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プレスリリース
高速粒子によるプラズマの振動を解明

 自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・竹入康彦)は、高温プラズマに高速粒子を取り入れた新しいシミュレーションプログラムを開発し、大型ヘリカル装置(LHD)において高速粒子が引き起こすプラズマの振動を解明しました。
本研究成果は、10月17日から京都で開催される第26回国際原子力機関(IAEA)核融合エネルギー会議で発表されます。

リリース概要

 自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・竹入康彦)は、高温プラズマに高速粒子を取り入れた新しいシミュレーションプログラムを開発し、大型ヘリカル装置(LHD)において高速粒子が引き起こすプラズマの振動を解明しました。
本研究成果は、10月17日から京都で開催される第26回国際原子力機関(IAEA)核融合エネルギー会議で発表されます。

研究の背景

 安全で環境に優しい次世代エネルギーとして期待されている核融合発電は、核融合プラズマである重水素と三重水素の核融合反応を利用します。核融合反応によって発生する高速のアルファ粒子(ヘリウムイオン)は、プラズマを加熱して核融合反応に必要な高温状態を保持する重要な役割を担っており、その挙動の予測と制御は核融合反応を持続させる鍵を握っています。一方、プラズマは、総体として捉えると、電気を通す流動体でもあり、電流が流れることによって磁場が発生することから、磁気流体1)と呼ばれています。磁気流体であるプラズマは、水に例えると、水面に波が立つように、振動します。このようなプラズマの振動周期と、高速アルファ粒子がプラズマ内部を周回する周期が一致すると、共鳴によって振動の振幅が増大する可能性があります。その結果として高速アルファ粒子がプラズマ外部へ飛び出してしまうので、核融合炉の性能が低下することが懸念されています。核融合発電を実現するためには、プラズマの振動との相互作用を考慮した、高速粒子分布に関する信頼性の高い予測が必須です。

研究成果

 核融合科学研究所の数値実験炉研究プロジェクトでは、プラズマの様子と、高速粒子(図1)の動きを同時にシミュレーションできるプログラム(流体と粒子を連結するのでハイブリッド・シミュレーション2)と呼びます)を開発しました。これにより、プラズマと高速粒子を別々に計算していた従来の方法では不可能だった、プラズマの振動と高速粒子との相互作用をシミュレーションで詳しく調べることが可能になりました。

このハイブリッド・シミュレーションプログラムを用いて、スーパーコンピュータ(核融合科学研究所のプラズマシミュレータおよび国際核融合エネルギー研究センターのHelios)上で大型ヘリカル装置(LHD)の大規模シミュレーションを実行しました。LHD実験では、中性粒子ビーム入射によって生成する高速粒子を利用して、高速粒子とプラズマの振動の研究を進めています。図2に示すシミュレーション結果は高速粒子が引き起こすプラズマの振動の実験データをよく再現するとともに、実験では計測されていない詳しい振動の様子や、振動を増幅させる高速粒子と振動の相互作用を明らかにしました。このハイブリッド・シミュレーションプログラムはLHDの他にも国内外の核融合プラズマ実験装置に適用され、高速粒子分布と振動に関する実験結果との比較により、その信頼性が確認されています。今回、LHDの実験を再現できたことで、世界中の核融合プラズマ実験装置の高速粒子とプラズマ振動をシミュレーションできるプログラムを、世界で初めて完成させました。

研究成果の意義

 本研究所が開発したハイブリッド・シミュレーションプログラムによって、核融合炉心プラズマにおける高速アルファ粒子分布の予測精度が大きく向上しました。これにより、信頼性の高い運転シナリオの提案や核融合炉の設計、さらには核融合炉の早期実現に貢献できます。また、今回の成果により高速粒子と振動の相互作用に関する理解が進展しました。プラズマの振動は、プラズマを加熱する高速粒子の損失をもたらす一方で、振動が高速粒子から受け取ったエネルギーをプラズマに与えることにより、逆にプラズマを加熱することがあります。この物理機構は研究者の関心を集めており、本研究で得られた知見は、その研究基盤となる可能性を秘めています。

図1 図1: LHDの高速粒子は、ねじれたドーナツの形をしたプラズマの中を周回し、プラズマの振動を引き起こします。特に、高速粒子の周回の周期とプラズマの振動の周期が一致すると、振動の振幅が大きくなります。
図2: シミュレーションによって得られたLHDプラズマ中で高速粒子が引き起こす振動の様子です。ドーナツの断面で、振動によってプラズマの速度(左)と圧力(右)が増大した部分を青色で、減少した部分を赤色で表しています。

【用語解説】

1)

磁気流体モデル
プラズマを電導性流体として取扱い、プラズマの密度、流体速度、圧力と電磁場の時間発展を記述する物理モデル。

2)

高速粒子と磁気流体のハイブリッド・シミュレーション:
磁気流体モデルはプラズマ全体の振舞いを説明できる優れた物理モデルであるが、高速粒子とプラズマの振動の相互作用の研究では、個々の高速粒子の軌道を追跡する必要がある。高速粒子と磁気流体のハイブリッド・シミュレーションは、個々の高速粒子の運動と磁気流体の時間発展を物理的に矛盾なく連結したシミュレーションである。

【本件のお問い合せ先】
  • 核融合科学研究所・ヘリカル研究部・基礎物理シミュレーション研究系・准教授
    兼 対外協力部副部長 
    樋田美栄子(といだ みえこ)
    (TEL: 0572-58-2379)
  • ヘリカル研究部・核融合理論シミュレーション研究系・教授 
    藤堂 泰(とうどう やすし)
    (TEL: 0572-58-2245)