HOME > ニュース > プレスリリース > プラズマ乱流が伝播する現象を世界で初めて実証
平成30年6月19日
大学共同利用機関法人自然科学研究機構
核融合科学研究所
プレスリリース内容
居田克巳教授・小林達哉助教らの研究グループは、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)で考案した「瞬時加熱伝播法」を米国のトカマク型装置(ダブレットⅢ-D)に応用し、米国の研究者らと共同で、乱流が伝播するという現象を世界で初めて観測しました。今回の日米共同研究の成果は、核融合の実現に不可欠な、乱流の克服に大いに貢献するものと期待されます。
この研究成果をまとめた論文
Hysteresis relation between turbulence and temperature modulation during the heat pulse propagation into a magnetic island in DIII-D
K. Ida,1, 2 T. Kobayashi,1, 2 M. Ono,3 T.E. Evans,4 G.R. McKee,5 and M.E. Austin6
1National Institute for Fusion Science, Toki, Gifu 509-5292, Japan
2SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies), Toki, Gifu 509-5292, Japan
3National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology, Naka, 311-0193, Japan.
4General Atomics, San Diego, California 92186-5608, USA
5University of Wisconsin-Madison, Madison, Wisconsin 53706, USA
6University of Texas, Austin, Texas 78712, USA
日本語訳
DⅢ-Dにおける磁気島への熱伝播中の乱流と温度の変調履歴
居田克巳1,2、小林達哉1,2、大野誠3、トッド・エバンス4、ジョージ・マッキー5、マックス・オースチン6
1自然科学研究機構 核融合科学研究所
2 総合研究大学院大学
3 量子科学技術研究開発機構
4 ジェネラル・アトミクス社
5 ウイスコンシン大学マディソン校
6 テキサス大学オースティン校
この論文は6月12日付けの米国の科学雑誌「フィジカル・レビュー・レターズ」に掲載され、広く一般公開されています。
研究の背景
核融合発電の実現を目指して、高温のプラズマを磁場で閉じ込める研究が世界中で行われています。加熱された高温のプラズマは中心で温度が高く、外側で温度が低くなっており温度の差(温度勾配)があります。中心の温度が更に高くなり温度勾配が急峻になると、プラズマ中の温度勾配が大きくなったところで乱流が発生します。乱流によって温度の高いところが低いところとかき混ぜられるため、中心部のプラズマの温度を効率的に上げることができなくなってしまうのです。このため、乱流の発生や抑制に関する研究が、世界中の磁場閉じ込めプラズマ実験装置(トカマク型及びヘリカル型)で行われています。これまでの研究でプラズマの乱流は数多く観測されていますが、この乱流がその場所で発生したものなのか、それとも別の場所で発生したものが伝播してきたものなのかを区別するのは困難でした。発生した乱流がプラズマの他の領域に広がる「乱流の伝播」という現象は理論的には予測されていましたが、実験で観測されたことはありませんでした。
研究成果
今回、大型ヘリカル装置(LHD)で考案した、「瞬時加熱伝播法」を米国のジェネラル・アトミクス社のトカマク型核融合実験装置ダブレットⅢ-Dに応用することにより、世界で初めて「乱流の伝播」を実験で観測しました。
今回、「乱流の伝播」を検証するために、プラズマには磁気島という温度勾配がゼロで乱流が発生しない特別な領域での乱流の観測に挑戦しました。その結果、乱流が発生するはずのない「磁気島の領域」で乱流が存在すること、しかもその乱流は温度変化よりも先にOポイントと呼ばれる磁気島の中心に伝わることを発見しました 。
この成果は、乱流の伝播を抑制すれば、乱流を発生した場所に閉じ込めることができるという考え方を実験的に実証したことが評価の対象になっています。また、米国の有名企業であるジェネラル・アトミクス社との共同研究をこのように結実させ、著名な科学雑誌である「フィジカル・レビュー・レターズ」に掲載されたということは、本研究所の研究力が世界的に見ても高い水準にあることの証明でもあります。
今後も本研究成果を発展させ、乱流の抑制やプラズマの高性能化について更なる知見を明らかにし、これまで以上に研究所の国際的な存在感を高めていきます。
【用語解説】
大型ヘリカル装置(LHD):
核融合科学研究所が有する、日本独自のアイデアに基づくヘリオトロン磁場を用いた、世界最大級の超伝導ヘリカルプラズマ閉じ込め実験装置。核融合炉の実現に必要な、高温高密度プラズマの基礎的学術研究の推進を目的とし、1998年から実験を開始した。二重らせん状の電磁石を用いてねじれた磁力線の「かご」を形成し、2017年には核融合炉で必要とされる1億2千万度の高温プラズマの生成に成功している。
乱流:
プラズマを加熱していくと、温度勾配が大きくなるにつれて小さい渦状の流れができる。この小さい渦状の流れは大きさもさまざまで不規則に並んでいるので乱れた流れ=乱流と呼ばれている。乱流が発生すると、温度勾配の上昇が妨げられる。
磁気島:
プラズマを閉じ込めるためには、磁場でできた入れ子状のかごを形成する必要がある。磁場のかごの断面の形状は、木の年輪のような同心円状である。今回の実験では外部からわずかな磁場(摂動磁場)を意図的に加え、木目のような三日月状の構造を作っている。この構造は、川の中の島のように見えることから磁気島という。磁気島の内部は温度勾配がゼロのプラズマが存在する特殊な領域となっている。
瞬時加熱伝播法:
打音検査で叩いた後の音を聞いて金属の状態を調べるように、瞬間的にプラズマに熱を加えて、その熱が伝わる速さからプラズマの閉じ込め性能を調べる方法で、核融合科学究所の大型ヘリカル装置(LHD)で考案された。
【本件のお問い合わせ先】
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係