HOME > ニュース > プレスリリース > 核融合研究が更に進展

プレスリリース

平成28年4月5日

核融合研究が更に進展

 自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・竹入康彦)では、平成27年度の研究を終了し、上記3つに代表される研究成果を上げ、核融合研究を更に前進させることに成功しました。以下に詳細を説明します。

  1. 大型ヘリカル装置(LHD)では、平成28年度末に、これまでの軽水素ガスを用いた実験から、プラズマの高性能化が見込まれる重水素ガスを用いた実験に移行する計画です。これに先立ち、軽水素よりも質量が大きいヘリウムを用いた実験を行った結果、ヘリウムガスの導入量の増加に伴ってプラズマのイオン温度が有意に上昇することが分かりました。この結果から、軽水素よりも質量が大きい重水素を用いた実験に移行することにより、プラズマが更に高性能化することが期待されます。
  2. 没入型バーチャルリアリティ装置※1を用いて、LHDの実験で観測されたダスト粒子(プラズマに混入する微粒子)の動きのデータと計算で求めた磁力線のデータを融合して、これらを3次元仮想空間に一緒に表示することに成功しました。これにより、磁力線の影響を強く受けるダスト粒子の軌道と磁力線の構造を、観測者自身が仮想空間に入って詳しく観察することが可能になり、ダスト粒子の複雑な振る舞いをより明確かつ容易に解析できるようになりました。
  3. これまで技術的に困難とされていた中間層を使わない方法により、タングステンと銅合金の新たな冶金接合(ロウ付け接合)法を確立し、強力で壊れにくい強靭な接合を実現しました。これにより、核融合炉で超高熱負荷を受け止める機器(ダイバータ)の設計研究が進展し、除熱性能の高い高性能なダイバータの試験体の製作に成功しました。

 これらの成果は、4月6日から8日まで核融合科学研究所で行われる「平成27年度研究プロジェクト成果報告会」において発表されます。

報道資料-その1

- ヘリウムプラズマでイオン温度が上昇-
重水素実験におけるプラズマの高性能化が期待

プレスリリース概要

 我が国独自のアイデアに基づいた世界最大級の超伝導核融合プラズマ実験装置である大型ヘリカル装置(LHD)では、平成28年度末に、これまでの軽水素ガスを用いた実験から、高性能プラズマの実現が期待される重水素ガスを用いた実験に移行する計画です。これに先立ち、第18実験サイクルで、軽水素よりも質量の大きいヘリウムを用いた実験を行ったところ、イオン温度に有意な上昇が観測されました。この結果を、コンピュータ・シミュレーションと比較することにより、軽水素よりも質量の大きい重水素を用いた実験によって、プラズマの更なる性能向上が見込まれることが確かめられました。

研究の背景

 重水素は、普通の水素である軽水素と同じ電荷を持っており、化学的な性質は同じですが、質量が軽水素の2倍と重く、同位体と呼ばれています。これまでにトカマク型※2のプラズマ実験装置で行われた実験結果から、軽水素よりも質量の大きな重水素の方が、プラズマの閉じ込め性能が良いことが知られています。このように、プラズマの閉じ込め性能が同位体の質量に依存していることを同位体効果と言いますが、その原因は未だ解明されていません。
大型ヘリカル装置(LHD)では、ヘリカル型※3のプラズマ実験装置として本格的な重水素ガスを用いた実験を平成28年度末に開始する計画ですが、これにより、トカマク型と同様なプラズマの閉じ込め性能の改善が期待されており、それにより同位体効果を明らかにすることがLHDにおける重水素実験の重要な課題の一つとなっています。

実験の方法と結果

 重水素実験に先立つ準備研究として、軽水素とは性質が異なる元素ですが4倍の質量を持つヘリウムを用いて、質量の違いがプラズマ性能に与える影響を調べる実験を行いました。軽水素とヘリウムの混合ガスを使用し、混合するヘリウムガスの割合を変化させて生成したプラズマのイオン温度を計測したところ、図に示すように、質量の大きなヘリウムが多く含まれるプラズマほど、高いイオン温度が得られることが分かりました(赤線)。
この実験結果を解釈するために、京都大学との共同研究によりコンピュータ・シミュレーションで今回の実験を再現する試みを行ったところ、ヘリウムの混合割合に依存せず、イオン温度はほぼ一定となることが分かりました(青線)。このシミュレーションでは実験結果を再現できなかったということは、未知の閉じ込め改善要因(同位体効果)が、実際のプラズマには存在する可能性を示唆しています。

今後の展開

 ヘリウムガスを用いた今回の実験とそのシミュレーション結果により、プラズマを生成するガスとして軽水素よりも質量の大きな重水素を用いると、イオン温度の高い、閉じ込め性能の良いプラズマの生成が期待できることが分かりました。
同位体効果の物理機構は未だ解明されていません。研究所では現在、大規模なコンピュータ・シミュレーションによる同位体効果に対する理論的な研究も鋭意進めています。平成28年度末よりLHDにおいて重水素実験が開始されると、同位体効果に関する研究が、実験、理論両面から一気に進むものと期待されます。

図:水素-ヘリウム混合プラズマにおけるイオン温度

報道資料-その2

- 実験データと計算データを融合し
バーチャルリアリティで表示 -

仮想空間に入ってプラズマ中のダスト粒子の挙動を解析

プレスリリース概要

 没入型バーチャルリアリティ装置を用いて、LHDの実験で観測されたダスト粒子の動きのデータと計算で求めた磁力線のデータを融合して、これらを3次元仮想空間に一緒に表示することに成功しました。これにより、磁力線の影響を強く受けるダスト粒子の軌道と磁力線の構造を、観測者自身が仮想空間に入って詳しく観察することが可能になり、ダスト粒子の複雑な振る舞いをより明確かつ容易に解析できるようになりました。

研究の背景

 核融合発電を実現するためには、磁力線でできたカゴによって高温・高密度のプラズマを閉じ込めて長時間維持する必要があります。しかし、LHDの実験では、プラズマを閉じ込める容器の壁等からはがれた微粒子(大きさは1ナノメートル~100マイクロメートル程度※4で、ダスト粒子と呼ばれます)がプラズマ中にたくさん侵入して、プラズマの長時間維持を妨げる場合があります。ダスト粒子の軌道は磁力線の影響を強く受けますが、そのプラズマに及ぼす効果と影響を詳しく調べるためには、ダスト粒子が磁力線のカゴの中をどのように移動しているかを理解しなければなりません。
ダスト粒子はプラズマ中で光るため、LHD実験では、この光を2方向から高速カメラで撮影してダスト粒子の軌道を観測しています。一方、目に見えない磁力線の構造は、計算によって求めています。これら2つのデータを重ねて表示することにより、磁力線のカゴの中でのダスト粒子の複雑な振る舞いを解析することが可能となります。しかし、これまでは、これらの3次元データを2次元の平面ディスプレイに表示していたため、ダスト粒子と磁力線の位置関係を正確に把握することは困難でした。

新しい研究成果

 数値実験炉研究プロジェクトは、兵庫県立大学、神戸大学、甲南大学との共同研究により、研究所の没入型バーチャルリアリティ装置を活用して、LHDの実験で観測されたダスト粒子の動きを示す位置データと計算によって得られた磁力線のデータを融合して3次元空間に表示するシステムの開発に成功しました。これにより、ダスト粒子の軌道と磁力線の構造を3次元仮想空間に一緒に表示することが可能になりました。
没入型バーチャルリアリティ装置は、仮想空間の中に観測者が入って、あたかも目の前に ものが存在しているように感じさせることができる装置です。また、観測者が動いたり、コントローラーを操作することによって、視点をいろいろと変えることもできます。これまでは2次元平面ディスプレイに表示し、外部からプラズマを眺めながら立体構造を頭の中で想像していましたが、今回開発したシステムを使うことで、観測者自身がプラズマの中に入って、内部からあらゆる方向のダスト粒子の軌道や磁力線を眺めながら、その立体構造を目の当たりにすることができます。訓練を積んだ研究者だけではなく、初学者にも容易にその立体構造が理解できるようになりました。
このように、ダスト粒子と磁力線の位置関係をより正確かつ容易に観察できるようになった ことにより、プラズマ中のダスト粒子の解析が更に進み、その複雑な振る舞いの解明に貢献すると期待されます。

この成果は、平成27年9月に開催された国際会議「15th International Workshop on Plasma Edge Theory in Fusion Devices」 (PET15) で口頭発表され、学術雑誌への掲載が決定するとともに、3次元空間に表示した図がプラズマ・核融合学会2016年度卓上カレンダーに採用されました。

図:没入型バーチャルリアリティ装置を用いて、実験データと計算データを3次元仮想空間に一緒に表示し、ダスト粒子とプラズマ中の磁力線との関係を観察している様子(左図)と仮想空間における表示例(右図)。実際の設計データに基づいて表示した真空容器※5内部に、LHDの実験結果であるダスト粒子の軌道データと、計算結果であるプラズマの磁力線(緑線)や等圧力面(マゼンダ)を、一緒に表示しています。ダスト粒子の軌道は、異なる色(赤、黄、青、橙等)で複数表示しています。

研究成果の社会的意義、今後の展開

 没入型バーチャルリアリティ装置は、観測者をバーチャルリアリティの世界に入り込ませて物理現象を目の当りにさせることで、観測者に「気づき」を与えて新たな科学的発見を促すことができる装置です。LHDの実験で観測されたデータとシミュレーションによる計算データを一緒にバーチャルリアリティの世界で表示することが可能になったことで、実験研究とシミュレーション研究が更に融合して、核融合発電実現に向けたプラズマの理解がより一層進展するものと期待されます。

報道資料-その3

-タングステンと銅合金の強靭な接合法を確立し、
優れた冷却性能を有するダイバータ試験体の製作に成功-

核融合炉用の超高熱負荷対向機器の高性能化と製造コストの削減に貢献

プレスリリース概要

 これまで技術的に困難とされていた中間層を使わない方法により、タングステンと銅合金の新たな冶金接合(ロウ付け接合)法を確立し、強力で壊れにくい強靭な接合を実現しました。これにより、核融合炉で超高熱負荷を受け止める機器(ダイバータ)の設計研究が進展し、除熱性能の高い高性能なダイバータの試験体の製作に成功しました。

研究の背景

 磁場閉じ込め核融合プラズマでは、磁場のカゴにより高温プラズマを真空中で保持していますが、その周辺部では、プラズマの温度を十分に下げて、ダイバータと呼ばれる機器でプラズマを終端させています。将来の核融合炉では、このダイバータは強い熱負荷にさらされるため、核融合科学研究所では、除熱性能を高めたダイバータの高性能化設計研究を進めています。ダイバータの設計では、プラズマに面した部分に金属の中で最も融点が高いタングステンを使用し、そこで受けた熱は、そのすぐ裏側に接着した熱伝導性の良い銅合金の冷却管に水を流すことにより除熱します。タングステンと銅合金は互いに混ざり合わないため、両者の接着には、ロウ材という接着剤の役割をする物質を間に挟み込み、900度以上の高温で溶かして接着させるロウ付け接合法が一般的に用いられています。その際、タングステンと銅合金は高温での熱膨張率(温度によって体積が変化する比率)が大きく異なるため、従来の方法では、ロウ材だけではなく、クッションの役割をする柔らかい材料(中間層と呼びます)も同時に挟み込んで接着する必要がありました。ところが、中間層を挟み込むことにより、異なる材料を接着する面(接合界面)が増えることから、接合部の強度が弱くなるとともに除熱性能が下がり、さらには製造コストが上がるという問題がありました。

研究成果

 核融合工学研究プロジェクトでは、この問題を解決するために、ロウ材自身にクッションの役割を持たせることにより、中間層を使わないタングステンと銅合金の新たなロウ付け接合法を確立しました。その結果、強靱で壊れにくく除熱性能の高い接合を実現するとともに、優れた冷却特性を有するダイバータの試験体の製作に成功しました。
新しいロウ付け接合法では、材料の高温特性に優れた銅合金と、ロウ付け接合時の温度変化(900度以上の高温にした後、室温まで冷却する)によって生じる接合界面の変形をできるだけ小さくすることが可能な銅合金とロウ材の組み合わせがポイントでした。今回、これらの条件を同時に満たすものとして、酸化物分散強化銅(ODS-Cu)という銅合金と、BNi-6というロウ材(ニッケル89%、リン11%)を使用し、ロウ材の厚さ、処理温度や冷却時間を最適化してタングステンと銅合金の接合を行いました。そして、製作した接合体に外から力を加える試験を行った結果、ロウ材が変形して衝撃を吸収することにより、強靭な接合が実現できたことが分かりました。さらに、この方法で製作したダイバータの試験体に電子ビームによる熱負荷試験を実施したところ、将来の核融合炉で予想される程度の熱負荷(8MW/m2 ※6)においてもタングステン内部の温度は350度程度に抑えられるなど、高い除熱性能が確認できました。350度は、BNi-6ロウ材の融点(875度)やタングステンが脆くなる温度(1,500度)に比べて十分に低い温度です。新たに確立した接合法では中間層が無いため、タングステンで受けた熱が銅合金に伝わる抵抗が少なくなり、その結果、高い除熱性能を示していると考えられます。

研究成果の社会的意義、今後の展開

 この研究で新たに確立したロウ付け接合法及び機器製造技術は、将来の核融合炉用のダイバータの高性能化を実現するとともに、核融合炉建設時の製造コストの削減に大きく貢献すると期待されます。

図1:タングステン/銅合金ロウ付け試験体のロウ付け接合部に外部から力を加える試験を行いました。(a)の模式図に示したように、BNi-6ロウ材(茶色部分)が変形することによって力を吸収し、接合を壊れにくくします。(b)の赤曲線は、力を増やしていくにつれてロウ材が変形した量を、歪み量(%)で表した実験結果です。1でBNi-6ロウ材が変形を始め、外部からの力を吸収して、クッションの役割を果たしたことを示しています。ここで、3の面積が、ロウ材が吸収した力(エネルギー)に対応します。この面積が大きいほど強靭なロウ付け接合ができていることになります。なお、緑色の破線は、別のロウ材と銅合金を用いて接合を行った例です。ロウ材がほとんど変形せず、弱い力を加えただけで接合部が壊れました。破線が短い直線状態であるということは、つまり、3の面積がほとんどゼロであり、ガラスや陶器と同じように脆く簡単に壊れてしまうことを示しています。
図2:(a)は、BNi-6を用いたロウ付け接合法によって製作したダイバータの試験体の写真です。(b)は、ダイバータの試験体の断面図で、タングステンの表面に電子ビームで熱負荷を与えて健全性を調べる試験の様子を表した模式図です。(c)は、ダイバータの試験体への熱負荷試験の結果です。A点、B点は、それぞれ(b)で示したダイバータ試験体の断面図のA、 Bの位置に対応しています。8MW/m2の加熱パワーにおいてもタングステンの温度(A点)は350度程度に維持されています。この温度はBNi-6ロウ材の融点875度やタングステンが脆くなる温度1,500度に比べて十分に低い温度です。

【用語解説】

  • ※1 没入型バーチャルリアリティ装置
    3次元のシミュレーション結果や設計データなどを3次元の仮想空間に表示するための装置。3m×3mの大きなスクリーンで4方向(前左右下)から観測者を囲むことで、観測者を仮想空間に没入させ、任意の視点から任意の大きさで対象を立体的に観測することが可能。
  • ※2 トカマク型
    プラズマが磁力線に巻き付いて運動するという性質を利用して、磁力線で編んだカゴ状の磁気容器内に高温・高密度のプラズマを閉じ込める、磁場閉じ込め方式の一つ。ドーナツ形状のプラズマそれ自体に電流を流し、その電流で生じる磁場をプラズマ閉じ込め磁場として利用する。
  • ※3 ヘリカル型
    プラズマが磁力線に巻き付いて運動するという性質を利用して、磁力線で編んだカゴ状の磁気容器内に高温・高密度のプラズマを閉じ込める、磁場閉じ込め方式の一つ。ドーナツ型のプラズマ閉じ込め容器の周りにらせん状のコイルを巻いて、それに流れる電流が作る磁場でプラズマを閉じ込める。
  • ※4 ナノメートル、マイクロメートル
    1ナノメートルは、100万分の1ミリメートル。
    1マイクロメートルは、1,000分のミリメートル。
  • ※5 真空容器
    高温・高密度のプラズマを閉じ込めるための中空な金属容器のこと。
  • ※6 MW(メガワット)
    加熱パワーを表す単位で、1メガワットは100万ワット。
  • ※7 MPa
    材料に働く力を表す単位で、1MPa は約10気圧。