HOME > ニュース > プレスリリース > 核融合エネルギー実現に向けた研究が更に進展
平成23年4月7日
核融合科学研究所(岐阜県土岐市、所長・小森 彰夫)は、将来の核融合エネルギー実現に向け幅広い分野で以下に代表される成果を挙げ、それらを4月11日から核融合科学研究所で開催される「平成22年度研究プロジェクト成果報告会」で報告致します。
- 我が国独自のアイデアによる世界最大の超伝導核融合実験装置である大型ヘリカル装置(LHD)を用いて、イオンの温度が7,500万度に達する高温のプラズマを生成することに成功しました。これまでの最高イオン温度は6,500万度であり、核融合エネルギー実現を見込むために必要な1億度以上の目標に一歩近づきました。
- スーパーコンピュータを用いた大規模な数値実験(シミュレーション)によって、LHDプラズマ実験で発生する「プラズマのゆらぎ」を再現することに成功しました。これによりプラズマ中の熱の伝わり方を理論的に評価することができるようになり、将来の核融合炉の性能予測へとつながる成果が得られました。
- 核融合炉のプラズマ容器用の鉄鋼材料にナノサイズ(1メートルの1億〜10億分の1)の微粒子を混合することにより、高温で大きな力を受けた時の変形を約20万分の1に低減できることを見いだしました。核融合炉の高温長時間運転に大きく寄与するものです。
【解説 1】
将来の核融合発電は1億度以上の温度で重水素と三重水素の間で起こる核融合反応を用います。1万度以上の温度では、全ての物質はプラズマと呼ばれるイオンと電子に分かれ電離した気体の状態になります。核融合は水素イオン同士が融合する反応であることから、イオン温度が高いことが必要です。イオンはプラスの電気を持っているため、このプラスの電気同士の間に働く反発力に打ち勝って、イオン同士を融合する距離まで近づけないといけません。このためには、電気の反発力に打ち勝つスピード、すなわち温度が必要です。大型ヘリカル装置では水素ガスを用いたプラズマのイオン温度を7,500万度まで上げることに成功しました。定常方式では世界最高の記録です。この高温プラズマの性質を調べることによって、目標である1億度以上の温度を持ったプラズマの性質の予測がより容易となり、核融合発電炉の設計が現実になりつつあります。
これまで得られたプラズマ性能を表に示します。赤字は本年度達成したものです。
核融合エネルギーの実現を目指す学術研究を推進している本研究所が運用している大型ヘリカル装置は世界最大の定常プラズマ発生装置であり、全国の大学や研究機関からの多くの研究者がこれを用いて学術研究を共同で行っています。平成23年度の第15サイクル実験は7月27日から10月20日まで実施する予定で、現在その準備を進めています。
【本件のお問い合せ先】
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係
【解説 2】
数値実験研究プロジェクトの研究グループは、LHD実験から得られたプラズマをコンピュータ・モデルによって正確に再現し、プラズマ中にどのようなゆらぎが発生し、これによりどの程度熱が伝わるかをスーパーコンピュータ・システム「プラズマシミュレータ」(図2.1)を使い、100時間以上かけて計算を行い詳しく調べました。その結果、実験で得られたプラズマのゆらぎと同じ現象が再現でき、熱の伝わり方も一致することがわかりました。
この研究では、プラズマ粒子の空間分布と速度分布を表す理論式を、スーパーコンピュータを使って解いています。こうすることで一億度にもおよぶ超高温プラズマの性質を調べ、そこで発生するゆらぎの特徴や熱の伝わりやすさを見積もることができるようになりました。
核融合エネルギーの実現を目指す学術研究を推進している本研究所が運用している「プラズマシミュレータ」は77テラフロップスという演算速度を持つ、核融合分野では最速のスーパーコンピュータであり、全国の大学や研究機関からの多くの研究者がこれを用いて学術研究を共同で行っています。
【本件のお問い合せ先】
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係
【解説 3】
将来の核融合発電炉では、ブランケットと呼ばれる構造物で超高温プラズマを取り囲み、熱エネルギーを取り出し燃料を生産します。このブランケットは中性子を取り込みますので、放射化しにくい(一時的に放射化しても短時間で放射線発生量が減衰する)鉄鋼材の開発が進められてきました(低放射化フェライト鋼)。しかし、この低放射化フェライト鋼は使用温度が550℃を超えると急激に強度が低下し、高温運転をする際の障害となっていました。
核融合工学研究プロジェクトでは、京都大学や北海道大学などと共同で、低放射化フェライト鋼の中にナノサイズ(1メートルの1億〜10億分の1)の微小な酸化物粒子を混ぜることにより、硬度を上げ変形しにくいよう改良する研究を進めてきました。一般の鉄鋼材は原料を溶解することによって作りますが、新しい鋼材は微粒子を混ぜるので、図3.1に示すようなメカニカルアロイング(MA)法という特殊な方法を用います。
図3.2は、新しい鋼材(赤線)と従来の低放射化鋼材(黒線、緑線)の引っ張り力に対する強さを温度を変えて比較したものです。新しい鋼材は全ての温度で従来よりも強く、設計強度を満たす温度限界は、従来に比べ約150℃高くなることが分かります。また、低荷重を長時間加えることによる変形試験では、550℃、300MPa (3000気圧)の荷重で、従来の低放射化フェライト鋼は急速に変形し破断に至りますが、新しい鋼材では変形の速さが約20万分の1に減少し、長時間の使用が可能であることが分かりました。温度を変えた試験により、変形速度の観点からも新しい鋼材は従来に比べ約150℃高い温度で使用できることが示されました。
核融合炉では、ブランケットで取り出した熱を電気に変換しますが、その変換効率は運転温度を上げることで高まります。使用温度を150℃上げることにより、変換効率が平均で4%程度上げることが期待されます。これは300万kW熱出力のプラントでは、12万kW(大型の水力発電所に相当)の発電量の増加となり、大きなものです。
【本件のお問い合せ先】
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係
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