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プレスリリース

平成29年6月9日

大学共同利用機関法人自然科学研究機構
核融合科学研究所

核融合研究が更に進展

 自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・竹入康彦)では、平成28年度の研究を終了し、上記3つに代表される研究成果を上げ、核融合研究を更に前進させることに成功しました。以下に詳細を説明します。

  1. 将来の核融合プラズマの安定維持に必要な、水素の粒子の流れを制御して、プラズマの温度を下げてしまう粒子を効率的に排気する研究において、新たに装置を改良し、排気速度を7倍以上に向上させることができました。これにより、プラズマの更なる高温化などが見込めます。さらに、装置に使われている無機接着技術は、産業界への展開を含む様々な分野への応用が期待されます。
  2. プラズマと金属との相互作用を理解するために必要な、金属中の粒子の移動経路図を高速かつ自動的に作成する方法を、本研究所のスーパーコンピュータ・プラズマシミュレータを用いて開発しました。この方法は、7万個ものCPU一つ一つが休むことなく調べ上げた経路図を集約して、詳細な全体図を作り上げるもので、プラズマの安定化や金属材料の性能向上などの核融合研究に貢献するだけでなく、広く材料開発全般への応用が期待されます。
  3. 本研究所の「熱・物質流動ループ装置Oroshhi-2」を用いて、これまで困難とされてきた、曲がった管の中を流れる液体リチウム鉛に発生する電磁ブレーキ作用を実証し、この作用を表す関係式の取得に世界で初めて成功しました。これにより、核融合ブランケットの冷却材の流れのより正確な予測が可能となりました。(京都大学との共同研究)

 これらの成果は、6月12日から14日まで核融合科学研究所で行われる「平成28年度研究プロジェクト成果報告会」において発表されます。

 また、研究所に、新たなマスコットキャラクターが誕生しました。こちらについても、皆様にご紹介いたします。

報道資料-その1

-活性炭を用いた排気システムの改良によりプラズマを更に高温に-

プレスリリース概要

 本研究所では、将来の核融合プラズマの安定維持に必要な、水素の粒子の流れを制御して、プラズマの温度を下げてしまう粒子を効率的に排気するする研究を、大型ヘリカル装置(LHD)を用いて行っています。活性炭を用いた排気システムの高性能化を進め、従来の7倍以上の排気速度を実現しました。
このシステムをLHDに据え付け、第19サイクル開始時の軽水素実験期に、プラズマに対する影響を調べる実験を行ったところ、主プラズマの周辺に漂う温度の低い粒子が取り除かれていることが確認されました。その後LHDは重水素実験に移行し、イオン温度は先日発表したように、軽水素期の9,400万度を超える1億度に到達しました。この、ヘリカル系における最高イオン温度達成にも、本装置による粒子制御が貢献しています。

研究の背景

 LHDでは、真空容器の中に水素ガス(気体)を入れてプラズマを作っていますが、プラズマにならなかった水素ガスは、プラズマの温度を下げてしまうため、外に排気しなければなりません。この排気を効率良く行う装置を「ダイバータ(※1)」と呼びます。
ダイバータは、水素ガスの粒子をプラズマから離れたところに導いて、真空排気ポンプで排出する装置です。LHDでは、ヘリカル装置として世界で初めて、本格的なダイバータを設置しています。
 ポンプには、小型でも大きな排気容量が得られる「クライオ吸着ポンプ」を用いています。このポンプは、極低温に冷却した活性炭(内部に小さな穴がたくさんある黒炭)に気体分子を吸着させて排気します。これは、家庭にもある、活性炭を用いた脱臭剤の原理と同じです。活性炭はマイナス253度以下に冷却すると、水素ガスの吸着効率が急激に高まります。従来のクライオ吸着ポンプは、活性炭を冷却するための基板への貼付に、有機接着剤(強力なのりのようなもの)を用いていました。しかし、接着剤を用いる方法では、経年で接着剤が劣化したり、不純物が放出されたりという問題があるため、これらを解決できる、高性能クライオ吸着ポンプの開発が急がれていました。

開発の経緯

 LHD実験プロジェクトでは、活性炭と冷却基板の接着方法として、融点の低い金属による無機接着法をメーカーと共同で開発しました。また、排気効率を大幅に改善するため、コンピュータシミュレーションに基づいて、粒子を導く経路の最適化を行いました。さらに、数種類の活性炭から、水素の排出に最も適したものを選び出すこともできました。活性炭にある細かい穴の特性は、水素分子を吸着する性能と強く関係していますが、それを詳細に分析し、その結果を排気速度試験の結果と組み合わせることで、水素の排気に最も適した活性炭を見つけることができたのです。
 上記の結果に基づいてダイバータを高性能化し、LHDの真空容器に据え付けました(図1-1、1-2)。プラズマ実験の前に、試験用の水素ガスをLHDの真空容器に導入して排気速度を測定したところ、従来の排気速度の7倍以上の排気速度が得られることが分かりました(図2)。
本成果により研究所は「クライオ吸着パネル及びその製造方法、並びにそれを用いた真空装置」の特許を取得しました(特許第6021276号)。また、開発に関する詳細は、技術論文として、プラズマ・核融合学会誌(2017年5月号、P213)に掲載されました。

1-1 高性能化されたLHDのダイバータ。クライオ吸着パネルは屋根形仕切り板の内側に設置してある。 図1-2 実際に真空容器内に設置されているダイバータの様子
 
図2 LHDで行った排気速度試験の結果  

プラズマ実験への適用

 これまでの実験から、プラズマ周辺部の水素ガスの粒子を何らかの方法で取り除くことができれば、プラズマ性能が向上する(温度が上がる)ことが分かっています。平成25年度の軽水素実験期に得られた最高イオン温度9,400万度は、「放電洗浄」と呼ばれる、電磁波を利用した方法で水素ガスの粒子を取り除くことによって達成されました。
 平成29年2月、第19サイクル開始時の軽水素を用いた実験では、上述の高性能化されたダイバータを用いて水素ガスの粒子の排除を試みたところ、放電洗浄と同等に粒子を排除できることが確かめられました。LHDはその後3月7日より重水素を用いた実験を開始し、プラズマの更なる高性能化を目指した研究を推進していますが、ほぼ全ての実験で、高性能化したダイバータを使用しています。先日発表した、「重水素による1億度を超えるプラズマ」の達成にも本装置による水素ガスの排気が貢献しています。

今後の展開

 今回開発された真空容器内蔵型クライオ吸着ポンプは、LHDのみならず他装置においても、ダイバータ排気用クライオポンプとして利用可能です。特にLHDでは、今後定常プラズマ維持実験が計画されており、その際使用可能な定常対応ポンプとして、本装置が威力を発揮するものと期待されています(放電洗浄は定常運転では使用できません)。
 また、本技術の中核をなす革新的な無機接着技術には、様々な分野への応用が見込まれており、核融合装置のみならず、高真空で清浄な環境が要求される半導体生産現場等、産業界への展開も期待できます。

【用語解説】

※1 ダイバータ
下図にLHDのダイバータの模式図(断面)を示します。温度の高い主プラズマから流れ出たプラズマの粒子やプラズマにならなかった水素ガスの粒子は、表層の低温領域を経由した後、ダイバータレッグと呼ばれる4本の細い「足」に沿って流れ、ダイバータ室へと導かれます。最後は足の「つま先」部に設置されたダイバータ板に衝突してポンプで排気されます。ダイバータのdivertという英語は“そらす”という意味です。高温のプラズマも、「そらされて」レッグへ到達するころまでには十分冷却されているため、ダイバータ板が致命的なダメージを受けることはありません。水素ガスは、逆流すると主プラズマを冷やす原因になります。仕切り板はこれを防ぐ役割を果たしています。

報道資料-その2

-金属の中にあるミクロな迷宮をスパコンで高速自動探索-7万CPUを駆使、どんな材料にも応用可能

プレスリリース概要

 プラズマ粒子が金属中に侵入すると、それらの粒子は様々な方向に移動していきます。一部の粒子は金属表面に戻ってきて、プラズマ中に再放出され、プラズマに影響を与えます。このようなプラズマと金属との相互作用を理解するために必要な、金属中の粒子の移動経路図を高速かつ自動的に作成する方法を、本研究所のスーパーコンピュータ・プラズマシミュレータを用いて開発しました。この方法は、7万個ものCPU一つ一つが休むことなく調べ上げた経路図を集約して、詳細な全体図を作り上げるもので、プラズマの安定化や金属材料の性能向上などの核融合研究に貢献するだけでなく、広く材料開発全般への応用が期待されます

研究の背景

 大型ヘリカル装置(LHD)や将来の核融合炉では、プラズマを磁場によって真空中に閉じ込めますが、プラズマは最終的にはダイバータと呼ばれる機器へと導かれます。そこで、プラズマの粒子はダイバータ板に衝突して排気されますが、粒子の一部はその板の中に侵入します。つまり、ダイバータ板においては、プラズマと材料が相互に影響を及ぼしあっています。
 プラズマの粒子が金属に入射し、その中に侵入すると、その粒子は電気的に中性な原子となって金属の中に溜まっていきます。このような原子は、金属から見れば異物であり、ここではこれを侵入粒子と呼びます。侵入粒子は金属を構成する原子の隙間を縫って様々な方向に移動し、拡散していきます。金属の奥へと進む粒子もあれば、表面まで戻ってきてプラズマ中に再び放出され、プラズマに影響を与えるものもあります。そのため、プラズマの安定した閉じ込めには、金属中に侵入する粒子と、金属中での拡散を経て再放出された粒子の両方を知ることが大変重要な課題です。これを把握するためには、金属中の粒子の移動経路図を基に、粒子の拡散を調べる必要があります。これは、道路地図をもとに車の流れを予想するのに似ていますが、金属中での粒子の移動経路図は十分には調べられていません。
 金属では原子が規則正しく並んでいると考えられており、その中での粒子の移動経路は、分子動力学※1や密度汎関数理論といった、優れた理論に基づくシミュレーション手法を用いて、見つけることができます。しかし、現実の金属では、原子の並びにずれたところが無数に存在しています。そのような中での粒子の移動経路は、まるで迷路のように複雑です。また、プラズマに接触し続けた金属では、プラズマ粒子の侵入により、原子の並びが壊れていきます。それに伴い、迷路のような移動経路も、時々刻々と変化していくのです。つまり、粒子の移動経路の全体像を把握することは非常に難しく、膨大な計算量を必要とします。このため、これまでは、一部の特徴的な金属原子の並びのパターンに対してのみ、粒子の移動経路図が得られている状況でした。

新しい研究成果

 数値実験炉研究プロジェクトでは、本研究所のスパコン・プラズマシミュレータを用いて、現実の金属でのどのような原子の並びのパターンに対しても、粒子の移動経路図を、高速かつ自動的に作成する手法の開発に成功しました。
 プラズマシミュレータでは約7万個のCPUコアが使用可能ですが、開発した手法では、それらのCPU一つ一つが休むことなく調べ上げた経路図を集約して、詳細な全体図を完成させます。これは、地図作成に例えると、山も谷もある複雑な迷路に、数万人の調査員(スパコンのCPUに相当します)を一定間隔に配置し、どの道がどこに繋がっているかを調べさせるようなものです。調査員は調査結果をコールセンター(統括役のCPU)に報告し、次に調べる地点の情報を受け取って、新たな調査を開始します。このコールセンターも非常に高性能なため、数万人からばらばらに上がってくる報告を、ほとんどタイムラグなく受け取り、それぞれに迅速かつ的確な指示を出すことが可能なのです。こうして得られた結果を集約すれば、迷路、つまり粒子の移動経路図を、高速かつ自動的に作成することができます。プラズマシミュレータの高速演算能力と高速通信能力によって、この手法を完成させることができました。
 具体的な手法は、以下のとおりです。まず、金属全体を覆うよう多数の小さな領域を切り出します。その切り出した各々の領域の中で、分子動力学によって粒子にかかる力を計算し、それを基に粒子の移動経路を算出します。各々の領域に対する計算は各CPUで行われますが、扱う金属原子数が少なくて済むため、非常に短時間で終了します。また、それらの計算は独立して行えるため、複数のCPUが並列に、それぞれ独立したタイミングで行うことができます。無数の計算結果は、各CPUと、統括役CPUとの間でやり取りされますが、プラズマシミュレータの複雑なネットワーク形状のおかげで、送受信が滞ることもありません。
本手法により、現実の金属やプラズマ粒子の侵入の影響で原子の並びが乱れた金属に対しても、粒子の移動経路を容易に求められるようになりました。この移動経路の情報をもとに、プラズマと金属内の、粒子の侵入と再放出に関する知見を深めることで、プラズマ閉じ込めの改善が期待されます。また、将来の核融合炉における材料としての金属の性能向上にも貢献します。
 この成果は、平成28年5月に開催された国際会議「22th International Conference on Plasma Surface Interaction」(PSI22)で発表され、学術雑誌(Nuclear Materials and Energy:オープンアクセス誌)への掲載が決定しました。

図:(a)移動経路の自動探索の様子。対象となる金属から小さな領域を切り出し、その中で分子動力学によって移動経路を算出します。各領域の計算はスパコンの各CPUで行われます。それらを統合することで金属全体の移動経路図が完成します。(b)完成した経路図の情報をもとに、多くの侵入粒子の拡散を動的モンテカルロ法※2でシミュレーションした様子。金属の中を動き回る粒子を赤色で表示し、その軌跡を白色で表示しています。高速に動きまわる粒子が人間の目でも捉えやすくなるよう、粒子の軌跡をしっぽの様に一定の長さに保って表示しています。

期待される他分野への応用

 プラズマと金属の相互作用は、核融合研究以外の分野では、プラズマを積極的に利用した加工技術(半導体の製作や、自動車エンジンの内部コーティングなど)の開発を目的としても研究されています。本研究で開発した、金属内部におけるプラズマ侵入粒子の移動経路の自動探索手法は、このようなプラズマを利用した材料加工への適用を現在検討しているところです。
一方で、本手法はプラズマ研究の分野にとどまらず、固体材料中の侵入型不純物原子や添加物の拡散に対して汎用的に使えるものであるため、将来的に分野を越えた幅広い応用が期待できます。
本研究の一部は科学研究費補助金若手研究(A)15H05563の支援により実施されました。

用語解説

※1 分子動力学
原子や分子の動きをシミュレーションする技法のひとつ。原子間の相互作用を数学的にモデル化した関数で代用し、ニュートンの運動方程式を数値的に解くことで各原子の軌道を決定します。

※2 動的モンテカルロ法
乱数を用いたシミュレーション技法を一般にモンテカルロ法とよびます。動的モンテカルロ法は多くの粒子の移動をともなう時間発展を計算できる手法です。本研究では、でき上がった移動経路図上の粒子の移動を解く際に、動的モンテカルロ法を使っています。

報道資料-その3

-強磁場の中を流れる液体金属へのブレーキ作用の実証に成功-核融合ブランケットの冷却材流れのより正確な予測が可能に

プレスリリース概要

 本研究所の「熱・物質流動ループ装置Oroshhi-2」を用いて、これまで困難とされてきた、曲がった管の中を流れる液体リチウム鉛に発生する電磁ブレーキ作用を実証し、この作用を表す関係式の取得に世界で初めて成功しました。これにより、核融合ブランケットの冷却材の流れのより正確な予測が可能となりました。(京都大学との共同研究)

研究の背景

 将来の核融合発電は、プラズマ中の核融合反応で発生する、高速の中性子の運動エネルギーを熱に変換して外に取り出し、その熱で蒸気タービンを回すことで発電します。高速中性子を受け止めて熱を作るための機器が、プラズマを包むように配置される「ブランケット」です。プラズマを包む毛布(英語名はブランケット)に見えることから、そう呼ばれています。
 ブランケットには多数の配管が通してあり、そこに冷却材を流すことで熱を外に運び出します。その冷却材として有望視されているのが、液体金属であるリチウム鉛(※1)などです。ヘリカル炉などプラズマを磁場で閉じ込める装置においては、強い磁場の中で冷却材を流す必要があります。液体金属は電気を流す性質があるので、磁場が作用すると、液体金属の流れと逆向きの力が働きます(電磁流体圧力損失と呼び、流動にブレーキ作用が働きます)。この電磁ブレーキ作用の予測は、核融合炉における配管、ポンプ設計に不可欠です。核融合炉のブランケットでは、多くの曲がった管やU字管などが用いられるので、そこでの電磁ブレーキ作用の予測精度を上げるためには、屈曲管における信頼できる実験結果が必要です。

研究成果

 核融合工学研究プロジェクトでは、「エネルギー循環工学試験設備」と呼ぶ一連の工学試験設備を整備してきましたが、その中でも、熱・物質流動ループ装置Oroshhi-2 は、流動試験装置としては世界最強の3テスラの磁場の中で、広い空間(横幅20cm、高さ16cm、奥行き50cm)の流動特性の試験を行うことができます。これだけの磁場の強さと試験空間の大きさを併せ持った装置は世界で他にありません。
 この特長を生かして、京都大学との共同研究により、液体リチウム鉛が2つの屈曲を有する管を通る時の電磁ブレーキ作用を、磁場の強さと流量の条件を多種多様に変えながら測定しました。その結果、屈曲管中の電磁ブレーキ作用を表す関係式の取得に世界で初めて成功しました。関係式は、電磁ブレーキ作用は磁場強度の二乗に比例し、流量に反比例するというもので、本研究では理論的に予想されていたこの依存関係を実験的に証明しました。

研究成果の社会的意義、今後の展開

 本研究成果は、核融合炉ブランケットの冷却材流れのより正確な予測を可能とするものです。また、液体金属の流れは、電子機器の循環冷却装置や波力エネルギー発電など自然エネルギーを利用した発電システムでも検討されています。今回取得した関係式を逆に利用すれば、液体金属を加速する電磁ポンプの開発にも貢献することができます。

本研究成果は、2017年9月25日―28日に京都市産業館(みやこめっせ)で開かれる第13回核融合工学に関する国際シンポジウム(ISFNT-13)で報告される予定です。

図1
(a) ブランケットの構成図(例)
(b) 磁場中を液体リチウム鉛が流れるとブレーキ作用が起こることを示す模式図
金属配管中に冷却材である液体リチウム鉛が流れると、液体リチウム鉛と金属配管との間に図に示す同心円状の電流が流れ、電流と磁場の相互作用により、液体リチウム鉛に、その流れとは逆方向の力(ローレンツ力と呼び、流れのブレーキ力となります)がかかります。
図2 試験装置の全体写真と試験部の図
(a)は、本研究所の「熱・物質流動ループ装置Oroshhi-2」の全体写真を示します。液体金属であるリチウム鉛合金と溶融塩フリナックの2つの流動ループ(循環試験装置)と、最大3テスラの超伝導磁石から成ります。(b)は超伝導磁石内の試験部を示します。上下方向の磁場の中で流体の試験を行うことができます。写真では本試験用に液体リチウム鉛を流す二回屈曲管(2つの屈曲を有する管)が配置されています。本装置の大きな試験空間を用いて二回屈曲管の試験ができるようになりました。
図3 二回屈曲管中を流れる液体リチウム鉛の電磁ブレーキ作用の測定結果。縦軸は電磁ブレーキ作用の強さを、横軸は磁場と流れとの相互作用の強さ(磁場強度(単位はテスラ(T))の2乗を流量で割った値)を表します。電磁ブレーキ作用の強さが磁場と流れ場との相互作用の強さに比例して増加し、その比例係数が約0.15になることが明らかになりました。

【用語解説】

※1 リチウム鉛
将来の核融合炉は、重水素と三重水素(トリチウム)を燃料とします。重水素は海の中に豊富に存在しますが、トリチウムは天然にはほとんど存在しません。そこで、核融合反応で出てくる中性子を、リチウム(電池として利用されているものと同じ)と反応させて、トリチウムを作ります。リチウムを含む高温融体(高温で溶けた状態の物質)をブランケットに流すことで、トリチウムを生産しつつ熱を取り出すことができます(液体増殖ブランケット方式と呼びます)。高温融体には、液体金属や溶融塩が検討されていますが、リチウムと鉛の合金(リチウム鉛)はその中でも有力な候補材の一つです。リチウム鉛や溶融塩は、万が一、配管の外に漏れ出しても固まるだけで、ナトリウムのような火災の心配はありません。