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平成27年4月7日
自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・竹入康彦)は、平成26年度の研究を終了し、上記3つに代表される研究成果を上げ、 核融合研究を更に前進させることに成功しました。以下に詳しく説明します。
- 大型ヘリカル装置(LHD)において、イオン温度7,000万度及び電子温度8,800万度を同時に達成しました。また、1億2,000万度の電子温度を平均電子密度20兆個/ccで達成しました。さらに、ベータ値4%を超える高いプラズマ圧力を、従来より高い磁場強度1万ガウスにおいて達成することにも成功しました。
- LHDの周辺に存在する乱れた磁力線構造内に、閉じた磁気面が存在することが理論的に知られていましたが、米国・プリンストンプラズマ物理研究所との共同研究により、この予想をコンピュータシミュレーションで再現することに成功しました。この結果、LHDのプラズマ閉じ込め予測の研究が大きく飛躍することが期待されます。
- プラズマからの強い熱を受ける機器の材料として期待されているタングステンは、高温で力を受けると破壊しやすいことが欠点でしたが、カリウムとレニウムを添加して組織を微細化することにより、1,000度から1,300度の間における強度の低下を抑えることに成功しました。
これらの成果は、4月8日から10日まで核融合科学研究所で行われる「平成26年度研究プロジェクト成果報告会」において発表されます。
報道資料-その1
—プラズマの運転領域が大きく拡大:高温、高ベータに—
プレスリリース内容
我が国独自のアイデアによる世界最大の超伝導核融合プラズマ実験装置「大型ヘリカル装置(LHD)」において、平成26年11月6日から平成27年2月5日まで行った実験で、イオン及び電子の温度が、いずれも7,000万度及び8,800万度という高温プラズマを生成することに成功しました。また、1億2,000万度という電子温度を、平均密度20兆個/ccという高い密度領域で生成・維持することに成功しました。さらに、超高温状態の実現とともに、プラズマ圧力に関する運転領域の拡大もなされ、4%を超えるベータ値(プラズマ圧力と磁場圧力の比)を、これまでより高い1テスラ(1万ガウス)の磁場強度で達成しました。
LHDでは核融合を目指した超高温プラズマの実験研究を進めています。平成26年度の第18サイクルプラズマ実験では、燃料粒子(水素あるいはヘリウム)制御法の最適化及び加熱機器の増強によってプラズマの性能が向上し、以下の3点においてプラズマ運転領域が拡大しました。
(1)イオン温度7,000万度及び電子温度8,800万度を同時に達成(図1-1)
これまでLHDでは、密度10兆個/ccのプラズマで最高イオン温度9,400万度並びに最高電子温度1億5,000万度を達成しています。しかし、これらの値は異なる実験条件のプラズマで別々に達成されたものです。一方、将来の核融合発電において、核融合燃焼により維持されるプラズマ中の電子とイオンは、ともに高い温度で平衡状態になることが予想されます。今回の実験で、電子とイオンが同時に高い温度の状態に達成したということは、核融合プラズマの条件に近づいたことを意味しています。
(2)電子温度1億2,000万度を、平均密度20兆個/ccのプラズマで達成(図1-2)
電子密度分布が中心で窪んだ形状をしているため、中心部の密度が16兆個/ccとなっていますが、「密度20兆個/ccで電子温度1億2,000万度」というLHDの最終目標値に向けて大きく前進しました。
(3)プラズマの高圧力化(図1-3)
磁場閉じ込め核融合装置は、コイルが作る磁場の圧力でプラズマを閉じ込めます。プラズマの圧力と磁場の圧力の比をベータ値(プラズマの圧力/磁場の圧力)と呼びます。ベータ値が高いということは、圧力の高いプラズマを低い磁場で閉じ込めることを意味します。磁場を低くすることができれば経済的な核融合炉を作ることが可能となりますが、プラズマの閉じ込め性能も低下するため極端に低い磁場を選択することはできません。LHDでは経済的な核融合炉実現の指標である「ベータ値5%」を既に磁場強度0.425テスラ(4,250ガウス)で達成しています。第18サイクルのプラズマ実験では、磁場強度1テスラ(1万ガウス)でベータ値4%を超える高い圧力のプラズマの保持に成功し、より核融合炉に近い条件でプラズマの高圧力化を達成しました。これによりLHDの最終目標である「磁場強度1万ガウスにおけるベータ値5%」に近づきました。
森﨑友宏大型ヘリカル装置計画研究総主幹は「平成26年度の実験で、プラズマの温度と圧力という核融合プラズマを実現する上で重要なパラメータ(値)の領域を拡大することができました。これは、プラズマ性能の向上を図るために必要な手法の確立と、その背後に存在する物理に対する理解が進んだことに因っています。今後はLHDにおいて核融合炉を見通すことができる高性能プラズマを生成し、その性質を調べていきます。」と話しています。
今回の新記録となる研究成果
- LHDにおいて、7,000万度の高イオン温度と8,800万度の高電子温度を同時に達成しました。また、平均密度20兆個/ccにおいて、1億2,000万度の電子温度を達成しました。これは電子を加熱するマイクロ波システムの電力増強とその入射法の最適化を行ったことに起因します。これによって、大電力マイクロ波がプラズマの中心まで届くようになり、効率的に電子を加熱することができたことが、今回の記録更新に繋がりました。
- プラズマの高圧力化を高い磁場領域で実現しました。プラズマの圧力と磁場の圧力の比をベータ値と呼び、経済的な核融合炉の指標としています。今回の実験では、磁場強度1テスラ(1万ガウス)で4.1%のベータ値を示す高い圧力のプラズマの生成に成功し、LHDの最終目標である磁場強度1万ガウスでのベータ値5%達成に向けて前進しました。高磁場における運転では、プラズマの温度を上げることができるため、従来よりもプラズマの振る舞いが核融合炉の条件に近い運転を行うことが可能となります。成功のカギは、プラズマとコイルの位置関係やプラズマの太さを変えるなど、プラズマを閉じ込める磁場容器の形状を制御することにより、粒子閉じ込め性能の高い状態を維持し、かつ粒子補給条件を最適化したことにあります。
研究成果の社会的意義
- 核融合炉を見通すことができるプラズマに向けて、性能拡大が進展しました。
- LHDの装置仕様(プラズマの大きさ、磁場の強さ、加熱電力等)で、温度1億2,000万度を1ccあたり20兆個の密度で実証し、そのプラズマを詳しく調べることによって、発電実証を行う核融合炉の設計を、より確実なものとすることができます。将来の核融合燃焼するプラズマでは、電子及びイオンが共に高い温度となることが予想され、今回の成果によって、そのようなプラズマの詳細な研究が可能であることが示されました。
図1-1 イオン温度7,000万度及び電子温度8,800万度を同時達成したプラズマのイオン温度、電子温度、及び電子密度分布。プラズマはおよそ0.6メートルの断面半径を持っていますが、加熱される中心部の温度が最も高くなります。 |
図1-2 平均電子密度20兆個/ccで1億2,000万度の電子温度を達成したプラズマの電子温度分布及び電子密度分布。 |
図1-3 高温高密度の指標に対するベータ値の変化。高温高密度の指標はプラズマの衝突頻度の逆数に比例し右に行くほど温度が高い。磁場を強くすることによってプラズマの温度が上がり、結果としてプラズマの振る舞いを核融合炉の条件に近づけることができます。 |
報道資料-その2
-- プラズマ周辺部の磁場構造をコンピュータで再現-—
LHDのプラズマ周辺部の閉じ込め予測が大きく進展
プレスリリース内容
LHDではプラズマの周辺部に乱れた磁力線構造が存在します。しかし、一見、乱れているように見える構造の中に閉じた磁気面が存在し得ることをコンピュータシミュレーションにより証明しました。このことは、LHDのプラズマ周辺部の閉じ込め予測を大きく進展させる成果です。
核融合発電を実現するためには、磁力線でプラズマを閉じ込める「かご」を作る必要があります。その「かご」は磁気面と呼ばれ、端のないドーナツ状(円環状)で、幾重にも入れ子になっています。かごに綻びがあるとプラズマの熱や粒子が漏れ出てしまうため、きれいな入れ子の構造を持った磁力線のかご(磁気面)をいかに作るかが核融合発電を実現する上で重要になります。
しかし、LHDのように複雑な形状を持つ実験装置の場合、プラズマの周辺部の磁場は乱れており、きれいな入れ子の構造になっていません。そのため、従来、周辺部の磁場は、プラズマを閉じ込める容器として役に立たないと考えられてきました。しかし、一見、乱れているように見える周辺部の磁場の構造の中に、中心のプラズマを取り囲むような、ドーナツ状の閉じた磁気面が隠れていることが理論的に予測されてきました。
今回、乱れた磁力線構造中に存在する閉じた磁気面を構築するためのシミュレーションコードの開発・整備を行い、実際のLHDを正確に再現したモデル磁場中に、理論的に予測された閉じた磁気面が存在することを明らかにしました。これは、LHDのプラズマ周辺部の閉じ込め予測の研究を大きく進展させる成果です。
この研究は、米国・プリンストンプラズマ物理研究所との共同研究で行われました。
新しい研究成果
- 従来、きれいな入れ子の磁気面形状のみがプラズマを閉じ込めることができると考えられてきましたが、乱れた磁力線構造中にも閉じた面が存在し、それがプラズマを閉じ込める働きをする可能性があることが分かりました。
- 力学系理論によって予測される乱れた磁力線中の閉じた面が、実際の装置の中に存在することが示されました。
研究成果の社会的意義
- 核融合炉を実現するために必要な、プラズマと壁とを繋ぐ「周辺」領域の理解が進むと期待されます。
- プラズマ周辺部の磁力線が乱れた領域での閉じ込め研究が進展しました。
図2-1 プラズマを閉じ込めるための磁場のかご(たくさんの磁力線に囲まれている)の3次元鳥瞰図。籠はねじれドーナツの形をしている。 色が赤い部分は、温度が高いことを意味する。プラズマの外側の磁力線は、完全に入れ子状にはならず、一部は装置の壁に繋がっている。 |
図2-2
図2-1に示した、プラズマを閉じ込める磁力線のかごの断面図。中心部付近は、きれいに入れ子状になった磁力線のかごが存在する。一方、閉じ込め領域の外側は、きれいな入れ子状にはなっておらず、互いに重なり合った複雑な構造を持つ。 従来、この領域はプラズマを閉じ込めるには適さないと考えられてきたが、理論的 にはプラズマを閉じ込める閉じた磁気面が隠れていることが予測されてきた。 |
図2-3 LHDを正確に再現した磁力線のかご(磁気面)の断面図。周辺部の一部を拡大したものである。とても複雑な構造であるが、青色の線は、右端から左端まで、更には断面全体で見ても、中心のプラズマを囲むように、ほぼ隙間無く繋がっている。(3次元的に見ると、青色の磁力線は、プラズマをらせん状に取り囲みながら、ドーナツ状の閉じた面を形成する。)このような構造はプラズマを閉じ込める働きをすると期待される。 |
報道資料-その3
-- 高温でも丈夫なタングステン合金の製作に成功--
核融合炉用のプラズマ対向機器の高性能化研究が大きく進歩
プレスリリース内容
核融合科学研究所では、核融合の炉心プラズマからの強い熱に耐える機器の開発を進めてきました。高熱に耐えられる材料として期待されているタングステンは、高温で力を受けると破壊しやすいことが欠点でしたが、カリウムとレニウムを添加し、組織を微細化することにより1,000度から1,300度の間における強度の低下を抑えることに成功しました。
これは高熱を受ける機器の高性能化研究を大きく進展させるものです。
将来の核融合炉において、プラズマに面する機器(プラズマ対向機器)は、プラズマからの強い熱と粒子を受ける必要がありますが、それに耐える材料として、融点が金属材料の中では最も高いタングステンが期待されています。炉の設計にも依存しますが、プラズマ対向機器は、その表面温度が1,300度付近までの高温になっても使えることが求められます。しかし、従来の金属タングステンは、1,000度以上では比較的小さな力でも変形を起こすため、1,000度以上の高温でも変形しにくいタングステン材料の開発が大きな課題でした。
金属材料は原子が規則正しく並んだ「結晶構造」を形成していますが、実際は異なった方向を向いた結晶の粒(結晶粒)が隣り合い、その境界(結晶粒界)で破壊を起こすことが知られています。この結晶粒が大きいと、力が特定の結晶粒界に集中してしまい破壊が起こりやすくなります。また、板材への成形においてはロールによって一方向に引き延ばす加工(圧延加工)を行いますが、結晶粒が圧延の方向に延びる(異方性が大きい)と、延びた方向に特に亀裂が発生しやすくなるという問題があります。
核融合科学研究所では、東北大学・長谷川晃教授のグループとの共同研究により、タングステンにカリウムを少量添加することによって結晶粒を小さくし、更にレニウムを添加することによって、微小かつ異方性の小さい結晶粒を有するタングステン材料を製作することに成功しました。
この材料について、高温での変形開始から破壊に至るまでの強度を測ったところ、カリウム、レニウム添加により1,000℃から1,300℃付近まで高い強度が維持されることが分かりました。
1,000℃以上の高温でも丈夫なタングステン合金の製作に成功したことは、核融合装置においてプラズマからの強い熱に耐える機器の高性能化を進めることに大きく貢献すると期待されます。
相良明男 核融合炉工学研究プロジェクト研究総主幹は、「ヘリカル型核融合炉のプラズマ閉じ込め研究が著しく進展する中で、超高熱流を処理する材料の開発研究は喫緊の課題の一つです。今回のタングステン合金の開発は、核融合原型炉の実現に近づく大きな一歩になります。」と話しています。
新しい研究成果
- 核融合炉において、プラズマからの強い熱に耐える材料として期待されるタングステンに、カリウムとレニウムを添加することにより、高温での強度を大きく向上させることに成功しました。
- この成果は、プラズマからの強い熱に耐える機器の高性能化を大きく進展させると期待されます。
研究成果の社会的意義
- 核融合炉のプラズマに面する機器で用いるタングステン合金の高温強度を大きく向上させたことで、核融合炉の高性能化に貢献すると期待されます。
- 新しく製作したタングステン合金は、広い温度範囲で破壊しにくいことが分かりました。この成果は、核融合以外の分野、例えば大型電気炉のヒーターや熱反射材等に用いるタングステンの強度向上にも寄与すると期待されます。
図3−1 純タングステンと、カリウム、レニウム添加タングステンの圧延加工後の結晶粒組織。純タングステンでは、結晶粒は大きく、圧延加工の方向に沿って延びていますが、カリウム、レニウム添加材では結晶が微細になり、圧延方向に延びる傾向も小さくなっています。 |
図3−2
引張り試験により破壊に至るまでの強度を各温度で求めました。カリウム、レニウム添加により、各試験温度で強度が上昇しました。特に、純タングステンでは1,000度以上で強度が急激に低下しますが、カリウム、レニウム添加により1,300℃付近まで高い強度が維持されます。1,300℃では、純タングステンのほぼ3倍の強度が得られました。 (MPa : 材料に働く力を表す単位で、1MPa は約10気圧) |
【本件のお問い合わせ先】
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係