課題番号10

井通暁(東京⼤学)、神吉隆司(海上保安⼤学校)

流れを伴う動的な⼒学平衡状態 ―MHD 理論を超えて

流れのある⼆流体平衡状態の導出

カテゴリー: A1, A2, A3, B1, B2, B5

⽬指すもの(output)︓

- トロイダル回転を有するプラズマや⾼ベータプラズマの平衡の解明

波及(outcome)︓

- 天体・宇宙プラズマの⼆流体/多流体平衡の解明

課題10イメージ

イオンと電⼦の流れが交叉する動的な⼒学平衡

プラズマを⼀流体として扱うMHD モデルでは、磁場閉じ込めプラズマの平衡状態はローレンツ⼒と圧⼒勾配とが釣り合った静⽌状態として記述されるが、プラズマ中に⾳速程度の流れやイオン慣性⻑スケールの圧⼒勾配などが存在する核融合炉⼼を表現するためには、電⼦/イオンの⼆流体性・プラズマ中の流れ・圧⼒の⾮等⽅性などを含んだ動的な平衡状態を求める必要がある。電⼦流体とイオン流体を別々に扱う⼆流体モデルは、そのような効果を含んだ平衡状態を記述でき、流れを有する核融合プラズマの振る舞いをより正確に表現することができる。

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軸対称条件下でのMHD 平衡状態は、圧⼒とポロイダル電流の2つの任意⾯関数を設定した上でポロイダル磁束関数に関するGrad-Shafranov ⽅程式を解くことによって静⽌状態として得られる。ところが⾼性能炉⼼プラズマにおいては、流れの存在が安定性や輸送特性に⼤きく寄与しているため、流れのある平衡状態を求める必要がある。そのような平衡はGrad-Shafranov ⽅程式を修正することによって⼀流体の範囲内で表現されることもあるが、⼆流体モデルを⽤いることによって磁気⾯を横切るような流れを取り扱うことが可能となり、⾼速なトロイダル回転を有するトカマク平衡など、MHD で扱うことのできない状態を記述することができる。⼆流体平衡の⽅程式では、イオン流体と電⼦流体のそれぞれのポロイダル流速、エンタルピー、エントロピーに関する計6つの任意⾯関数が現れ、MHD 平衡に⽐べて⾃由度が著しく⼤きくなるため、平衡状態を求めるためには適切な境界条件や関数形の設定が必要となる。⼆流体平衡において電⼦慣性を無視すると、電⼦に関する上記の任意⾯関数はポロイダル磁束関数(電⼦⾯変数)で表される。⼀⽅、イオンに関する任意⾯関数は、ポロイダル磁束関数と、⼆流体パラメータ(イオン慣性効果)ε を乗じたイオンのトロイダル流速に関する項の和として定義されるイオン⾯変数で与えられる。⼆流体平衡は、単純に ε → 0 の極限を取るだけでは流れのあるMHD 平衡に簡約化できない。MHD では電場(静電ポテンシャル)の効果が⽐較的⼤きいため、その取り扱いに注意しながら、⼆流体平衡⽅程式を直接変形する⽅法と変分原理に基づく汎関数の極限を取る⽅法が近年考案されている。さらに、イオン流体を熱平衡成分とビーム成分に分割して⾼速イオンを含んだ平衡を解析するなど、より⼀般的な核融合プラズマへの適⽤が期待される。

[1] 伊藤淳、プラズマ・核融合学会誌、92、pp.832-838 (2016). 【解説】