HOME > おしらせ > プレスリリース > 経済的核融合炉を実現するプラズマの高精度予測が可能に

プレスリリース

令和2年4月17日

大学共同利用機関法人自然科学研究機構
核融合科学研究所

経済的核融合炉を実現するプラズマの高精度予測が可能に

概要

 定常核融合炉の実現には、磁場の強さが同じであれば、より高い圧力のプラズマを安定的に長時間閉じ込められる装置が、経済的で有望だとされています。大型ヘリカル装置(LHD)実験では高圧力プラズマの保持に成功していますが、将来の核融合炉の設計を行うために不可欠である計算機シミュレーションは、この現象を再現できていませんでした。数値実験炉研究プロジェクトの佐藤雅彦助教、藤堂泰教授らの研究グループは、従来の計算で考慮されていなかった、多数のイオンの運動の違いを取り入れるという精密な計算を「プラズマシミュレータ」(スーパーコンピュータ)を駆使して実行し、LHDの高圧力プラズマの保持を再現することに初めて成功しました。これにより、高圧力プラズマの高精度予測が可能になり、核融合炉の経済性向上を目指す設計研究が大きく前進すると期待されます。

研究の背景

 核融合発電では、磁場により高い圧力(温度と密度の積)のプラズマを長時間閉じ込める必要があります。磁場はコイルに電流を流して発生させるため、コイルの規模や電気代などの経済性の面から、磁場の強さが同じであれば、より高い圧力のプラズマを閉じ込められる装置が有望だとされています。大型ヘリカル装置(LHD)は、高圧力プラズマ※1の保持に成功しており、将来のヘリカル型核融合炉の実現に大きな期待が寄せられています。
 将来の核融合炉の設計研究の基盤となるのが、プラズマの振る舞いを予測する計算機シミュレーションです。高い精度のシミュレーションが必須ですが、そのためには、シミュレーションは既存の実験結果を再現できなければなりません。ところが、これまでシミュレーションは、LHDにおける高圧力プラズマの保持を再現できておらず、経済的な核融合炉の設計に向けての大きな問題となっていました。
 高圧力プラズマのシミュレーションは、これまで、プラズマを水や空気と同様に流れる物体(流体)とみなして計算する方法(流体モデル※2)が用いられてきました。プラズマ中では多数のイオンがそれぞれ異なる速度で異なる動きをしていますが、流体モデルは、これらイオンの平均的な動きを計算します。核融合科学研究所では、より精密な計算を行うため、流体モデルでは考慮されていない、多数のイオンの動きの違いを取り入れた「ハイブリッド・シミュレーション」を開発してきました。そして、これを用いて、将来の核融合炉でプラズマを加熱する役割を担う、高速イオンに関する重要な成果を挙げてきました。この研究を発展させ、ハイブリッド・シミュレーションで、流体モデルではできなかった、高圧力プラズマの保持を再現することができれば、核融合炉の実現に向けて研究をさらに大きく前進させることができます。

研究成果

 佐藤雅彦助教、藤堂泰教授らの研究グループは、LHD実験で成功した高圧力プラズマの保持を、ハイブリッド・シミュレーションを用いて再現することに取り組みました。様々な動きをするイオンの中で特に注目したのが、往復運動しながら進んでいく「捕捉イオン」です(図1)。この捕捉イオンの動きはLHD特有のものであるため、その効果を調べる必要があるのです。そこで、ハイブリッド・シミュレーションで、数百万個の捕捉イオンを含む、数千万個のイオンの運動とプラズマの圧力の変化を計算しました。さらに、高圧力を保持できるかどうかを示すためには、長時間にわたる変化を調べる必要があります。これは膨大な計算量となりますが、「プラズマシミュレータ」(スーパーコンピュータ)を駆使することで、その計算を実現しました。その結果、LHDの高圧力プラズマの保持をシミュレーションで再現することに初めて成功しました(図2)。また、捕捉イオンの運動とプラズマの圧力変化との関係を詳しく解析しました。これにより、捕捉イオンが、プラズマ中に発生する揺らぎが大きくなるのを抑えることによって、高圧力プラズマの保持に大きく貢献していることを明らかにしました。

研究成果の意義と今後の展開

 本研究によって、将来のヘリカル型核融合炉におけるプラズマの予測精度を大幅に向上させることができました。今後、本研究成果が基盤となって、将来のヘリカル型核融合炉の経済性向上を目指す設計研究が大きく前進すると期待されます。

図1 LHDのプラズマとその中のイオンの軌道例。LHDのプラズマはねじれたドーナツの形をしています。白色と黄色の線がイオンの軌道を表します。白線で示すイオンは、ドーナツの中を周回し、一方向に進み続けています。それに対して、黄色で示すイオンは往復運動をしています。また同時に、その往復運動の中心も少しずつ移動しています。このような往復運動するイオンは「捕捉イオン」と呼ばれていて、その動きはLHD特有のものです。なお、プラズマの色は圧力を表していて、圧力が中心で高く、外に向かうほど低くなることを示しています。

図2 LHDの高圧力プラズマのシミュレーション結果。プラズマ断面の圧力分布を示します。左図は、色が圧力を表していて、プラズマの中心部で圧力が高く、外に向かうほど低いことを示しています。高圧力プラズマは、この圧力差が非常に大きく、この差を小さくしようとプラズマはゆらゆらと「揺らぎ」始めます。この揺らぎが大きくなり過ぎると、高い圧力のプラズマと低い圧力のプラズマが混じり合ってしまうため、高い圧力を保持できません。従来の流体モデル(上図)では、最終的に、揺らぎが大きくなって、中心の圧力が著しく小さくなってしまいます。それに対し、イオンの動きの違いを取り入れたハイブリッド・シミュレーション(下図)では、長時間に渡って揺らぎは小さいままで、高圧力プラズマが保持されています。イオンの運動と揺らぎの関係を詳しく解析したところ、捕捉イオンが、揺らぎが大きくなるのを抑えていることが分かりました。

用語解説

※1 高圧力プラズマ
 核融合炉の経済性を表す値として用いられるのが、プラズマの圧力を磁場の圧力で割った値で、ベータ値と呼ばれている。ベータ値が高いほど、同じ強さの磁場でより高い圧力のプラズマを閉じ込められることを意味する。経済的な核融合炉実現の指標はベータ値5%で、LHDは磁場強度0.425テスラでベータ値5%を達成している。また、磁場1テスラでベータ値4%を超える高い圧力のプラズマの保持にも成功している。

※2 流体モデル
 プラズマの振る舞いを記述する計算モデル(方程式)には、どのような時間・空間スケールに注目するかによって異なる、いくつかのモデルがある。プラズマを流体としてとらえるモデルは、磁気流体モデルと呼ばれている。これは、プラズマは電気を通す流体で、電流が流れると磁場が発生することに由来する。プラズマの密度、流れの速度、圧力と磁場の時間発展を追跡する。LHDのプラズマ全体の振る舞いなど、巨視的な現象を調べるのに適した計算モデルである。しかし、プラズマを構成する個々のイオンや電子の運動の違いは考慮されておらず、それらに起因する効果を調べることはできない。

成果情報

 今回の研究成果は、2019年9月23日-27日にアメリカ・マディソンで開かれた第22回国際ステラレータ・ヘリオトロンワークショップ(ISHW2019) 、ならびに、2020年1月20日-23日にドイツ・ゲッティンゲンで開かれたマックス・プランク/プリンストンセンターワークショップ(MPPC)の招待講演として発表されました。