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プレスリリース

平成29年4月21日

大学共同利用機関法人自然科学研究機構
核融合科学研究所

-1億度を超えるイオン温度を達成-

 自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・竹入康彦)では、大型ヘリカル装置のプラズマ性能の向上を目指して、平成29年3月7日に重水素実験を開始したところですが、現在までの実験で、従来の軽水素プラズマによる最高温度を凌ぐ1億度を越えるイオン温度を達成しました。また、重水素実験が安全管理計画に従って実施されていることも確認しました。以下に詳細を説明します。

  1. 大型ヘリカル装置(LHD)では、現在、平成29年2月8日に開始した第19サイクルプラズマ実験が進行中です。軽水素ガスにより実験を開始しましたが、3月7日に重水素ガスを用いた実験に移行しました。重水素プラズマは軽水素プラズマより、プラズマの性能(温度等)が向上することが世界のトカマク型装置で確認されているため、ヘリカル型装置では初めてとなるLHDの重水素実験において、プラズマの高性能化が期待されます。現在までの重水素ガスによる実験で、軽水素ガスによる実験で得られていた最高温度(9,400万度)を凌ぐ、1億度を超えるイオン温度を達成しました。重水素実験により、LHDのプラズマ研究は新たな段階へと進展し、最終目標値である1億2,000万度実現へ向けて大きく前進しました。
  2. LHDでは3月7日に重水素実験を開始して以降、実験で発生する中性子を用いて、放射線障害防止法に基づいたコンクリート遮蔽壁の性能検査を実施してきましたが、その結果、十分な遮蔽性能であることを確認しました。これにより一連の施設検査が終了し、平成29年3月29日付けで、登録検査機関から施設検査合格証が交付されました。また、安全管理計画に基づいて設置されたトリチウム除去装置、放射線総合監視システム等の健全性も確認されました。このような安全管理機器の性能確認とともに、実験実施体制、危機管理・連絡体制、防災訓練の実施等、安全確保上の体制も十分機能していることが確認されました。

 第19サイクルプラズマ実験は、今後、加熱装置や計測器の調整を進めながら、平成29年8月3日まで行います。

報道資料-その1

重水素実験により1億度を超えるイオン温度を達成

プレスリリース概要

 核融合科学研究所は、我が国独自のアイデアに基づいた世界最大級の超伝導核融合プラズマ実験装置である大型ヘリカル装置(LHD)を用いて、現在、平成29年2月8日に開始した第19サイクル実験が進行中です。軽水素ガスにより実験を開始しましたが、3月7日から重水素ガスを用いた実験に移行しました。重水素プラズマは軽水素プラズマより性能(温度等)が向上することが世界のトカマク型装置で確認されているため、ヘリカル型装置で初めてとなるLHDの重水素実験において、プラズマの高性能化が期待されています。現在までの重水素ガスによる実験で、軽水素ガスによる実験で得られていた最高温度(9,400万度)を凌ぐ、1億度を超えるイオン温度を達成しました。重水素実験により、LHDのプラズマ研究は新たな段階へと進展し、最終目標値である1億2,000万度の実現へ向けて大きく前進しました。

研究の背景

 重水素は、普通の水素である軽水素と同じ電荷を持っており、化学的な性質は同じですが、質量が軽水素の2倍と重く、同位体と呼ばれています。これまでにトカマク型※1のプラズマ実験装置で行われた実験結果から、軽水素よりも質量の大きな重水素を用いる方が、プラズマの性能(温度等)が良いことが知られており、同位体効果(イオン質量効果)と呼ばれています。
 LHDでは、ヘリカル型※2のプラズマ実験装置としては世界初となる、本格的な重水素実験を平成28年度末に開始しました。この実験では、重水素ガスを用いてプラズマをより高性能化し、核融合炉の実現に必要な高温プラズマの挙動を研究するとともに、なぜ、重水素プラズマの方が閉じ込め性能が良いのか、同位体効果の原因を解明することも重要な研究課題になっています。

実験の方法と結果

 現在も継続中の第19サイクル実験は、平成29年2月8日に開始しました。実験はまず、これまでと同じ軽水素ガスを使用してプラズマを生成し、新たに設置された機器や安全装置の動作確認を約1か月かけて行いました。その後、3月7日にプラズマを生成するガスを軽水素から重水素に切り替えて、重水素実験に移行しました。
 実験では、LHDの真空容器に100万分の1気圧程度の重水素ガスを入れて、マイクロ波と呼ばれる電波を入射し、重水素プラズマを生成します。3月7日に得られた初めての重水素プラズマのイオン温度は1,200万度、密度は19兆個/ccでした。翌日からは、プラズマ中に高エネルギーの重水素ビームを入射して追加熱を行う実験を開始しました。入射ビームの調整や、真空容器壁面の洗浄(弱いプラズマを壁面に照射して重水素ガスや不純物を除去すること)を行うことにより徐々に温度が上昇し、現在までの重水素ガスによる実験で、1億度を超えるイオン温度を達成しました。(図1)

今後の展開

 現在までの実験で、これまでの軽水素実験で得られている最高温度(9,400万度)を凌ぐ1億度を超えるイオン温度を達成しました。実験を進めることで、さらにプラズマの性能が向上して、LHDの最終目標値であるイオン温度1億2,000万度の実現が期待されます。今後は国内外の共同研究者とともに、重水素実験で得られる超高温プラズマの性質や、同位体効果、高エネルギー粒子の挙動等を学術的に明らかにし、ヘリカル型核融合炉の実現に向けた研究を展開していきます。 図:1億度を超えるイオン温度が得られたプラズマのイオン温度、電子密度、電子温度の分布

図:1億度を超えるイオン温度が得られたプラズマのイオン温度、電子密度、電子温度の分布

報道資料-その2

-安全管理機器の性能及び

プレスリリース概要

 LHDでは3月7日に重水素実験を開始して以降、実験で発生する中性子を用いて、放射線障害防止法に基づいたコンクリート遮蔽壁の性能検査を実施してきましたが、その結果、十分な遮蔽性能であることを確認しました。これにより一連の施設検査が終了し、平成29年3月29日付けで、登録検査機関から施設検査合格証が交付されました。
また、重水素実験の安全管理計画に基づいて設置されたトリチウム除去装置、放射線総合監視システム等の健全性も確認されました。このような安全管理機器の性能確認とともに、実験実施体制、危機管理・連絡体制、防災訓練の実施等、安全確保上の体制も十分機能していることが確認されました。

施設検査合格証の交付

 核融合科学研究所では、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律第12条の8の規定に基づく、大型ヘリカル装置(LHD)の「放射線発生装置(プラズマ発生装置)に係る施設検査」について、平成28年8月9日付けで同法に基づく検査業務を行う登録検査機関に依頼していたところ、同機関から、施設検査の結果、合格と認められ、平成29年3月29日付けで施設検査合格証が交付されました。このことについては、平成29年3月30日に岐阜県・3市(土岐市、多治見市、瑞浪市)、並びに報道機関へお知らせしています。

コンクリート遮蔽壁の性能

 上記施設検査の一環として、重水素ガスを用いたプラズマ実験で発生した中性子※3を管理区域内外で測定することにより、実験室のコンクリート遮蔽壁の性能確認を行う調整運転(予備的実験)を3月7日から実施しました。プラズマ実験を約2週間にわたり行い、その期間に発生した中性子の積算量が、計画している実験1回当たりの最大中性子発生量(5.7×1016個)の1.5倍に当たる8.5×1016個に達しました。その時、2mのコンクリート壁の外に複数設置した測定器(クイクセルバッジ)での測定結果はいずれも検出下限値(0.01mSv)以下でした。また、環境放射線モニタリングシステム(RMSAFE)の屋外モニタによる測定では、実験に起因する放射線量は検出されませんでした。以上の結果から、コンクリート壁の放射線遮蔽性能に問題のないことが確認されました。

トリチウム除去装置

 トリチウム除去装置については、軽水素ガスを用いた試験運転により、95%以上の回収率を既に確認しています。重水素ガスを用いたプラズマ実験の開始に当たり、調整運転前にLHDの真空排気システムとの連動運転試験を実施し、問題のないことを確認しました。調整運転開始以降は連続運転を行っており、稼働率100%でトリチウムの除去・回収運転を継続しています。調整運転開始後、トリチウム除去装置の入り口及び出口でトリチウム量を測定した結果、重水素ガスを用いた実験においても95%以上の回収率を確認しました。このことから、トリチウム除去装置が所期の性能を発揮していることが確認されました。

放射線総合監視システム

 管理区域入退管理システム、環境放射線モニタリングシステム(RMSAFE)等の信号を一元管理する放射線総合監視システムについても、所期の性能が確認され、問題なく稼働しています。放射線等に関する測定値は、研究所ホームページの「環境監視情報」及び「重水素実験情報公開」上で速報値として公開しています。放射線総合監視システムの主要機能の一つであるインターロックシステム※4については、施設検査の一環として動作確認が行われ、健全性が確認されました。

安全確保上の態勢

 安全性の確保の点においては、毎年の全所員が参加して行う防災訓練(昨年度:平成28年9月30日)、及びLHD実験期間中に実験関係者が参加して行うLHD消火訓練(第19サイクル:平成29年2月10日)を実施して、災害時、緊急時等における危機管理体制・連絡体制の確認を行うなど、訓練の充実を図っています。また、重水素ガスを用いたプラズマ実験の開始に伴い、通年にわたる24時間の監視体制を整えるとともに、重水素実験の開始初期においては、夜間・休日に初期故障があった場合に迅速に対応できるよう、研究所職員による宿日直制度の運用を始めました。
 さらに、実験の実施においては、常に中性子発生量、排気塔トリチウム濃度等を確認した上で、プラズマ実験の起動を手動で行うなど、安全管理には細心の注意を払い、慎重に実験を進めています。
 以上のことから、重水素ガスを用いたプラズマ実験を遂行するにあたって、安全確保上の態勢が十分機能していることが確認されました。

 なお、研究所では、トリチウム除去装置等について、平成28年9月21日から10月6日の間に、3市の市議会議員、自治会関係者及び関係職員、並びに報道関係者の方々への見学会を実施するとともに、調整運転開始後の3月21日に、コンクリート遮蔽壁の性能の測定器による測定状況、及び放射線総合監視システムの稼働状況等について、核融合科学研究所安全監視委員会の事務局の方々に視察していただいております。

【用語解説】

※1 トカマク型
プラズマが磁力線に巻き付いて運動するという性質を利用して、磁力線で編んだカゴ状の磁気容器内に高温・高密度のプラズマを閉じ込める、磁場閉じ込め方式の一つ。コイルで作られるドーナツ状の主磁場に加え、プラズマ自身に電流を流し、その電流が作る磁場で、プラズマ閉じ込めに必要な捻れた磁場構造を作る方式。捻れた外部コイルが必要ないため、ヘリカル方式に比べ、コイルの構造が単純となる。

※2 ヘリカル型
プラズマが磁力線に巻き付いて運動するという性質を利用して、磁力線で編んだカゴ状の磁気容器内に高温・高密度のプラズマを閉じ込める、磁場閉じ込め方式の一つ。ドーナツ型のプラズマ閉じ込め容器の周りにらせん状のコイルを巻いて、それに電流を流してプラズマ閉じ込めに必要な捻れた磁場構造を作る方式。パルス運転(短時間運転)となるトカマク方式に比べ、定常運転性能に優れる。

※3 中性子
原子核を構成する要素(核子)のひとつ。通常の水素1Hを除くすべての原子の原子核は陽子と中性子から成る。原子核の中では安定であるが、原子核の外では不安定で陽子と電子に崩壊する。平均寿命は15分。中性子を用いた粒子線は、物質の構造解析やガン治療への応用が期待されている。

※4 インターロックシステム
管理区域入退管理システムが異常を検知した場合、環境放射線モニタリングシステムによる放射線の測定値が設定値を超えた場合、トリチウム除去装置等、安全管理に関わる機器に異常が生じた場合、「実験停止指令」信号を自動的にLHD本体制御システムに送信する仕組み。

【本件のお問い合せ先】

  • 大型ヘリカル装置計画研究総主幹・教授
    森﨑 友宏(もりさき ともひろ)
    電話:0572-58-2200