市民学術講演会
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生命に宿る振り子時計
地球に生息する生命が体内に持つ「概日時計」とよばれる約24時間周期の時計。そのメカニズムは長年の謎であり、多くの研究者を魅了し続けてきた。「シアノバクテリア」から見出された時計遺伝子群の研究から、ついに明らかになった「概日時計」のメカニズム。2017年のノーベル生理学・医学賞の受賞対象にもなった「概日時計」研究の最先端を紹介します。
2015.11.3セラトピア土岐

講師:近藤 孝男
 名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻 名誉教授 理学博士

講演概要

 地球に生息する生命は24時間周期の時計をもち、昼夜環境に合わせて巧みに生活しています。私たちは腕時計を携帯し毎日の生活に利用していますが、腕時計をもたない動物、植物、あるいはバクテリアもその細胞内に時計を持っていて、一日の生活をプログラムしています。この時計は概日時計(生物時計)と呼ばれますが、大変正確で温度が変わってもほとんど狂いません。生命活動が温度に大きく影響されることを考えると、これはとても不思議なことです。
生命がいかにして地球の自転周期を細胞内に記憶し、24時間の安定した振動を発生するかという問題は、幅広い分野の研究者を魅了してきました。私はシアノバクテリアの実験系を開発し、3つの時計遺伝子kaiA, kaiB, kaiCkaiは回転から命名)を見出しました。さらにKaiCタンパク質の生化学的機能の解明を目指した研究により、3つのKaiタンパク質とATPを試験管内で混ぜるだけで温度に影響されない24時間振動が発生することを発見し、概日時計を試験管内で再構成することに成功しました。
生きた細胞の機能だと思われていた概日時計の研究にとって、この発見はコペルニクス的転回であり、ヒトをも含めた高等生物の体内時計研究にも非常に大きなインパクトを与えました。また、この成果は「時を刻む」というタンパク質の全く新しい機能を発見したもので、化学・物理分野の研究者にも注目されています。また、最近の研究ではKaiCタンパク質内に原子レベルの24時間のペースメーカーが機能することを示すことができました。これらの研究成果は概日時計研究の最先端を切り拓いたもので、タンパク質による時間測定や情報処理など、我々の物質観、生命観にも影響を及ぼすインパクトをもっているものとして国際的にも高く評価されています。
講演では、概日時計のメカニズム解明の端緒となった、シアノバクテリアから見出された時計遺伝子群の発見とそのタンパク質の機能の研究を中心に、生命の体内時計のメカニズムについて解説します。

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