HOME > ニュース > プレスリリース > 環境保全、医療・バイオ用大気圧低温プラズマの電子密度計測方法を開発
平成27年5月14日
自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・竹入 康彦)と東京大学(東京都文京区 総長・五神 真)は、有害物質分解などの環境保全技術や医療・バイオ分野への応用が見込まれる、大気圧低温プラズマの電子密度計測方法を開発しました。
この成果は、学術雑誌 Journal of Physics D: Applied Physics に掲載されるとともに、2つの国際会議(1st EPS Conference on Plasma Diagnostics、8th International Workshop on Microplasmas)において、招待講演として発表しました。
研究グループ秋山 毅志 | (自然科学研究機構核融合科学研究所 ) |
占部 継一郎 | (東京大学大学院新領域創成科学研究科) (現在、株式会社 エア・リキード・ラボラトリーズ) |
寺嶋 和夫 | (東京大学大学院新領域創成科学研究科) |
リリース概要
核融合科学研究所の秋山 毅志 准教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻の占部 継一郎 博士研究員(日本学術振興会特別研究員、現在は株式会社エア・リキード・ラボラトリーズ研究員)、寺嶋 和夫 教授らの研究グループは、環境保全や医療・バイオ分野への応用が見込まれる、大気圧低温プラズマの電子密度計測方法を開発しました。核融合プラズマ研究における計測技術を応用し、従来は大気の影響で困難であった、干渉計での電子密度計測を可能にしました。
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研究の背景
大気圧低温プラズマを有害物質分解などの環境保全や医療・バイオ分野に応用する研究は、世界中で行われています。それぞれの分野で最適なプラズマを作るためには、プラズマの物理量を精密に測定し、制御する必要があります。電子密度は基本的な物理量の一つであり、これまで様々な測定方法が用いられてきました。レーザー光を用いた干渉法はプラズマの電子密度計測の代表的な手法ですが、大気圧低温プラズマの場合は、プラズマ内及び周囲の大気の状態変化の影響によって、電子密度を正確に測定することが難しいという問題がありました。
一方、大型ヘリカル装置(LHD)を用いて高温・高密度のプラズマの閉じ込め研究を行っている核融合科学研究所においても、高精度な電子密度計測手法の開発が大きな研究テーマになっています。
大気圧プラズマ 核融合プラズマは真空に近い条件で作られますが、大気圧プラズマは大気圧下で作られます。 これにより、日常的な環境下で様々な応用が可能になります。 大気圧プラズマ応用の例 医療(皮膚創傷治癒、止血、殺菌等) 環境有害物質分解、検出 表面処理(コーティング、親水・撥水加工等) |
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大気圧プラズマの医療応用のイメージ図 |
研究成果
核融合科学研究所のLHDによる実験研究において、プラズマの電子密度を高精度で計測可能なディスパーション干渉計(高調波干渉計)を開発しました。高温プラズマ計測で開発したこの手法を利用することで、今回、大気圧低温プラズマの高精度計測で問題となる、大気(ガス)の影響を大幅に低減することに成功しました。それにより、電子密度を高精度でかつ比較的簡易に測定できることを実証しました。
大気圧低温プラズマで精度良く電子密度を測定できることで、経験や試行錯誤だけに頼ることなく、医療・バイオ分野への応用等に最適なプラズマを作ることができるようになります。さらに、電子密度が正確に測定できることで、生体や環境有害物質との作用で重要な活性イオン種の挙動を、コンピューターシミュレーションで解明することが可能となります。
今回開発した高調波干渉計による測定手法は、他の大気圧低温プラズマの電子密度計測手法と比較して、プラズマを作る際に使用するガスの組成によらず、高精度な電子密度測定が可能であるという利点もあります。これにより、大気圧低温プラズマ研究を基礎・応用の両面で大いに加速することが期待されます。
成果の社会的意義と今後の展開
本手法の開発は、医療・バイオ分野などへの大気圧低温プラズマの応用研究に貢献することが期待されます。現在の計測システムは比較的大きいため持ち運びが困難ですが、今後は持ち運びが容易で、かつ狭い空間でも使えるように小型化を進めます。また、より密度が低い大気圧低温プラズマでも使用できるように、密度の分解能の向上を図る予定です。
成果発表の詳細
”Application of phase-modulated dispersion interferometry to electron-density diagnostics of high-pressure plasma”
Keiichiro Urabe1,2, Tsuyoshi Akiyama3, Kazuo Terashima1
1 The University of Tokyo, 2 Japan Society for the Promotion of Science, 3 National Institute for Fusion Science
Journal of Physics D: Applied Physics, DOI 10.1088/0022-3727/47/26/262001
日本語訳
”高気圧プラズマの電子密度計測への位相変調型ディスパーション干渉計の適用”
占部 継一郎1,2、秋山 毅志3、寺嶋 和夫1
1 東京大学, 2 日本学術振興会, 3 核融合科学研究所
ジャーナルオブフィジクスD:応用物理
(本論文は、2014年6月5日付けで掲載されており、IOP Select論文に選定されました。)
”Development of a dispersion interferometer for magnetic confinement plasmas and application to high-pressure plasmas”
T. Akiyama1, R. Yasuhara1, K. Kawahata1, K. Nakayama2, S. Okajima2, K. Urabe3,4, K. Terashima3, and N. Shirai5
1 National Institute for Fusion Science, 2 Chubu University, 3 The University of Tokyo, 4 Japan Society for the Promotion of Science, 5 Tokyo Metropolitan University
1st EPS Conference on Plasma Diagnostics
Frascati, Italy, April 14-17, 2015
日本語訳
”磁場閉じ込めプラズマのためのディスパーション干渉計の開発と高気圧プラズマへの適用”
秋山 毅志1, 安原 亮1, 川端 一男1, 中山 和也2, 岡島 茂樹2, 占部 継一郎3,4, 寺嶋 和夫3, 白井 直機5
1 核融合科学研究所, 2 中部大学, 3 東京大学, 4 日本学術振興会, 5 首都大学東京
第一回プラズマ計測に関するヨーロッパ物理学会
イタリア, フラスカティ, 2015年4月14-17日
”Laser diagnostics of microplasmas on metal and liquid electrodes”
Keiichiro Urabe1,2,3
1 Air Liquide Laboratories, 2 The University of Tokyo, 4 Japan Society for the Promotion of Science
8th International Workshop on Microplasmas
Newark, USA, May 11-15, 2015
日本語訳
”金属や液体電極上に生成したマイクロプラズマのレーザー計測”
占部 継一郎1,2,3
1 エア・リキード・ラボラトリーズ, 2 東京大学, 3 日本学術振興会
第8回マイクロプラズマに関する国際ワークショップ
アメリカ合衆国, ニューアーク, 2015年5月11-15日
【研究サポート】
本研究は、日本学術振興会科学研究費事業(科研費)の支援を受けて行われました。
【本件のお問い合せ先】
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係