HOME > ニュース > プレスリリース > 世界初、ヘリカルプラズマにおける高エネルギー粒子の閉じ込めを実証
令和元年7月16日
大学共同利用機関法人自然科学研究機構
核融合科学研究所
概要
将来の核融合炉では、1億2,000万度以上の超高温プラズマ中で生じる核融合反応により、高いエネルギーを持つ粒子が生成されます。この高エネルギー粒子がプラズマを加熱することで、核融合反応を持続させること(持続燃焼)が可能となるため、高エネルギー粒子をプラズマ中に効率良く閉じ込めることが、核融合発電の実現には不可欠です。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)計画プロジェクトの小川国大助教、磯部光孝教授らの研究グループは、LHDの重水素実験において、重水素同士による核融合反応によってごく僅かに生成される高エネルギー粒子に注目し、その閉じ込め性能を測定することに成功しました。その結果、ヘリカル装置における高エネルギー粒子の良好な閉じ込めを世界で初めて実証し、これにより、将来のヘリカル型核融合炉におけるプラズマの持続燃焼に見通しをつけました。
この研究成果をまとめた論文が2019年6月に核融合分野における著名な科学雑誌「ニュークリアフュージョン」に掲載されるとともに、世界最高峰の科学雑誌「ネイチャーフィジックス」において、2019年7月の注目すべき研究(ハイライト研究)に選出されました。
研究の背景
次世代の基幹エネルギー源として期待されている核融合炉では、磁場で高温のプラズマを閉じ込め、そのプラズマ中で生じる核融合反応を利用します。そして、核融合反応によって生成される高エネルギー粒子が、発電を実現するための重要な役割を担います(図1)。高エネルギー粒子は、そのエネルギーをプラズマに与えることによりプラズマを加熱し、1億2,000万度以上の超高温プラズマを維持します。これにより、核融合反応を持続させること(持続燃焼)が可能となり、エネルギーを持続的に発生させて発電が実現します。このことから、高エネルギー粒子が十分にプラズマを加熱できるように、高エネルギー粒子をプラズマ中に良好に閉じ込められるかが、核融合発電の実現の鍵を握っています。
磁場でプラズマを閉じ込める方式にはトカマク型とヘリカル型がありますが、定常運転性能に優れるヘリカル型装置については、これまで、高エネルギー粒子の閉じ込め性能の理論的研究が進められてきました。世界のヘリカル型装置における研究を先導しているLHDで、高エネルギー粒子の閉じ込めを実験によって検証することができれば、核融合発電の実現に向けて研究を大きく前進させることができます。
研究成果
LHDの重水素実験では、非常に小さな割合ですが重水素同士による核融合反応が生じて、その反応による高エネルギー粒子がごく僅かに生成されます。小川国大助教、磯部光孝教授らの研究グループは、この高エネルギー粒子の閉じ込めを、実験で検証することに取り組みました。この高エネルギー粒子がプラズマの中に閉じ込められていると、2次的に核融合反応を起こして、極めて微量ですが、この反応による中性子が発生します。小川助教らは、この極めて微量な中性子を検出する計測器を開発して、高エネルギー粒子の閉じ込め性能を測定することに成功しました。測定結果は高エネルギー粒子がプラズマ中に良好に閉じ込められていることを示しており、これにより、世界で初めて、ヘリカル型装置における高エネルギー粒子の閉じ込めを実証しました。
同時に、円環プラズマを中心軸に向かって内側に寄せることにより、高エネルギー粒子の閉じ込め性能が向上することも観測し(図2)、京都大学の村上定義教授らの理論予測に従っていることが分かりました。また、LHDは、同じ太さのプラズマを持つトカマク型装置と同等の高エネルギー粒子の閉じ込め性能を有することを示しました。
図2 LHDにおける高エネルギー粒子の閉じ込め性能の測定結果(左)と円環プラズマの模式図(右)。測定結果は、高エネルギー粒子の良好な閉じ込めを示しています。また円環プラズマを中心軸に向かって内側に寄せること(緑矢印)でより優れた高エネルギー粒子の閉じ込め性能が得られること(青矢印)が分かります。高エネルギー粒子閉じ込めの指標の最大値は、円環プラズマを中心軸に向かって最も内側に寄せた時に得られ、その値は、同規模のトカマク型装置における値とほぼ同じです。
研究成果の意義
LHDの重水素実験では、イオン温度及び電子温度が共に1億2,000万度以上の超高性能プラズマを実現するとともに、プラズマ物理学の謎とされる「同位体効果」の解明のほか、核融合発電実現に必要な高エネルギー粒子の閉じ込め実証研究の進展が期待されています。プラズマを閉じ込める磁力線のカゴを原理的に定常に維持できるヘリカル型装置で、高エネルギー粒子の閉じ込めを実証したことは、将来のヘリカル型核融合炉におけるプラズマの持続燃焼に見通しをつける非常に大きな成果です。この点が高く評価され、本研究成果をまとめた論文が、2019年6月に核融合分野における著名な科学雑誌である「ニュークリアフュージョン」に掲載されるとともに、世界最高峰の科学雑誌である「ネイチャーフィジックス」において、2019年7月の注目すべき研究(ハイライト研究)として選出されました。
【用語解説】
※重水素実験
重水素ガスを用いてプラズマを生成する実験。重水素は、軽水素と同じ電荷を持っており、化学的な性質は同じであるが、質量が軽水素の2倍と重く、同位体と呼ばれている。トカマク装置における実験から、軽水素よりも、重水素の方がより高性能のプラズマが得られることが知られており、これは「同位体効果」と呼ばれている。
また、将来の核融合発電の実現に必要となる高エネルギー粒子の閉じ込めに関する研究を行うことが可能になる。
【論文情報】
雑誌名:Nuclear Fusion
題名:Energetic ion confinement studies using comprehensive neutron diagnostics in the Large Helical Device
(大型ヘリカル装置における包括的な中性子計測システムを用いた高エネルギー粒子閉じ込めに関する研究)
著者名:小川国大1,2、磯部光孝1,2、西谷健夫1、村上定義3、關良輔1,2、奴賀秀男1、神尾修治1、藤原大1、山口裕之1、前田奨吾3、齋藤泰之3、長壁正樹1,2、LHD実験グループ1
所属:1自然科学研究機構核融合科学研究所
2総合研究大学院大学物理科学研究科核融合科学専攻
3京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻
DOI: 10.1088/1741-4326/ab14bc
本論文は、「ネイチャーフィジックス」の2019年7月号においてハイライト研究に選出され、世界的に極めて高い関心を集めています。
https://www.nature.com/articles/s41567-019-0590-9
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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
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