HOME > ニュース > プレスリリース

プレスリリース

平成25年4月9日

大学共同利用機関法人自然科学研究機構
核融合科学研究所

核融合研究が更に前進
--超高温プラズマ生成法が大きく進展--
我が国独自の超伝導大型ヘリカル装置(LHD)において、
高い密度(10兆個/cc)での加熱手法を開発することにより
イオン温度8,500万度、電子温度1億5,000万度をそれぞれ実現
--高圧力プラズマ中に発生する乱れのシミュレーションに成功--
スーパーコンピュータの性能向上と新たなシミュレーションコード開発により
核融合プラズマ内で発生する複雑なプラズマの乱れの把握が可能に
--高温超伝導導体で6万アンペアを達成 --
核融合発電炉のマグネットに適用の見通し
導体の接続技術を東北大学大学院・量子エネルギー工学専攻と開発

 

 核融合科学研究所(岐阜県土岐市、所長・小森 彰夫)は、将来の核融合エネルギー実現に向け幅広い分野で全国の大学と共に研究を進めており、平成24年度には以下に代表される成果を挙げました。それらを4月10日(水)から核融合科学研究所で開催される「平成24年度研究プロジェクト成果報告会」で報告いたします。

 

  1. 我が国独自のアイデアによる世界最大の超伝導核融合実験装置である大型ヘリカル装置(LHD)では、第16サイクルプラズマ実験を平成24年10月17日から12月6日にかけて実施しました。第16サイクルプラズマ実験においては、超高温にプラズマを加熱する方法に大きな進展がありました。イオン温度については、FM周波数帯の電波を用いた壁の洗浄を組み込んだ運転方法の改善により、昨年度、記録された8,000万度を越える8,500万度を達成するとともに、このような高いイオン温度を再現性良く実現することができるようになりました。また、電子温度についても、加熱するマイクロ波の周波数を77ギガヘルツから154ギガヘルツへ倍増させた新しい加熱装置の導入により、これまでできなかった高い密度(10兆個/cc)での電子の加熱が可能となり、1億5,000万度の電子温度が得られました。このマイクロ波の高周波数化によって、核融合の密度条件である100兆個/ccの高密度においても有効な加熱が期待できます。これらの成果により、核燃焼プラズマを見通すために1億2,000万度の温度を密度20兆個/ccで達成するというLHDの最終目標に向かって、また一歩前進することができました。

    図1-1:最高イオン温度8,500万度を記録したプラズマ1−1のイオン温度分布
    図1−1 最高イオン温度8,500万度を記録したプラズマ中のイオン温度分布
    図1−2 電子温度と電子密度で見た達成領域
    図1−2 電子温度と電子密度で見た達成領域。赤丸が平成24年度に高周波数のマイクロ波によって得られた新データです。これまでに比べ、より高温・高密度のプラズマが生成されていることが分かります。
  2. 核融合発電を実現するためには、ドーナツ型の磁場の籠の中に高温のプラズマを安定に閉じ込める必要がありますが、プラズマの圧力(温度x密度)が大きくなると乱れた流れ(乱流と呼ばれる)が発生し、粒子や熱が圧力の高いプラズマ中心から圧力の低い周辺に向かって吐き出され、プラズマ閉じ込めの妨げになります。核融合科学研究所では、スーパーコンピュータを用いた大規模な数値シミュレーションによって、この核融合プラズマにおける乱流現象の研究を行っています。昨年、スーパーコンピュータの計算性能を77テラフロップスから315テラフロップスへグレードアップしたこと及び国内で初めて大型ヘリカル装置内のイオンと電子両方の運動を解く数値シミュレーションコードを開発したことにより、従来よく分からなかった高圧力プラズマにおける乱流の様子が明らかになりました(図2−1参照)。この成果によりイオンや電子の熱がどのような速さで吐き出されるかを調べることが可能になり、プラズマを安定に閉じ込める研究が進展しています。
    図2−1 大型ヘリカル装置内のプラズマ中に現れる乱れの分布を示します
    図2−1  大型ヘリカル装置内のプラズマ中に現れる乱れの分布を示します。
    縦軸は磁気面(プラズマを閉じ込めるかごの網面に相当する)に沿う方向、横軸は垂直(網面を横切って外へ逃げる)方向を示しています。また、赤は時計の針が回る方向の流れ、青はそれとは逆向きの流れを表しています。圧力が低い場合は流れのパターンが水平に沿って分布しますが、一方、圧力が高い場合は流れのパターンが斜めに傾くことが分かります。
  3. 核融合科学研究所では、将来の核融合発電炉のマグネットに適用可能な高温超伝導導体の開発研究を進めており、この度、世界最高記録となる6万アンペアを達成しました(これまでの最高は核融合科学研究所で以前に出した1万5千アンペアです)。導体には日本で開発された先進のイットリウム系薄膜高温超伝導線材を用いています。テープ形状の線材を単純かつ強固に重ねて大型導体を構成する新発想を実証し、安定な通電を行いました。また、導体の一部に適用されている分割型超伝導マグネット接合技術は、東北大学大学院・量子エネルギー工学専攻で開発研究され、核融合科学研究所との共同研究により実証された新しい技術です。
    図3−1 大型高温超伝導導体サンプル(左)と核融合科学研究所・超伝導マグネット研究棟の9テスラ大型導体試験設備へのサンプル装着の様子(右)
    図3−1  大型高温超伝導導体サンプル(左)と核融合科学研究所・超伝導マグネット研究棟の9テスラ大型導体試験設備へのサンプル装着の様子(右)

【解説 1】

 将来の核融合発電炉では、その炉心は、密度100兆個/cc以上の密度でイオン温度と電子温度が1億2,000万度を越える超高温のプラズマ状態にあります。この密度は大気の20万分の1程度であることから分かるように、非常に希薄なガス状態でもあります。

 このような超高温までにプラズマを加熱するために高速の原子のビームや、プラズマ中のイオンあるいは電子と共鳴する電磁波を用います。これらの手法は、それぞれイオンを加熱するのが得意なものと、電子を加熱することが得意なものに分かれます。LHDでは複数の加熱手法を用いて、イオン温度と電子温度がそれぞれ1億2,000万度のプラズマを密度20兆個/ccで実現することを最終目標としています。LHDの装置規模において、この最終目標を達成することが、将来の核融合発電炉の炉心プラズマを見通すことにつながります。

 

 LHDでは第15サイクルプラズマ実験で、FM周波数帯の電磁波(電波)を用いてヘリウムのプラズマを点けると壁に吸着されていた水素がはき出され(壁が洗浄され)、その後に水素でプラズマを点けるとプラズマ周辺部の密度が下がり、高速の原子ビームがプラズマ中心を加熱する効果が上がって高いイオン温度の達成に大きな貢献をすることが分かりました、第16サイクルプラズマ実験では、この条件をさらに調査、改善することによって、イオン温度を500万度更新する8,500万度まで上昇させることに成功しました(図1−1)。このイオン温度の上昇自体は大きなものではありませんが、運転手法の確立により、このような高いイオン温度の状態を再現性良く、より確実に得られるようになりました。具体的には、イオン温度8000万度以上を達成したプラズマの放電回数は昨年度の4倍となり、実験の効率を大きく向上させることができました。その結果、実験データを充実させることができ、より詳細、精密な物理の議論が進められるようになりました。

 

 電子の加熱には磁場中での電子の回転運動に共鳴するマイクロ波が有効です。回転運動と同じあるいは倍数の周波数を持った電磁波が同期することによって電磁波からエネルギーをもらい電子の温度が上がります。ところが、プラズマの密度が上がると、電磁波がプラズマ中を伝わりにくくなり、ある密度(遮蔽密度)以上では全く伝わりません。高い密度のプラズマを加熱するためには高い周波数の電磁波が必要となります。第16サイクルプラズマ実験では、これまで使用してきた77GHz(ギガヘルツ)に加えて、筑波大学との協力により新たに研究開発した2倍の周波数(154GHz)のマイクロ波を発生させることができるジャイロトロンと呼ばれる発信管が稼働し始めました。図1−2に電子の温度と密度でみた達成領域の拡大を示します。今年度のデータを赤丸で示しており、新しい領域が拓かれたことが分かります。また、図1−3に77GHzと154GHzの電磁波を用いた加熱実験の結果を横軸プラズマの密度、縦軸を加熱効率として示します。154GHzでは77GHzの2倍近い140兆個/ccのプラズマまで加熱できました。この新しいジャイロトロンにより、これまで10兆個/ccでの密度では1億度であった電子温度を、同じ密度で1億5,000万度まで上昇させることができるようになりました(図1−4)。

図1−3 マイクロ波の周波数の増加による高い密度での加熱が実証されたデータ。 実線が理論計算からの予測で、丸印が実験結果です。点線はそれぞれの周波数の電波が、これ以上では伝わらなくなる密度の上限を示しています。

図1−4 密度10兆個/ccでの最高電子温度を記録したプラズマ中の電子温度分布。プラズマ中心を局所的に加熱しているので鋭いピークを持ちます。

【解説 2】

 核融合発電を実現するためには、ドーナツ型の磁場の籠を作り、その中に核融合条件を満たす高温のプラズマを閉じ込めておく必要があります。ところが、プラズマの温度を高くする過程において、プラズマの中に乱れた流れ(乱流と呼ばれます)が生じてしまいます。この乱れた流れは、磁場の籠を横切って中心付近にある高温のプラズマを外側に運び出す働きをするため、高温プラズマを長い時間閉じ込めることが難しくなります。
核融合科学研究所の数値実験プロジェクトでは、スーパーコンピュータを用いた大規模な数値シミュレーションによって、この核融合プラズマにおける乱流現象の研究を行っています。これまでに、木星に現れる縞状の整然とした流れ(ゾーナル流と呼ばれます)と同様の流れが乱れの中から自然に現れ、乱れによる高温プラズマの漏れを押さえることが分かりました。さらにこの漏れを押さえる物理過程を理解することにより、大型ヘリカル装置で観測されるプラズマ閉じ込め改善の物理機構の解明に成功してきました。しかし、従来の数値シミュレーションではプラズマの圧力が十分低いと仮定し、プラズマを構成する粒子の中で正の電荷を持った重いイオンの運動のみを計算してきました。核融合発電で実現するようなプラズマは圧力が高く、このような仮定をすることはできません。
本研究所では、圧力が高いプラズマ中の乱れを記述するために、重いイオンとともに負の電荷を持った軽い電子の運動を解く数値シミュレーションコードを国内で初めて開発しました。イオンより数千分の一軽い電子の運動をイオンと同時に数値シミュレーションするには非常に性能の高いコンピュータを必要とします。昨年10月に、核融合科学研究所のスーパーコンピュータの性能が約4倍に向上され(図2-2)、このような計算が可能となりました。このスーパーコンピュータを用いて、一カ月に渡る長時間の計算を行うことにより、圧力が高い場合の大型ヘリカル装置に現れる乱れた流れの様子を捉える事に成功しました。図2-1はドーナツ外側の一部を拡大した乱れの分布を示します(横軸はドーナツの磁場の籠を横切る方向を、縦軸はドーナツの磁場の網面の沿った方向を表します)。圧力が低い場合は乱れのパターンが水平方向にそろって分布しますが、圧力が高い場合は乱れのパターンが斜めに傾いて分布します。この傾いた乱れのパターンは、圧力が低い場合には現れなかったもので、これまで明らかにされたものと根本的に異なる物理機構によって生み出された可能性があり、現在、その機構を理解するために研究を進めています。この研究成果は海外学術誌Nuclear Fusion の4月号(または5月号)に掲載される予定です。

図2−2 性能が向上した核融合科学研究所のスーパーコンピュータ

図2−2 性能が向上した核融合科学研究所のスーパーコンピュータ(プラズマシミュレータ)

【解説3】
核融合科学研究所で設計を進めているヘリカル型核融合発電炉では、数百本の大型超伝導導体をドーナツの周りにらせん状に巻いて、直径32メートルに及ぶ巨大なヘリカルコイルを製作する必要があります。そこで、図3−2に示すように、らせんの半周ごとに導体を現地で接続しながら巻線する方法を提案しています。これを可能とするのが高温超伝導導体です。

 

 現在の核融合実験装置には「低温」超伝導導体が用いられ、液体ヘリウムを用いて運転温度を絶対温度4度(摂氏マイナス269度)に保っています。「高温」超伝導導体を用いると絶対温度20度以上で運転することが可能となり、格段に高い安定性や経済性などが得られます。核融合発電炉に必要な電流値は10万アンペアで、今回その半分を超える6万アンペアを達成しました。これは国際熱核融合実験炉ITERに用いられる低温超伝導導体(6万8千アンペア)に匹敵する性能です

 

 導体には日本で開発された先進のイットリウム系薄膜高温超伝導線材を用いています。テープ形状の線材20枚を単純に重ねて銅とステンレスのジャケットに収めました。大型導体を構成する場合、テープ形状の線材でも複雑に撚り合わせるのが欧米のやり方ですが、逆転の発想として単純かつ強固に積層することで強度と安定性に優れた導体が構成できることを実証しました。達成した電流値は絶対温度4度で6万アンペア、絶対温度20度(摂氏マイナス253度)で5万アンペアという世界に例を見ないものです。(電流密度は1平方ミリメートルあたり約30アンペア。)

 

 導体の一部に適用されている分割型超伝導マグネット接合技術は、東北大学・量子エネルギー工学専攻の橋爪秀利教授・伊藤悟助教によって研究開発された新しい技術です。これを用いて変圧器の原理である電磁誘導方式によって大電流を流しました。この時、接続抵抗が核融合発電炉に適用できる十分低い値となることが実証されました。

 

実験に用いたイットリウム系薄膜高温超伝導線材は、世界最高の臨界電流(超伝導状態を破らずに流せる最大電流)性能を誇っており、送電ケーブル、変圧器、エネルギー貯蔵などスマートグリッドの一端を担う電力機器や、大型モーター、医療用加速器、リニアモーターカーなどへの実応用が期待されています。今回の成果は、高温超伝導線材の大電流輸送技術と高性能接続技術を提供するものとしても重要で、今後の産業応用をさらに推進するものとなるでしょう。

図3−2 高温超伝導導体を用いたヘリカルコイルの接続方式巻線方法の概念図

図3−2 高温超伝導導体を用いたヘリカルコイルの接続方式巻線方法の概念図

【本件のお問い合せ先】

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係
t

top