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プレスリリース

令和3年4月15日

大学共同利用機関法人自然科学研究機構
核融合科学研究所

銅合金の新しい接合法を開発

概要

 アルミナ分散強化銅は、熱や電気を伝えやすく高温でも丈夫で摩耗にも強いという、優れた性質を持つ銅合金ですが、接合が困難だという課題があります。核融合科学研究所核融合工学研究プロジェクトの時谷政行准教授らの研究グループは、この銅合金とタングステンを接合する技術を2016年に開発しました。今回、この技術を発展させて、銅合金と様々な金属との強固で、さらに多段階の接合も可能にする技術「先進多段階ろう付接合法」を開発しました。これにより、核融合炉の除熱機器の性能を向上させる新構造の製作が可能になり、製作した試験体を用いて世界最高の除熱性能を実証しました。アルミナ分散強化銅は、様々な産業機器の高性能化にも貢献すると期待されていることから、その接合が困難だという課題を解決する本技術は、核融合研究のみならず、様々な応用が期待されます。

 この成果は,特許「アルミナ分散強化銅のろう付接合方法」(特許第6528257号,特許第6606661号)を取得するとともに,2021年5月10日から5月15日において開催される国際会議「第28回 国際原子力機関(IAEA)核融合エネルギー会議:28th IAEA Fusion Energy Conference」において口頭発表される予定です。

研究の背景

 銅は熱や電気を伝えやすいため、フライパン、冷蔵庫、コンピュータ等の日用機器に広く利用されています。このような銅に、高温でも丈夫で摩耗にも強い性質を持たせたものが、「アルミナ分散強化銅」という銅合金です。この銅合金を使えば、様々な産業機器の高性能化が期待できますが、溶接ができないため、接合が極めて困難だという課題があります。核融合科学研究所では、この銅合金と熱に強い金属であるタングステンを接合するために、「先進ろう付接合法」という技術を開発しました(2016年4月にプレスリリース)。これにより、銅合金とタングステンの強固な接合が可能になりました。
 核融合炉では、銅合金とタングステンは、最も高い除熱性能が要求される機器に用いられます。この機器は、高温プラズマからの熱をタングステンで受けとめ、その熱を銅合金で作った冷却板の内部に冷却水を流して取り除きます。従来、この冷却水の流路は銅合金に穴を空けた円筒状のものが検討されてきましたが、最近、除熱性能を高めるための新たな構造が注目されています。新構造は、冷却水流路の断面が長方形で、その上壁に冷却を促進するための突起(フィン)があります(図1)。この構造は、最初に銅合金の板を切削加工し、その後、銅合金やステンレス鋼でできた蓋を接合して作ります。この接合は冷却水や空気が一切漏れないようにする必要があります。そのため、銅合金同士あるいは銅合金とステンレス鋼という、新たな組み合わせについて強固な接合を実現しなければなりません。さらに、この接合を行った後に、銅合金とタングステンを接合するため、多段階の接合を可能にすることが求められます。そのため、新構造の製作のためには、このような条件を全て満たす接合技術の開発が必要でした。

研究成果

 時谷政行准教授らの研究グループは、除熱性能を高めた新構造の製作に必要な接合技術を、「先進ろう付接合法」を発展させることで実現しました。「ろう付」は、2つの金属の間に接着剤の役割を担う「ろう材」を挟み、高温で溶かして接着する方法です。先進ろう付接合法はこれを高度化したもので、ろう材にBNi-6と呼ばれるNi(ニッケル)とP(リン)が含まれた素材を使用します。そして、接合する2つの金属を押し付けながら、熱を加えて900度以上の高温にし、ろう材を溶かして接合します(図2)。今回、時谷准教授らの研究グループは、熱処理の温度や時間、押し付ける力を様々に変えて試験を行いました。その結果、これらの組み合わせを最適なものにすることで、次の特徴を兼ね備えた接合を実現しました。その特徴は、①銅合金とステンレス鋼、銅合金と銅合金などの組み合わせでも接合可能。②気体や液体の漏れが一切ない接合。③点や線ではなく、面での接合。④接合部の強度は元の金属素材と同程度。⑤繰り返し熱処理を行っても接合強度が高い状態で維持されるため、多段階の接合が可能。これにより、除熱性を高めた新構造の製作を可能にする「先進多段階ろう付接合法」が完成しました。
 この技術を用いて新構造の試験体を製作し、電子ビームを照射して熱を与える試験を行いました。その結果、この新構造は、将来の核融合炉で予想される熱(30 MW/m2)を十分に除去できることが分かりました(図3)。これは、現時点では世界最高の除熱性能です。さらに、大型ヘリカル装置(LHD)の中に試験体を設置して、プラズマからの熱を与える試験を行いました。今回開発した試験体は、LHDに設置されている除熱機器の約80倍の除熱速度を示し、大規模なプラズマ実験においても、高効率な除熱性能を実証することができました。

研究成果の意義や今後の展開など

 先進多段階ろう付接合法により、銅合金同士、銅合金とステンレス鋼、銅合金とタングステンの強固で、しかも多段階の接合が可能になりました。本方法は、これらの組み合わせだけでなく、「アルミナ分散強化銅」と様々な金属との接合にも応用できます。熱伝導性、電気伝導性、耐熱性、耐摩耗性に優れたアルミナ分散強化銅は、核融合炉の除熱機器だけでなく、様々な産業機器の高性能化をもたらすものとして期待されています。その接合が困難だという課題を解決する本手法は、様々な産業分野への貢献が期待されます。例えば、製鉄などで溶けた鉄を冷却して固める時に使う型枠(鋳型)の冷却構造を、アルミナ分散強化銅と本技術を使って製作すれば、高性能化できる可能性があります。

図1  核融合炉用除熱機器の試験体の模式図。

図1  核融合炉用除熱機器の試験体の模式図。上段は従来型で、冷却水の流路は単純な円筒形状です。中断は、除熱性能の向上が期待される新構造です。新構造の冷却水流路の断面は矩形で流路の上壁に冷却を促進するための突起(フィン)があります。この新構造を作るには2回の接合が必要です。1回目にアルミナ分散強化銅(ODS-Cu)とステンレス鋼(SUS)を接合し、矩形の冷却流路に蓋をします。2回目にアルミナ分散強化銅(ODS-Cu)とタングステン(W)を接合します。なおステンレス鋼は、外から冷却水を引き込むパイプの材料です。下段は、新構造の鳥観図です。

図2  本技術における接合手順の模式図と、ステンレス鋼とアルミナ分散強化銅を接合した実物の写真。

図2  本技術における接合手順の模式図と、ステンレス鋼とアルミナ分散強化銅を接合した実物の写真。熱処理の温度や時間、押し付ける力の組み合わせを最適なものにすることで、液体や気体の漏れのない極めて高品質の接合部を広い面積で得ることができました。

図3  新構造の除熱機器試験体の写真(左)と断面の3次元模式図(中)、ならびに電子ビームによる加熱試験の結果(右)。

図3  新構造の除熱機器試験体の写真(左)と断面の3次元模式図(中)、ならびに電子ビームによる加熱試験の結果(右)。表面のタングステンを加熱した時の、断面図のA点、B点の温度を示します。30 MW/m2という超高熱負荷時においてもタングステンの温度は1200℃、アルミナ分散強化銅(ODS-Cu)の温度は400℃程度に保たれています。これらの温度は、機器の健全性を確保するにおいて全く問題の無い温度です。従来型では、同じ熱負荷に耐えることはできません。 MW : 加熱パワーを表す単位で、1MW は100万ワット

【発表情報】

[1] 雑誌名:Nuclear Fusion
論文名:Advanced multi-step brazing for fabrication of a divertor heat removal component (先進多段階ろう付接合法(AMSB)によるダイバータ受熱機器の製造)
出版日:2021年 3月9日
著者:時谷政行1,浜地志憲1,平岡 裕2,増崎 貴1,田村 仁1,能登裕之1,田中照也1,恒吉達矢3,辻 義之3,室賀健夫1,相良明男1,FFHR設計グループ1
1 自然科学研究機構 核融合科学研究所、2 岡山理科大学、3 名古屋大学
DOI: https://doi.org/10.1088/1741-4326/abdfdb

[2] 会議名:28th IAEA Fusion Energy Conference
講演題目:Advanced multi-step brazing for fabrication of the divertor heat removal component(先進多段階ろう付接合法(AMSB)によるダイバータ受熱機器の製造)
開催日:2021年 5月10~15日

著者:時谷政行1,浜地志憲1,平岡 裕2,増崎 貴1,田村 仁1,能登裕之1,田中照也1,恒吉達矢3,辻 義之3,室賀健夫1,相良明男1,FFHR設計グループ1

1 自然科学研究機構 核融合科学研究所、2 岡山理科大学、3 名古屋大学

【研究サポート】

 本研究は、文部科学省の科学研究費補助事業(20H01887, 17K06997)による支援を受けて行われました。

【本件のお問い合わせ先】

 大学共同利用機関法人
自然科学研究機構 核融合科学研究所 ヘリカル研究部
核融合システム研究系 高熱流プラズマ対向壁研究部門
准教授 時谷 政行(ときたに まさゆき)
電話: 0572-58-2143