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プレスリリース

令和元年9月10日

大学共同利用機関法人自然科学研究機構
核融合科学研究所

スーパーコンピュータで “磁力線つなぎ変え”によるプラズマ加熱を再現

概要

 プラズマでは、引き伸ばされた磁力線が別の磁力線とつなぎ変わる「磁気再結合」と呼ばれる現象が起こると、プラズマが加熱されて高いエネルギーになります。この磁気再結合は、太陽フレアやオーロラを引き起こすとともに、宇宙の至る所で起きる普遍的な現象だと注目されています。ところが、磁気再結合とそれによるプラズマ加熱の詳しい仕組みは解明されておらず、東京大学の小野靖教授の研究グループは、地上実験でその解明に挑んでいます。今回、核融合科学研究所数値実験炉研究プロジェクトの宇佐見俊介准教授の研究グループが、この地上実験をスーパーコンピュータで再現しました。これにより、プラズマのエネルギー変化を粒子レベルから解析することが可能になり、磁気再結合によるプラズマの加熱機構を解明しました。本成果は、磁気再結合が関与する、宇宙の様々なプラズマ現象の研究に貢献すると期待されます。

 本研究は核融合科学研究所の共同研究によって遂行されました。研究成果は、2019年9月2日から6日に東京大学で行われたIPELS2019国際会議(宇宙と実験室のプラズマ物理連携ワークショップ)で招待講演として発表しました。

研究の背景

 地球の周辺から遥か彼方の宇宙まで、宇宙空間は希薄なプラズマで満たされていて、そこでは様々なプラズマ現象が起きています。例えば「太陽フレア」は太陽表面で高いエネルギーのプラズマが生成され、それが放出される現象です。このようなプラズマが地球付近にやってくると、人工衛星に影響を及ぼして通信障害を引き起こしたり、地球周辺のプラズマに作用して北極や南極の空に「オーロラ」を発生させたりします。
 太陽フレアやオーロラの発生に深く関わっているのが磁力線です。地球は大きな磁石で、北極と南極をつなぐような磁力線で取り囲まれています。磁力線は、ゴム紐のように、伸びたり縮んだりする性質を持っています。そして、引き伸ばされた磁力線が、向きの異なる別の磁力線とつなぎ変わることがあり、この現象は「磁気再結合」と呼ばれています(図1)。磁気再結合が起こるとプラズマが加熱されて高いエネルギーになることが観測されていますが、その詳しい仕組みは分かっていません。太陽フレアやオーロラは、磁気再結合によって引き起こされると考えられています。さらに、遠くの星々やブラックホールの周辺にも磁力線とプラズマがあるため、磁気再結合は宇宙の至る所で起きる普遍的な現象だと注目されています。そのため、磁気再結合は宇宙プラズマの重要な研究課題となっており、人工衛星を用いた観測による研究などが世界中で進められています。
 一方、地上で磁気再結合を起こす実験が、東京大学のプラズマ実験装置TS-6(球状トカマク※1方式の装置、以下「TS-6」)等で行われています。TS-6では、球状トカマク方式による将来の小型の核融合炉の実現を目指し、プラズマの加熱方法の一つとして、磁気再結合を研究しています。さらに、磁気再結合の詳細な機構を解明すべく、プラズマや磁場の状態を様々に変えて実験を行い、それらを直接計測することで磁気再結合の特徴を調べています。このような研究は衛星を用いた宇宙プラズマの研究だけでは不可能であり、様々な条件で実行可能な地上実験によって、宇宙のプラズマ現象の解明に繋がる知見が得られると期待されています。

図1 磁気再結合の模式図。(左)異なる向きの磁力線があり、そこにプラズマが上下から流入する場合を考えます。(中)プラズマの流れの影響で磁力線が伸び、最も近づいたところ(黄色の領域)で、磁力線がつなぎ変わります。(右)つなぎ変えが起こると、プラズマが加熱されて高いエネルギーになるとともに、右向きと左向きのプラズマの流れが新たに発生しますが、その詳しい仕組みは解明されていません。

研究成果

 磁気再結合の研究では、計算機シミュレーションも重要な役割を担っています。今回、核融合科学研究所数値実験炉研究プロジェクトの宇佐見俊介准教授の研究グループは、東京大学の小野靖教授の研究グループによる地上の磁気再結合の実験を、スーパーコンピュータを用いてシミュレーションし、これまで分かっていなかった、プラズマの加熱機構を解明しました。
プラズマは電気を帯びた粒子(電子やイオン)が多数集まったものであり、個々の粒子は電気や磁気の力による影響(つまり、電場や磁場)を受けて運動しています。プラズマの加熱機構を明らかにするためには、プラズマのエネルギー変化を粒子レベルから調べることが必要ですが、これは実験では極めて困難です。そこで、研究グループは、約1億個のプラズマ粒子の運動と電場や磁場の変化を、本研究所のスーパーコンピュータであるプラズマシミュレータを用いて計算することで、TS-6における磁気再結合実験を模擬(図2)し、シミュレーションで得られたデータを解析した結果、磁力線のつなぎ変えが起こると電場が新たに発生することを示しました。そして、プラズマのイオン粒子がその電場からエネルギーを獲得することで、イオンが加熱されることを明らかにしました(図3)。
 さらに、磁場の強さを変えてシミュレーションを行ったところ、磁気再結合によって得られるプラズマの加熱エネルギーは、磁場強度の2乗に比例して高くなることが分かりました(図4)。これはTS-6及び世界中にある同様の球状トカマク装置の実験結果と一致しており、シミュレーションで明らかにしたプラズマの加熱機構が地上のプラズマ実験で働いていることを、確かなものとすることができました。

研究成果の意義

 地上のプラズマ実験と計算機シミュレーションが協力することで、磁気再結合におけるプラズマの加熱機構を解明しました。このプラズマの加熱機構は、太陽フレアや地球周辺のプラズマでも働いている可能性があります。また近年、磁気再結合は、遠い宇宙(ブラックホール、パルサー、マグネタ―、活動銀河核※2など)で起こっているプラズマ現象にも関与しているのではと注目されています。本研究成果はそのような広大な宇宙プラズマの研究にも貢献すると期待されます。さらに、本成果は核融合研究にとっても重要であり、球状トカマク型装置における、プラズマの効率良い加熱方法の開発にも貢献します。

図2 地上プラズマ実験の模式図。実験装置は球に近いドーナツの形をしていますが、ここではその断面を示します。実験では、磁力線で閉じ込めている、ドーナツ形状の二つのプラズマを合体させます。二つのプラズマの境界付近(点線で囲んだ領域)で、磁気再結合が起こります。この領域をスーパーコンピュータでシミュレーションします。

図3 シミュレーション結果。磁力線がつなぎ変わる前は、電場は弱くイオン温度は低いです(上段)。中心付近で磁力線がつなぎ変わると、その結合点から左右に向かうプラズマの流れが発生します。この下流の領域で、強い電場が発生しています(中段左)。イオン粒子は強い電場がある領域を通過していて、その電場からエネルギーを獲得しています(下段)。他の多くのイオン粒子も同様にエネルギーが高くなり、その結果、イオンが加熱されて、下流領域のイオン温度が高くなります(中段右)。

図4 イオン加熱エネルギーは磁場(ドーナツの断面内の磁場の強さ)の2乗に比例して高くなります。このシミュレーション結果は、TS-6だけでなく、世界中にある球状トカマク装置における実験結果と一致しています。

【用語解説】

※1 球状トカマク
磁場閉じ込め型の核融合装置には、ねじれた磁場をプラズマ中に電流を流すことによって維持するトカマク型とコイルをねじるヘリカル型がある(後者の代表例がLHDである)。トカマクのうち、ドーナツの直径とプラズマの太さの比が1に近い場合、装置概観が球状に見えることから、球状トカマクと名付けられている。球状トカマクでは、通常のトカマクより高いベータ値(プラズマ圧力/磁場圧力)のプラズマを閉じ込められることから、注目を集めている。

※2 パルサー、マグネター、活動銀河核
パルサーは、強い磁場を持って回転している中性子星(主に中性子でできた天体)。その自転に伴って、パルス状の周期的な電磁波の放射が観測されている。マグネターは、パルサーよりも更に強い磁場を持つ中性子星。その磁場の減衰をエネルギー源として、非常に明るい電磁波(特に、X線やガンマ線)を放射していると考えられている。活動銀河核は銀河の中心部の領域で、その狭い領域から、銀河全体を凌駕するような強い電磁波を放射しているもの。パルサー、マグネター、活動銀河核の周辺では、いずれも、高いエネルギーのプラズマが生成されているが、磁気再結合はその生成機構の有力な候補となっている。

【研究サポート】

 本研究は、文部科学省の科学研究費助成事業(16K17847, 15H05750)、並びに、核融合科学研究所のネットワーク型共同研究「プラズマ実験・シミュレーション・太陽観測を融合したO点とX点のプラズマ加熱の解明」などの支援を受けて遂行されました。

【本件のお問い合わせ先】

  • 研究内容について
    核融合科学研究所・ヘリカル研究部・基礎物理シミュレーション研究系
    准教授 宇佐見俊介(うさみ しゅんすけ)
    電話 0572-58-2356
  • 本件の広報について
    核融合科学研究所・ヘリカル研究部・基礎物理シミュレーション研究系
    准教授 兼 対外協力部副部長 樋田美栄子(といだ みえこ)
    電話 0572-58-2379