズマ燃焼実験装置です。本研究所では、LHDを用いた高性能プラズマ研究の結果とITERによるプラズマ燃焼実験結果を合わせて、将来のヘリカル型核融合発電所の設計、建設に貢献する計画です。
ITERは50万キロワットの核融合エネルギーを発生させることが目標で、装置の直径が約30メートル、高さも約30メートル、総重量は約23,000トンにもなる巨大な装置です。10年かけて建設して、2019年にプラズマ生成を開始する予定です。その後、プラズマ性能を確認する実験と装置の増強を順次行い、プラズマ燃焼実験は2027年頃に実施する計画です。
(参考資料) 国際土岐コンファレンスの開催年度、テーマ、参加人数
国際土岐コンファレンス年度別開催状況回数 |
年 度 |
テ — マ |
開催期間 |
第1回 |
平成元年度 |
「世界の次期ヘリカル計画」 |
12月4日〜12月7日 |
第2回 |
平成2年度 |
「核融合プラズマにおける非線形現象」 |
11月27日〜11月30日 |
第3回 |
平成3年度 |
「超伝導の核融合研究への応用」 |
12月3日〜12月5日 |
第4回 |
平成4年度 |
「核融合とプラズマと天体プラズマ」 |
11月17日〜11月20日 |
第5回 |
平成5年度 |
「プラズマ加熱と電流駆動の物理と技術」 |
11月16日〜11月19日 |
第6回 |
平成6年度 |
「先進磁場核融合開発の物理と関連技術」 |
11月29日〜12月1日 |
第7回 |
平成7年度 |
「核融合プラズマ計測」 |
11月28日〜12月1日 |
第8回 |
平成9年度 |
「ヘリカル研究の現状と展望」 |
9月30日〜10月3日 |
第9回 |
平成10年度 |
「非平衡・非線形開放系核融合プラズマ物理の現状と発展」 |
12月8日〜12月11日 |
第10回 |
平成11年度 |
「定着プラズマのための物理と技術」 |
1月18日〜1月21日 |
第11回 |
平成12年度 |
「プラズマ中の電位と構造」 |
12月5日〜12月8日 |
第12回 |
平成13年度 |
「プラズマ閉じ込めのフロンティアと関連する工学・プラズマ科学」 |
12月11日〜12月14日 |
第13回 |
平成15年度 |
「プラズマ理論と核融合プラズマ研究の展開」 |
12月9日〜12月12日 |
第14回 |
平成16年度 |
「原子分子過程研究の展開とプラズマ・科学・技術への応用のフロンティア」(電子・分子データとその応用に関する国際会議合同開催) |
10月5日〜10月8日 |
第15回 |
平成17年度 |
「核融合と応用技術」 |
12月6日〜12月9日 |
第16回 |
平成18年度 |
「先進プラズマ計測とイメージング」 |
12月5日〜12月8日 |
第17回 |
平成19年度 |
第17回国際土岐コンファランスおよび第16回ステラレータ/ヘリオトロンワークショップ |
10月15日〜10月19日 |
第18回 |
平成20年度 |
「DEMO炉に向けたステラレータ/ヘリオトロンの物理と工学」 |
12月9日〜12月12日 |
第19回 |
平成21年度 |
「プラズマと核融合研究における先進物理」 |
12月8日〜12月11日 |
回数 |
年 度 |
参加者数(人) |
||
国外 |
国内 |
計 |
||
第1回 |
平成元年度 |
26 |
110 |
136 |
第2回 |
平成2年度 |
24 |
90 |
114 |
第3回 |
平成3年度 |
23 |
167 |
190 |
第4回 |
平成4年度 |
34 |
86 |
120 |
第5回 |
平成5年度 |
33 |
105 |
138 |
第6回 |
平成6年度 |
55 |
189 |
244 |
第7回 |
平成7年度 |
61 |
160 |
221 |
第8回 |
平成9年度 |
79 |
132 |
211 |
第9回 |
平成10年度 |
59 |
154 |
213 |
第10回 |
平成11年度 |
69 |
153 |
222 |
第11回 |
平成12年度 |
56 |
149 |
205 |
第12回 |
平成13年度 |
49 |
160 |
209 |
第13回 |
平成15年度 |
66 |
199 |
265 |
第14回 |
平成16年度 |
66 |
114 |
180 |
第15回 |
平成17年度 |
40 |
97 |
137 |
第16回 |
平成18年度 |
48 |
158 |
206 |
第17回 |
平成19年度 |
61 |
171 |
232 |
第18回 |
平成20年度 |
36 |
165 |
201 |
第19回 |
平成21年度 |
44 |
164 |
208 |
【用語解説】
・ジャイロトロン発振管
高速度に加速された電子の持つエネルギーを、磁場との作用を通して、周波数が百ギガヘルツ帯(1000億(1011)ヘルツ、波長がミリメートル程度なのでミリ波とも言う)のマイクロ波(電磁波)に変換する大型の真空管です。超大出力、高効率のジャイロトロン発振管の実現は、点火・発電開始までに数万キロワット以上のプラズマ加熱を必要とする核融合エネルギー炉の加熱システムの小型化、低コスト化に大きく寄与するものです。
参考図1に、今回開発したジャイロトロン発振管の写真とその概略構造図を示します。全長は約3メートル、重さはおよそ800キログラムです。高電圧により電子銃から電子ビームが引き出され高速度に加速されます。電子ビームの得た運動エネルギーは、キャビティ(空洞共振器)において、超伝導マグネットの発生する磁場と相互作用して、マイクロ波のエネルギーに変換されます。発生したマイクロ波はミラーを用いて真空窓より外に取り出されます。
ジャイロトロン発振管は、この周波数帯において大出力で長時間運転ができる唯一の発振源です。また発振周波数もテラヘルツ帯(1兆(1012)ヘルツ、波長0.3ミリメートル)まで広がっています。その用途は、核融合分野にとどまらず、物性分野やバイオ・医療分野への応用、産業応用まで拡大しています。
・計算機シミュレーション
計算機シミュレーションは、理論や実験と並ぶ第3の研究手段として、近年のスーパーコンピュータ(スパコン)をはじめとする大型計算機の発達を背景に生まれ、成長してきています。シミュレーションでは、複雑な現象を計算機の仮想空間上に再現し、そこで起こっている物理現象の解析、物理法則の抽出、将来予測等を行います。これまで、その複雑さの故、手がつけられなかった未開の領域に計算機シミュレーションを適用し、そこで起こっている現象の解明や予測を目指す研究が自然科学の様々な分野で始まっています。太陽活動から地球磁気圏のプラズマの動きまでを予想する宇宙天気予報、大地震の波の伝搬予測や地球温暖化予測もスパコンを使った計算機シミュレーションの例です。核融合プラズマは、電子とイオンがバラバラになって飛び交う1億度の超高温の世界です。その振る舞いは非常に複雑で、予測することが難しく、また実験結果を計算で再現させることも容易ではありません。核融合科学研究所は、これまで蓄えられてきたシミュレーションに関するノウハウや新たに必要とされるシミュレーション手法を開発することにより、核融合プラズマの現象を構成する様々な物理過程の解明と、それらを組み合わさって出現する核融合プラズマ全体の動きを再現・予測するための核融合シミュレーション科学を推進している世界的拠点です。
・磁気リコネクション
磁気リコネクションとは、互いに向きの異なる2本の磁力線が繋ぎ変わる現象で、磁気再結合とも呼ばれています。この磁気リコネクションでは、磁場に蓄えられたエネルギーが、プラズマの運動や熱のエネルギーに変換されます。この現象は、核融合プラズマ装置から太陽や地球磁気圏などの宇宙プラズマまでの広い分野で観測されていて、実験、理論、計算機シミュレ-ションの面から幅広く、精力的に研究されています。この現象の特徴は、ミクロ現象とマクロ現象が強く結び付いている点です。磁気リコネクションが起こると、磁場の形状が閉じ込めスケールで変化し、大規模なプラズマの流れ(輸送)が発生します。その一方、この現象の引き金となる物理過程は、非常に小さな領域における、プラズマ粒子1つ1つのミクロな振る舞いが基になっています。このようにマクロ現象とミクロ現象が複雑に絡み合っているため、その統一的な理解が困難となっています。そのため、マクロ現象とミクロ現象を同時に矛盾なく解くことのできる新しいシミュレーション手法「多階層シミュレーション」が、磁気リコネクションの理解を推進するものとして注目されています。
・国際熱核融合実験炉(ITER)
ITERは、核融合エネルギー利用が科学技術的に成立することを実証するために、日本、欧州連合(EU)、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7つの国・地域の国際協力により行われる超大型国際プロジェクトです。ITERでは、核融合炉と同じレベルの温度、密度などを有するプラズマを実現して、重水素と三重水素(トリチウム)という実燃料を用いてプラズマを燃焼させ、50万キロワットの核融合出力を数分以上に渡って実現することを目標としています。
ITERの建設と運転に関する7つの国・地域による国際協定が2007年に結ばれ、ITER国際核融合エネルギー機構(ITER機構)による建設活動が開始しました。ITERの建設地はフランスで、マルセイユの北約100kmのカダラッシュというところです。建設に10年、運転に20年を予定しており、2019年にプラズマ生成を開始する予定です。その後、水素や重水素を用いてプラズマ性能を確認すると共に、装置の増強を行います。そして計画では、重水素と三重水素を用いたプラズマ燃焼実験は2027年頃に実施する予定です。
・ヘリカル型核融合発電所
将来の核融合発電所では、燃料に重水素と三重水素(トリチウム)を用い、磁場に閉じ込められた高温度のプラズマ中で核融合反応を起こし、その時に出されるエネルギーを発電に利用します。
プラズマを磁場で閉じ込める方式には、トカマク型とヘリカル型があります。トカマク型はプラズマ中に電流を流すことで磁場を生成するため、現状は短時間運転に限られますが、プラズマ性能は高いため、国際熱核融合実験炉(ITER)の方式に採用されています。一方、ヘリカル型は磁場をすべてコイル(電磁石)により生成しているため、定常運転が可能です。
定常運転が必要な核融合発電所には、ヘリカル型が原理的に優れています。そこで、本研究所では、大型ヘリカル装置(LHD)において、核融合炉に求められるプラズマ条件を見通すことのできる高性能なプラズマを実現し、それと並行して、ITERにおけるプラズマ燃焼実験の結果を取り入れることで、ヘリカル型核融合発電所(原型炉)を設計、建設して、2040年までに発電を実現する計画を立てています。参考図2に、ヘリカル型核融合発電所を実現するためのロードマップ(行程表)を示します。