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プレスリリース

平成27年11月4日

プラズマの新しい閉じ込め状態を発見

 自然科学研究機構・核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長•竹入康彦)では、大型ヘリカル装置(LHD)において考案した「瞬時加熱伝播法」を、米国のトカマク装置(ダブレットIII-D)に応用し、新しいプラズマの閉じ込め状態を発見するという大きな成果を上げました。

この研究成果をまとめた論文

"Self-regulated oscillation of transport and topology of magnetic islands in toroidal plasmas" K. Ida1, T. Kobayashi1, T.E. Evans2, S. Inagaki3, M.E. Austin4, M.W. Shafer5, S. Ohdachi1, Y. Suzuki1, S.-I. Itoh3, K. Itoh1
  1. National Institute for Fusion Science
  2. General Atomics
  3. Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University
  4. University of Texas
  5. Oak Ridge National Laboratory

日本語訳

"トロイダルプラズマの磁気島における輸送とトポロジーの自励振動"
居田克巳、小林達哉、トッド・エバンス、稲垣滋、マックス・オースチン、モーガン・シェーファー、大館暁、鈴木康浩、伊藤早苗、伊藤公孝

  1. 核融合科学研究所
  2. ジェネラル・アトミックス
  3. 九州大学応用力学研究所
  4. テキサス大学
  5. オークリッジ国立研究所
が、11月4日付けの英国ネイチャー・パブリッシング・グループの科学雑誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載されます。

プレスリリース内容

 核融合科学研究所の居田克巳教授・小林達哉助教らの研究グループは、九州大学応用力学研究所の共同研究者(稲垣滋教授)と核融合科学究所の大型ヘリカル装置の実験研究で考案した「瞬時加熱伝播法」を米国のトカマク装置(ダブレットIII-D)に応用し、米国の共同研究者(トッド・エバンス博士)とともに、磁気島と呼ばれるプラズマの領域での新しい閉じ込め状態を世界で初めて観測しました。この発見は核融合炉の閉じ込め改善に欠かせないため、今後の核融合研究の方向に大きな指針を与えるものとなります。また、学術的な波及効果も大きいものです。

研究の背景

 核融合を目指して、磁場で高温高密度のプラズマを閉じ込める研究が世界中で行われています。磁場閉じ込めプラズマにおいては、プラズマの中心温度が上がるにつれて、乱れたプラズマの流れが生じます。それを乱流といいますが、乱流は発生した場所にとどまらずに、波が押し寄せるように周りに移動するという性質を持っています。
 磁場閉じ込めプラズマの中には、磁気島と呼ばれる2重になった閉じ込め領域が存在し、この領域では乱流の発生源となる温度勾配がありません。そのために、温度勾配が存在する磁気島の外で発生した乱流が磁気島の内部に入り込み、その大きさによって磁気島内部の閉じ込め状態が決定されます。将来の核融合プラズマにおいても、磁気島の閉じ込め状態を改善することは極めて重要です。
 また、天体プラズマにおいても磁気島というプラズマ閉じ込め領域の存在が、太陽フレアーの発生などに関わっているとの可能性も指摘されており、磁気島における乱流の研究は極めて重要なテーマです。

研究成果

 今回、大型ヘリカル装置(LHD)で考案した、プラズマの閉じ込め性能(断熱性)を瞬時加熱による温度変化の大きさと伝播速度から計測する「瞬時加熱伝播法」を、米国のジェネラルアトミックス社のトカマク型核融合実験装置ダブレットIII-Dに応用することにより、磁気島と呼ばれるプラズマの領域において、新しい閉じ込め状態を発見しました。
 プラズマの領域の閉じ込め性能が良い(断熱性が高い)状態の場合には、外部から侵入しようとする熱の伝播が遅くなると同時に、温度変化の量が小さくなります。従って、プラズマに瞬間的な加熱を行い、その温度変化の量と伝播速度を計測すること(「瞬時加熱伝播法」)で閉じ込め性能がわかります。かねてより磁気島内部は閉じ込め性能が良い(断熱性が外部より7倍高い)ことは、LHDで見い出されていましたが、今回、ダブレットIII-Dのプラズマにおいて、閉じ込め性能が「特に優れた磁気島」が発見されました。しかも「良い状態(断熱性が5倍高い)」と「さらに優れた状態(断熱性が40倍高い)」の2つの異なる断熱性をもつ状態を行ったり来たりする現象(自励振動)を発見しました。
 この自励振動に伴い、磁気島の中に、温度変化が伝わる状態とあまり伝わらない状態が、交互に繰り返されるという事実を初めて観測しました。この自励振動の発見は、プラズマの閉じ込め性能(断熱性)に多様性があることを意味し、良い状態の磁気島を作る指導原理を与え、今後の核融合研究に大いに貢献するものです。また、この新たに発見された物理現象は、宇宙天体でも起こっている可能性があり、今後更に広く学問的波及効果が期待されます。
 本研究成果は、英国ネイチャー・パブリッシング・グループの学術誌サイエンティフィック・リポーツ(電子版)に平成27年11月4日付けで掲載され、広く一般公開されます。

図1 三日月型の磁気島に温度変化が伝わる様子を緑色の濃さの変化を、赤線で示した異なる時刻で示したものです。破線は閉じ込め性能(断熱性)が急変した時刻を示しています。閉じ込め性能(断熱性)が悪い時(左図:t < 0)には、温度変化が磁気島の内部にまで侵入しています。(磁気島内部の色が緑色に変わっています)。閉じ込め性能(断熱性)がよい状態に変化すると(右図:t > 0)、温度変化の磁気島の内部へ侵入が抑制されて、磁気島内部での温度変化がほとんどなくなります(磁気島内部の色は白色のままで変わりません)。

【用語解説】

乱流:プラズマを加熱していくと、温度勾配が大きくなるにつれて小さい渦状の流れができ、温度勾配の上昇が妨げられる。この小さい渦状の流れは大きさも様々で不規則状に並んでいるので乱れた流れ(乱流)と呼ばれている。この乱流は、海の沖で発生した波が、穏やかな潮溜まりに入り込んでくるように、温度勾配がない領域にも入り込むことができる。

磁気島:プラズマを閉じ込めるために与えられた磁場は、プラズマ断面において右図のように同心円状の磁気面と呼ばれる面(白い部分)を形成している。その中に更に形成された螺旋状の三日月型の閉じた曲面(赤い部分)を、川の中の島のように見えることから磁気島という。この磁気島はプラズマの外から見ると、2重に囲まれた閉じ込め領域となっている。

瞬間加熱伝播法: 打音検査で叩いた後の音を聞いて金属の状態を調べるように、瞬間的にプラズマに熱を加えて、その熱が伝わる速さからプラズマの閉じ込め性能を調べる方法。核融合科学究所のLHDで考案された実験手法。

本件のお問い合わせ先

核融合科学研究所・ヘリカル研究部

 広報委員会副委員長 樋田 美栄子(といだ みえこ)

   電話:0572-58-2379

 高温プラズマ物理研究系教授 居田克巳(いだ かつみ)

   電話:0572-58-2182