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プレスリリース

平成27年11月11日

最新鋭スーパーコンピュータにより核融合研究が加速

 自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・竹入康彦)では、スーパーコンピュータシステム「プラズマシミュレータ」を更新し、平成27年6月1日から稼働を開始しました。
 これにより、これまで以上に大規模なシミュレーションが可能となり、世界で初めて、大型ヘリカル装置(LHD)の重水素のプラズマ中に発生する波や渦といった乱れをシミュレーションすることに成功しました。
 その結果、軽水素に比べて重水素のプラズマでは乱れが抑制されることが明らかとなり、重水素実験におけるプラズマの高性能化を予測するとともに、その機構を解明する成果を挙げました。
 この成果は、平成27年11月24日から27日にかけて名古屋大学で開催される第32回プラズマ・核融合学会年会において発表されます。

リリース概要

 核融合科学研究所の数値実験炉研究プロジェクトの仲田資季助教らの研究グループは、平成27年6月1日から稼働を開始したスーパーコンピュータ「プラズマシミュレータ」を用いて、世界で初めてLHDにおける重水素プラズマの乱れのシミュレーションを実現しました。これにより、重水素のプラズマでは、軽水素のプラズマに比べて熱の閉じ込めが改善されることを予測しました。
プラズマシミュレータの性能は、プラズマ・核融合科学研究の専用計算機としては、世界一です。その全性能を駆使して得られた本成果は、今後のLHD重水素実験におけるプラズマの高性能化の研究につながるものであり、さらに、最新鋭のプラズマシミュレータの利用によって核融合研究が飛躍的に進展することが期待されます。

研究の背景

 核融合発電の実現には、プラズマを1億度以上の温度にまで加熱し、その熱を閉じ込めて高温状態を長時間維持する必要があります。
 プラズマの温度の向上と長時間維持に向けた研究テーマの一つに、プラズマの乱流という現象があります。プラズマ中に波や渦といった乱れ(すなわち乱流)が発達すると、プラズマの温度の高い部分が温度の低い部分にかき混ぜられるため、プラズマの温度が向上しません。プラズマは多数のイオンと電子の集合である上に磁場で閉じ込められているため、このプラズマの乱れはとても複雑で、それを調べるためには、実験に加えて、スーパーコンピュータによる大規模シミュレーションが欠かせません。
 核融合科学研究所の数値実験炉研究プロジェクトでは、プラズマの乱れをシミュレーションするためのプログラム –5次元プラズマ乱流シミュレーションコード「GKV」を開発しています。これまで、「GKV」を用いて、LHDの軽水素プラズマの乱れや熱の閉じ込めの研究を行ってきました。一方、LHD実験では、平成29年3月から、これまで用いてきた軽水素の約2倍の質量を持つ重水素を用いた実験を行う予定です。重水素のプラズマでは、軽水素のプラズマに比べて、プラズマ性能の向上が予想されるため、乱れや熱の閉じ込めがどのように変わるかを解明することは重要な研究テーマです。ところが、重水素プラズマのシミュレーションは、より大規模で長時間を要するため、これまでその実行は極めて困難でした。
 平成27年6月1日から稼働を開始した「プラズマシミュレータ」は従来に比べて8倍以上も性能が向上したため、その全性能を駆使することにより、LHDの重水素プラズマの乱れについてのシミュレーション研究が可能になりました(図1)。

研究成果

 プラズマ乱流シミュレーションコード「GKV」を改良し、新プラズマシミュレータの全性能を駆使することで、LHDにおける重水素プラズマの乱流シミュレーションを世界で初めて実現しました。そして、捕捉粒子と呼ばれる磁場の中を往復運動する粒子が生み出す乱れを解析し、従来の軽水素に比べて重水素のプラズマでは、乱れが抑制されて熱の閉じ込めが改善されることを明らかにしました(図2)。また、乱れの抑制の原因は、「ゾーナルフロー」と呼ばれる現象が、プラズマの乱れとなる大きな渦や波を効果的に分断するためであることも明らかになりました。

成果の社会的意義と今後の展開

 新プラズマシミュレータによって得られた本成果は、今後のLHD重水素実験におけるプラズマの高性能化の研究につながるものです。今後は様々な条件でのプラズマ乱流シミュレーションを行い、重水素プラズマの乱れと熱の閉じ込めを詳しく調べる予定です。新プラズマシミュレータによって、プラズマの乱流現象の解明をはじめとする重水素実験における高性能プラズマに関する研究の飛躍的進展が期待されます。

図1:旧システムと新プラズマシミュレータの計算性能の比較。
旧システムに比べて新プラズマシミュレータは8倍以上に性能が向上し、その性能は世界で12番目、国内で2番目となる(性能指標 HPCG benchmark(平成27年6月時点))。
 LHDにおける重水素プラズマの乱流シミュレーションを実行するには、旧システムでは計算だけで400 時間以上かかり、全体の解析が完了するまで(シミュレーションを開始して、最終的な結果が得られるまで)半年以上を要していた。新プラズマシミュレータでは、計算は50時間、全体の解析は1ヶ月程度で済むようになり、従来のコンピュータでは困難であった多くの条件についてシミュレーション解析を行うことが可能になった。

図2:(a)は乱流シミュレーションで得られた軽水素と重水素のプラズマにおける熱の閉じ込め時間の比較。軽水素に比べ、重水素のプラズマでは乱れを抑制する流れ(ゾーナルフロー)がより強く形成され、熱の閉じ込めが改善し、熱の閉じ込め時間が増加している。(b)から(d)はLHDプラズマ中の乱れの分布の比較。濃い赤色の部分で強い渦や波が生じている。軽水素プラズマ(c)で見られる大きく長い赤い部分が、重水素プラズマ(d)ではゾーナルフローによって小さく短く分断され、乱れが抑制されて、熱の閉じ込めが改善されている。なお、(b)から(d)の色は、プラズマの密度の揺らぎの強度を表す。

【用語解説】

軽水素と重水素:
重水素は、水素(軽水素)の同位元素と呼ばれる安定な物質。水素の原子核である陽子に中性子が加わったもので、化学的な性質は変わらず、水素の約2倍の質量を持つ。自然界における存在割合は、軽水素が99.985%、重水素が0.015%。

5次元プラズマ乱流シミュレーションコード「GKV」:
磁場で閉じ込められた高温プラズマの乱れの振る舞いは、数学的に5次元空間(粒子の3つの位置座標に速度の2成分が加わった数学的空間)の運動を表現する方程式で記述される。3次元の方程式で記述される水や空気の流動現象とは大きく異なり、プラズマが持つ複雑さや多様性を表している。スーパーコンピュータを最大限に活用して5次元の方程式を高速に解くことで、プラズマの乱流現象を解析する。

ゾーナルフロー:
発達した乱流から自発的に形成される帯状の流れ構造で、乱れをその流れによってすりつぶすかのように抑制する効果がある。木星大気の縞模様や地球大気のジェット気流においてもゾーナルフローが形成されている。

本件のお問い合わせ先

核融合科学研究所・ヘリカル研究部・基礎物理シミュレーシ研究系・准教授 兼
広報委員会副委員長 樋田 美栄子(といだ みえこ)

   電話:0572-58-2379