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プレスリリース

プラズマ損失の直前予知を可能にする新発見

リリース概要

 自然科学研究機構・核融合科学研究所(岐阜県土岐市、所長・竹入康彦)では、大型ヘリカル装置(LHD)において、本研究所の居田克巳教授・小林達哉助教らの研究グループが、磁場で閉じ込められたプラズマの一部が突然失われるという突発現象の前兆となる変化を世界で初めて明らかにしました。この変化を捉えることで、現象を直前に予知することが可能となります。
太陽フレア、オーロラ、火山噴火、集中豪雨、経済危機など、「いつ起こっても不思議はないが、いつ起こるかを予測することが難しい」現象を理解し予知するために、様々な分野で研究が進められています。このような突発現象を予知する研究に、今回の研究成果が大いに貢献するものと期待されます。

この研究成果をまとめた論文

Trigger mechanism for the abrupt loss of energetic ions in magnetically confined plasmas

K.Ida1, T.Kobayashi1, M. Yoshinuma1, T. Akiyama1, T. Tokuzawa1, H. Tsuchiya1, K.Itoh2, and S.-I. Itoh3

1. National Institute for Fusion Science,  National Institutes of Natural Sciences,

2.  Institute of Science and Technology Research, Chubu University, Kasugai 487-8501, Japan

3. Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu Univ.,

日本語訳

"磁場閉じ込めプラズマにおける突発的高エネルギーイオン損失のトリガー機構"

居田克巳1、小林達哉1、吉沼幹郎1、秋山毅志1、徳澤季彦1、土屋隼人1、伊藤公孝2、伊藤早苗3

1. 核融合科学研究所、自然科学研究機構

2. 中部大学

3. 九州大学応用力学研究所

 この論文は、2月12日付けの英国ネイチャー・パブリッシング・グループの科学雑誌である「サイエンティフィック・リポーツ(電子版)」に掲載され、広く一般公開されています。

研究の背景

 自然や社会で起こっている現象には、「いつ起こっても不思議はないが、いつ起こるかを予測することが難しい」と言われていることが数多くあります。火山噴火、集中豪雨、太陽フレア、経済危機などがその例で、このような現象は突発現象※1と呼ばれています。突発現象の予測は物理学における大問題の一つですが、様々な突発現象に関わる物理過程を、様々な分野の研究者が集まって比較することで、突発現象を普遍的に理解し、その予測に結びつけようという新しい研究が始まろうとしています。
 核融合研究においても、突発現象の理解は重要な課題です。核融合発電を実現するためには、磁場で高温高密度のプラズマを安定して閉じ込めることが必要です。ところが、プラズマは高温高密度になるにつれて不安定になり、プラズマの一部が失われてしまうという突発現象が数多く見られます。プラズマの安定した閉じ込めには、突発現象を予測して防ぐことが必要ですが、突発現象を引き起こす原因が未解明で、その予測も不可能でした。

研究成果

 今回、本研究所の居田克巳教授・小林達哉助教らの研究グループが、大型ヘリカル装置(LHD)において、磁場で閉じ込められたプラズマの突発現象のトリガー機構(直前に現れる変化)を世界で初めて明らかにしました。これにより、プラズマの突発現象を直前に予測することが可能になりました。
 LHDのプラズマでは、突発現象が起こる、かなり前からプラズマの変形が現れます。この変形は共鳴モード※2と呼ばれ、プラズマ全体に広がるものです(上図)。研究グループは、共鳴モードは突発現象に結びつくことはなく、むしろ突発現象が起こるのを防ぐ「不満のガス抜き」のような役割をしていることを明らかにしました。そして、この共鳴モードが「嵐の前の静けさ」のように一瞬停止してしまう(中図)と、その次の瞬間に、非共鳴モードと言われる変形が成長して、一気にプラズマの一部が失われるという突発現象が起こることを発見しました。非共鳴モードによるプラズマの歪みは一ヶ所に集中しています(下図)。この非共鳴モードによるプラズマの歪みを観測することで、突発現象の発生を直前に予測できます。このように、突発現象の直前に起こる「トリガー」(引き金)をうまく捉えることで、現象の直前予測が可能であるということが分かりました。

  この成果は、自然現象や社会に見られる多くの突発現象の研究に、重要な指針を与えると考えられ、3月22日から東京理科大学で開催される日本物理学会の「突発現象の科学」シンポジウムでも発表されます。

【用語解説】

※1 突発現象:「いつ起こっても不思議はない」が「いつ起こるかはわからない」と言われる、予測が難しい現象。エネルギーが溜まり続けているが何も起こらない(準安定)の状態が、何らかの変化を引き金に突然エネルギーが解放され、別の安定した状態に移り変わることをいう。エネルギーが一定量蓄積されれば現象が起こる間欠現象と対比される。
間欠現象は間欠泉(一定周期で水蒸気や熱湯を噴出する温泉)に代表されるように、必要なエネルギー量(水蒸気や熱湯を噴出するのに必要な熱量)を計算すれば、いつ起こるかがかなり正確に予想できるのが特徴である。
 一方、突発現象では、火山を例に取ると、マグマが集積されることでエネルギーが溜まっていくのは間違いないが、いつどのようなタイミングで噴火という突発現象が発生するかを予測するのは非常に難しい。突発現象発生の直前に起こる変化を「トリガー」(引き金のこと)と呼ぶ。

※2 共鳴モードと非共鳴モード:共鳴モードとは、外部から与えられる力(エネルギー)によってある周波数(共振周波数)で起こる共振現象で、振り子やブランコが良い例であり、外部から与える力を大きくすると、振動の振幅が増えるのが特徴。対して、非共鳴モードは共振周波数を持たず振動することもなく、一気に成長する非共振現象。破断などがこれに相当する。

【本件のお問い合わせ先】

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係
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