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プレスリリース
核融合エネルギー実現に向けた研究が更に進展

平成24年4月5日

-- 高温プラズマから壁を守る新たな制御方法を立証 --
我が国独自の超伝導大型ヘリカル装置(LHD)において、
プラズマの周辺部の磁場を制御することにより
高温プラズマから壁への熱負荷を大幅に低減

-- 高温プラズマの複雑な空間・時間変化を
   バーチャルリアリティで可視化に成功 --
時間と共に複雑に変化する高温プラズマの数値シミュレーション結果を
プラズマの中に自分が入り込むバーチャルリアリティで再現

-- 高融点のタングステンで 
  真空容器壁等の材料を被覆する技術を確立 --
素材の種類や形状を選ばず、厚さも自由に変えられる被覆法を確立
高温や損耗に強く交換不要の真空容器の可能性を拓く

 核融合科学研究所(岐阜県土岐市、所長・小森 彰夫)は、将来の核融合エネルギー実現に向け幅広い分野で全国の大学と共に研究を進めており、平成23年度には以下に代表される成果を挙げました。それらを4月9日(月)から核融合科学研究所で開催される「平成23年度研究プロジェクト成果報告会」で報告いたします。

  1. 我が国独自のアイデアによる世界最大の超伝導核融合実験装置である大型ヘリカル装置(LHD)では、第15サイクルプラズマ実験を平成23年7月28日から10月20日にかけて実施しました。第一の成果はプラズマ中心のイオンの温度が8,000万度を超える高温のプラズマを生成することに成功したことで、昨年11月1日に報道発表いたしました。第15サイクルでは他に、プラズマの周辺部の磁場を制御することにより、高温プラズマから壁への熱負荷を大幅に減少させることにも成功しました。これは将来の核融合炉の耐久性を改善させることのできる重要な成果です。
    この他にも、高温プラズマを実現する上で重要な以下の成果が得られました。

    • FM周波数帯の電磁波(電波)を用いた壁の洗浄法の実証(高イオン温度達成に大きな貢献)
    • 異なるイオンが混じったプラズマのイオンの混合比を分光的に測る方法を確立 (将来の核融合炉で最適な燃料混合比を実現する上で重要)
    • プラズマ電位の変化を計測することにより、プラズマがうまく閉じ込められている領域の境界やその時間的変化を測定 (直接測定することが難しいプラズマ閉じ込め領域の変化を捉えることに成功)

    図1

    図1 (上) プラズマが高温になると間欠的にプラズマが真空容器の壁に逃げる現象が発生します(赤)。プラズマの周辺部の磁場を制御すると(青)間欠的に逃げる頻度は高まりますがピーク量が減少し、全体として壁への負荷を数分の1に減少させることに成功しました。(この成果は米国 General Atomics らの研究グループとの国際共同研究によるものです)
      (下) プラズマの周辺部の密度を上げて、プラズマから壁に逃げるエネルギーをプラズマの周辺部で光に変えて逃がすことにより壁への熱負荷をほぼゼロにする「非接触プラズマ状態」を、プラズマ周辺部の磁場を制御することにより低いプラズマ密度から安定に作り出すことに成功しました(青)。
         
  2. 数値実験研究プロジェクトでは、スーパーコンピュータを用いた大規模な数値シミュレーションによって得られた時間と共に変化するプラズマの振る舞いを研究しています。
    従来は、ある特定の時間のプラズマの空間構造を、3次元空間で目に見える形にして、研究者があたかもプラズマの中に入ったように観測できる3次元のバーチャルリアリティシステムを利用してきました。今回、この空間構造が時間と共に変化するバーチャルリアリティシステムを構築することに成功し、より複雑なプラズマの振る舞いの解析が行えるようになりました。

    図2

    図2 時間発展するシミュレーションデータに対応した3次元バーチャルリアリティを用いて、プラズマ中の急激な粒子の加速現象のシミュレーション結果を解析している様子。正面と床のカラーマップはそれぞれ磁場成分とイオンの温度分布を表します。青線と白線はそれぞれ磁力線とイオンの軌道を表します。矢印(黄色の矢尻と青の箆(の)で表されている)はイオンの速度を表します。
  3. 核融合工学研究プロジェクトでは、微粒子をプラズマで溶かして材料表面にスプレーする方法(プラズマスプレー法)を応用し、タングステンで真空容器等の材料を被覆保護する技術を、核融合研と京大、九大、静大、東北大、他との共同研究によって確立しました。これによって高温や損耗に強い交換不要の核融合炉真空容器等の可能性が拓けました。この被覆法は素材の種類や形状を問わず、厚さも自由に変えられることから、様々な分野への応用が期待できます。

    図3

    図3 タングステンで被覆された材料の断面の電子顕微鏡写真。様々な核融合炉用材料に、いろいろな厚さのタングステン被覆が直接成膜されています。

【解説 1】
将来の核融合炉の真空容器の壁は核燃焼するプラズマからの大きな熱に曝されますが、この熱負荷を下げることが装置の耐久性、安全性の観点から重要になります。そこでは、
(1)プラズマで起こる不安定性によって生じる間欠的かつ衝撃的な熱負荷を抑制すること
(2)プラズマの中心部の温度を下げることなしに周辺部の温度を下げる、できればプラズマが壁に来ないようにすること、
の二つが決定的な課題となります。この二つの課題に対して、プラズマの周辺部の磁場を制御することが有効であることが実証されました。

LHDは高温のプラズマを閉じ込める超伝導コイル以外に、装置の上下に10対の電磁石を持っています。図1−1の赤いコイルです。この電磁石は通常の銅製のコイルであり、プラズマの周辺部の磁場を制御することなどに使われます。

図1−1

図1-1 LHDの電磁石システム。青色が1対のヘリカルコイル、金色が上下3対のポロイダル磁場コイルであり、これらが桃色のプラズマを閉じ込める磁場を発生させる。ポロイダル磁場コイルの上下にある赤色の10対のコイルでプラズマの周辺部の磁場を制御する。

(1)については高温プラズマを生成すると、プラズマの周辺部の圧力が高くなり不安定性が発生し、その不安定性によってエネルギーが排出、すなわち壁への間欠的な熱負荷が発生します。この瞬間的なエネルギーは核融合炉では非常に大きなものとなり壁の損傷を起こしかねませんので、この不安定性を抑制する研究が世界的にも行われています。
LHDでもこのような間欠的な熱負荷が観測されますが、この状態でプラズマの周辺部の磁場を制御すると、不安定性の発生が頻繁になり、一つ一つの熱負荷が小さくなることが分かりました。これによって壁への熱負荷は時間的に均等化され、大幅に減少しました。(図1(上)

(2)については、プラズマの周辺部の密度を上げることでプラズマからの光として逃げるエネルギーを増やし温度を下げることができます。しかし、この温度の下がりがプラズマの中心部へ伝わり、中心部のプラズマの温度までが下がることは避けねばなりません。これについてもプラズマの周辺部の磁場を制御することが有効であることが確かめられました。
図1(下)に示したのがプラズマからの光として逃げるエネルギーとプラズマの密度との関係です。×印が通常の運転時のものであり、光として逃げるエネルギーは密度と共に増加していきます。そしてある上限を超えると、急激に光として逃げるエネルギーが増大し、プラズマは中心部も冷えて消えてしまいます。これが、プラズマの周辺部の磁場を制御すると、青丸で示すように、比較的低い密度から光として逃げるエネルギーが大きくなるのですが、かなり広い範囲の密度で、この光として逃げるエネルギーが一定となります。この条件では、プラズマの中心部には高い温度のプラズマが存在しますが、プラズマの周辺部では十分に温度が下がり、壁の前にはプラズマが存在しない状態となります。このため、壁への熱負荷はほとんどなくなります。

 平成24年度のLHD第16サイクル実験は、8月29日より11月22日まで行うことを予定しています。現在、新たな高性能排気装置の設置を進めています。この装置はプラズマの周辺部の密度を制御することができます。今年度の実験では、この装置を稼働させ、より高い中心部のイオン温度などの実現を目指します。

図1−2
図1−2 今年度の実験に向け設置中の高性能排気装置。

 

【本件のお問い合せ先】
核融合科学研究所 大型ヘリカル装置計画 研究総主幹 教授 山田 弘司
TEL  0572-58-2200

【解説 2】
磁場に閉じ込められた高温のプラズマは複雑な振る舞いを示します。この複雑な現象を調べる方法の一つとして、スーパーコンピュータによるシミュレーション研究が重要な役割を果たしています。シミュレーション研究は複雑な高温プラズマの様子をコンピュータの中で再現します。このようにコンピュータが作ったプラズマを可視化して調べるための装置として、本研究所では、プラズマの中に入って観測しているような没入型バーチャルリアリティ装置を導入しています。
このバーチャルリアリティ装置は、観測者をバーチャルリアリティの空間に投入し、あたかも目の前に物体が存在しているかのように感じさせることができる装置です。また、観測者の視線を変えたり、コントローラーで動かしたりすることにより、プラズマ現象を中から見たり外から見たり、いろいろな角度から観測することができます。
本研究所ではこのたび、兵庫県立大学及び海洋研究開発機構との共同研究により、時間とともに変化するプラズマの振る舞いを3次元空間で可視化するシステムの構築に成功しました。
これまでは、プラズマのシミュレーション結果からある特定の時刻のみを取り出してバーチャルリアリティ空間で観測していました。しかし、実際のプラズマは時間とともに変化します。新しいシステムでは、そのような時間変化するプラズマを、時間を進めたり止めたりしながら観測することができます。空間の3次元と時間の1次元を合わせた4次元空間での解析を可能としました。この成果は、プラズマ・核融合学会誌2012年2月号(Vol.88(No,2))の表紙を飾りました。

 このようにバーチャルリアリティ装置を使えばコンピュータが作る様々なバーチャルリアリティの世界に観測者が入り込むことができ、人間の空間を認識する能力を総動員して物理現象を「目の当りに」観測することができます。時間変化するプラズマをバーチャルリアリティの世界で観測することが可能になったことで、プラズマ中の粒子の急速な加熱現象等の解明が進み、核融合プラズマの理解が更に進展するものと期待されます。

 本研究所が運用しているスーパーコンピュータ「プラズマシミュレータ」は、全国の大学や研究機関の多くの研究者が利用して学術研究を共同で行っています。本年10月には演算速度を4倍以上(理論値)に上げる性能アップを行い、更なる高性能シミュレーションに対応させます。

【本件のお問い合せ先】
ヘリカル研究部 基礎物理シミュレーション研究系 研究主幹・教授 石黒 静児
TEL 0572-58-2540

図2−1
図2−1 核融合科学研究所のスーパーコンピュータ・システム「プラズマシミュレータ」

 

【解説 3】
核融合炉真空容器の最も内側の部分は第一壁と呼ばれます。第一壁の材料には、核融合反応で発生する中性子で放射化されても、短い期間でその放射能が減衰する低放射化材料が使用されます。また、高温のプラズマに曝されるため、第一壁は高温や損耗から保護されることが非常に重要です。

 低放射化材料の融点は、鉄鋼で1500℃、バナジウム合金で1900℃です。これに対して、タングステンは、金属としては最高の3400℃の融点を持つため高温に強く、さらにプラズマ粒子による損耗にも強いことが知られています。タングステンで低放射化材料を被覆する技術が確立されれば、高温や損耗に強い交換不要の核融合炉真空容器をつくることが可能となります。当研究所の核融合工学プロジェクトでは、京都大学、九州大学、静岡大学、東北大学、等の全国の大学との共同研究により、タングステンで各種材料を被覆する研究に取り組んできました。

 図3−1は、今回タングステンを被覆するために用いたプラズマスプレー法の概要です。
タングステンの微粒子を、アルゴンと水素の高温プラズマに混ぜて溶かし、基板である低放射化材料にスプレーします。溶けたタングステンは基板に到達するとすぐに冷やされて固まるので、基板が溶けてしまうことはありません。今回、プラズマの生成、原料タングステン微粒子のサイズ、基板の温度などの条件を最適化することで、密着性が良いタングステン被覆の生成に成功しました。冒頭に示した図3は実際に作製したタングステンで被覆された材料の断面です。
この方法は基板の種類や形状を選ばず、被覆厚さも自由に変えられることから、異なる材料の接合部分や曲面など複雑な機器表面への被覆も可能になり、核融合炉だけでなく他分野への応用も期待できます。

図3−1
図3−1 プラズマスプレー法の概要

【本件のお問い合せ先】  
ヘリカル研究部 核融合システム研究系 研究主幹・教授  室賀健夫 
TEL 0572-58-2257