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プレスリリース

平成27年9月18日

高速2次元マイクロ波カメラを開発

 自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・竹入康彦)は、高温プラズマを計測するために、高速2次元マイクロ波カメラを開発しました。このカメラは、マイクロ波が霧や衣服、壁、土を透過することから、多くの応用が期待されています。平成27年8月27日から28日にかけて東京で開催された日本最大の産学マッチングイベントである「イノベーション・ジャパン2015~大学見本市&ビジネスマッチング~」において、高速マイクロ波カメラの映像をテレビで表示し、大きな注目を集めました。

研究グループ

長山好夫、土屋隼人(自然科学研究機構 核融合科学研究所)
山口聡一朗(関西大学) 
桑原大介(東京農工大学)
伊藤直樹(宇部工業高等専門学校)
杉戸正治(自然科学研究機構 分子科学研究所) 
間瀬 淳(九州大学名誉教授)

【リリース概要】

 核融合科学究所の長山好夫教授らは、高温プラズマの計測用に「高速2次元マイクロ波カメラ」を世界で初めて開発しました。関西大学、東京農工大学、宇部工業高等専門学校、分子科学研究所、九州大学(当時)などとの研究グループによるものです。この技術の応用により、航空機等の濃霧中の安全運行や地中の金属探索、非破壊検査など産業分野における新技術の発展が期待されます。

【研究の背景】

  核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)では、1億度にも達する超高温のプラズマを生成しており、そのプラズマ内に生じている複雑な現象を観察することは、核融合研究において非常に重要です。
超高温のプラズマの計測には様々な手法がありますが、長山好夫教授らの研究グループでは、電磁波の一つであるマイクロ波を利用した計測手法として、高速高感度のイメージセンサーを利用したビデオカメラの開発を行ってきました。これまで、米国では、1次元のマイクロ波イメージセンサーを用いたプラズマ計測が行われていましたが、一度の計測で得られる情報が非常に限られていることが問題であり、これを大幅に改善できる2次元のマイクロ波イメージセンサーの開発は、プラズマ計測において重要な課題の一つでした。
2次元のマイクロ波イメージセンサーを開発するためには、マイクロ波を検知する1次元のセンサーを並列させる必要がありますが、並列させることによって各センサー間で相互干渉を起こしてしまい、正確な情報が得られないという問題がありました。

【研究成果】

長山好夫教授らの研究グループは、2次元のマイクロ波イメージセンサーの開発において課題となっていたセンサー間の相互干渉の問題を、アルミ板を使用して内部構造を工夫することで解決し、マイクロ波を高速高感度で検知できる8×8画素の2次元マイクロ波イメージセンサー(図1、2)を新たに開発しました。これにより、LHDに閉じ込められた1億度近い超高温のプラズマを毎秒百万フレームという高速で撮像することに、世界で初めて成功しました。
新たに開発した2次元マイクロ波イメージセンサーは、64個のセンサーから構成されていますが、従来の問題であった各センサー間の相互干渉が原理的に発生しません。また、マイクロ波を利用した計測手法において重要な指標である「強度」と「位相」を同時に測定することができます。これらの特徴によって、本センサーは産業分野など広範囲な応用が期待できます。
本技術について学界・産業界に広く周知するため、関西大学の山口聡一朗准教授の協力を得て、計測したデータを映像化する高速マイクロ波カラーテレビを製作し、平成27年8月27日から28日にかけて東京で開催された「イノベーション・ジャパン2015~大学見本市&ビジネスマッチング~」において、実演展示したところ、産業界から多くの期待が寄せられました。

【今後の期待】

従来のマイクロ波イメージングは、レーダー方式や1次元センサーで走査するスキャナー方式などを用いており、低速でした。本研究成果を用いることで超高速マイクロ波カメラの実現が可能となり、マイクロ波の応用範囲が大きく広がることになります。
マイクロ波は霧や衣服を透過します。航空機や船舶などには衝突防止レーダーが搭載されていますが、本研究成果のマイクロ波カメラを用いることで、濃霧など気象条件の悪い中でもより早くより正確に他の飛行機や船舶などの位置が把握できるようになり、運行の安全性を飛躍的に向上させることが可能です。また、空港の保安検査場などで用いることで、衣服に隠された武器などの金属品を短時間で発見することが可能となります。また、マイクロ波は土や壁も通過するため、地中の金属の探索や非破壊検査に応用することで、作業効率を大幅に向上させることができます。本研究で開発したイメージセンサーの画素数は、高温プラズマ計測には十分ですが、産業応用のためには画素数を増やす必要があります。今後は、電子回路の専門家の協力を得て高画素センサーの開発を進める予定です。
核融合プラズマ計測から始まったマイクロ波イメージングですが、今後産業分野における新しい画像診断技術への発展が期待されます。

(図1)
2次元マイクロ波イメージセンサーの内部構造。携帯電話と同じ高速のヘテロダイン検波方式のセンサーを用いる。プリント基板に回路を並べ(b)、これをホーンアンテナ形(ラッパのような形)の溝を刻んであるアルミ板のフレーム(a)と(c)で挟む(d)。各センサーはアルミ板で隔絶されていて、相互干渉は原理的には起こらない。また、ホーン形にすることによって、マイクロ波の感度が向上した。
(図2)
8×8画素の2次元マイクロ波イメージセンサーの外観。

【用語解説】

ヘテロダイン検波: 携帯電話、ラジオやテレビなどで広く用いられているマイクロ波の検知方式。ノイズの影響を大きく減らし、マイクロ波の振幅と位相の両方を高感度で測ることができる。受信電波と周波数が近接した電気信号(局発)を周波数混合し、差周波数(中間周波数)の信号を作り、狭帯域のアンプで差周波数のみを増幅することで高感度を得る。

【特許】

長山好夫 特許第5334242号 (2013)
長山好夫、桑原大介、伊藤直樹、吉川正志、特願2014-112475 (2014)