HOME > ニュース > プレスリリース > 液体金属シャワーを用いた核融合炉
自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・竹入康彦)は、将来の核融合炉に適用可能な受熱装置として、液体金属(溶融スズ)のシャワーを高温プラズマの縁にとびとびに設置するという新しい方式のシステムを考案しました。これにより、核融合炉におけるプラズマからの大きな入熱に耐えられ、かつ高い真空排気性能を有し、メンテナンスも容易な受熱装置を実現できます。
本研究成果は、10月17日から京都で開催される第26回国際原子力機関(IAEA)核融合エネルギー会議において発表されます。
リリース概要
核融合科学研究所の宮澤順一教授、相良明男教授らの研究グループは、核融合科学研究所で設計研究を進めているヘリカル型核融合炉において、高温のプラズマからの熱を受け止める装置として、液体金属(溶融スズ)のシャワーを、高温プラズマの縁にとびとびに設置するという新しい方式のシステムを考案しました。新方式では、カーボンなどの固体を用いる従来方式に比べ、耐熱性能が10倍以上となるとともに、高い真空排気性能も得られます。さらに、プラズマによる損耗で装置寿命が制限されることがなく、装置のメンテナンスも容易となります。ヘリカル型核融合炉は構造が三次元的で複雑なため、受熱装置に液体金属を用いることは困難と考えられてきましたが、本研究によりそれが可能であることが示されました。
研究の背景
磁場閉じ込め核融合炉では、磁力線によって高温のプラズマを閉じ込め容器から浮かせた状態で保持しますが、閉じ込め容器の一部には必ずプラズマが当たる場所ができてしまいます。そのような場所には、プラズマからの熱を受け止めるため、ダイバータと呼ばれる受熱装置が配置されます。核融合科学研究所のLHDなど、現在のプラズマ実験装置では、カーボンやタングステンなどの板あるいはブロックにプラズマを当て、それらを水で冷却する仕組みの固体ダイバータが一般的に用いられています。フランスで建設中の国際熱核融合実験炉ITERでも、タングステンブロックを水で冷却する方式の固体ダイバータが採用されています。
固体ダイバータは高温プラズマが当たると損耗するため、頻繁なメンテナンスが必要です。核融合科学研究所で設計研究を進めているヘリカル型核融合炉は、定常運転の見通しがつきやすいという特長がある一方、構造が三次元的で複雑なため、ダイバータのメンテナンスをいかに行うかが難しい技術課題となっています。
将来の核融合炉では、ダイバータが受け止める熱量が大きくなり、ITERの設計値である1平方メートル当たり約20メガワットより格段に大きくなる懸念もあります。この超高熱量に耐えられるダイバータとして、液体金属を用いる方法が40年以上も前に提案され、検討されてきました。溶融したリチウムやスズなどの液体金属の流れで高温プラズマを受け止めるというもので、流速を毎秒数メートル以上にできれば核融合炉の超高熱量にも耐えられます。一方、ダイバータには、プラズマから中性ガス化した粒子が溜まってきますので、それらを外部に排気するという役割も求められます。特に、構造が複雑なヘリカル型核融合炉において、高い耐熱性能と真空排気性能を両立できる液体金属ダイバータのアイディアは、これまでありませんでした。
研究成果
本研究では、液体金属の細い流れ=噴流をシャワー状に並べたものを高温プラズマの縁部に当て、プラズマが閉じ込め容器へ到達する前にプラズマを中性ガス化して排気するという、新しい方式の液体金属シャワーダイバータシステムを構築しました。液体金属には、低融点金属の中でも特に低蒸気圧で安価、かつ安全性に優れるスズを採用しました。
新方式では、装置をドーナツ型閉じ込め容器の内側10箇所のみにとびとびに設置します(図1)。これにより、メンテナンスが大幅に容易となります。その代わりにプラズマの当たる部分の面積が減り、それだけ熱負荷が増大しますが、高速液体金属流を用いればこれに対処できます。
高温プラズマは磁力線に沿って運動しますので、斜めに液体金属シャワーを設置することで、プラズマが通過できない強固な壁を構成しました(図2左)。液体金属シャワーの表面でガス化されたプラズマはシャワーの隙間を経て背面へと抜ける構造になっており、効率的な排気が可能です。
液体金属シャワーは、最新のITER用固体ダイバータで許容される値のおよそ10倍にも達する非常に大きな熱負荷を受けます。このような高い熱負荷でも、秒速4メートル程度の液体金属流を用いれば問題なく受け止められることが分かりました。図3に示したように、プラズマは一度はシャワーに触れるので閉じ込め容器には当たらないという大きな特長があります。
液体金属シャワーダイバータには、長さ数メートルの安定した噴流が必要です。噴流は重力で加速され、径が細くなるとともに表面が不安定になり、滴になったり、飛沫が発生したりします。これは受熱装置として好ましくありません。重力による加速を抑えるため、宮澤教授、相良教授らの研究グループは噴流の内部に流れの抵抗となる物体を入れることにしました。内部抵抗にはワイヤやテープ、あるいはチェーンを用います。どれが良いかは流体の種類や目指す速度によって異なります。内部抵抗があると噴流の高温部分と低温部分が攪拌されやすくなるため、最大温度を下げて液体金属の蒸発を抑える効果も期待できます。
図1 高温プラズマを閉じ込める磁力線の断面を上から見た図と液体金属シャワーダイバータの配置。 | 図2 液体金属シャワーダイバータの原理図。 |
図3 高温プラズマを閉じ込める磁力線の断面を横から見た図と液体金属シャワーの配置。 |
研究成果の意義
核融合炉で想定される超高熱負荷に耐えられるダイバータについては、これまで答えが無い状況でした。本研究はこの難問にブレークスルーを与えるものであり、将来の核融合炉実現に向けての大きな一歩となります。
本研究に関連して、長さ数メートル以上にわたり噴流を安定化する技術を開発しました(現在特許出願中)。噴流は蛇口から出る水道水や消防車からの放水など、ありふれた現象ですが、その活用方法には多くの可能性を秘めています。特に、安定な長い噴流には、農業や化学の分野から、加湿器やインテリア装飾など私たちの生活に密着した分野まで、幅広い応用が考えられます。学術的な研究対象としても、大変魅力的です。本研究により噴流の有用性に注目が集まれば、関連する研究分野の活性化も期待できます。
【本件のお問い合せ先】
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係