課題番号15

仲⽥資季(核融合科学研究所)、松岡清吉(核融合科学研究所)

乱れと磁場の幾何学で紐解く構造形成と機能創発

磁場の幾何構造による⾃⼰組織化の活性化と乱流抑制

カテゴリー: A2, A3, B1, B3, B4

⽬指すもの(output)︓

- 輸送障壁・ゾーナルフロー形成と磁場構造との関連性の解明

- 新たなプラズマ状態や機能の探索⼿法構築

波及(outcome)︓

- 数理・情報科学との融合研究による⾼次元データ解析や素因分析⼿法の共創

- 幾何構造を持つ場における乱流現象の探究

課題15イメージ

磁場の幾何構造によるゾーナルフローの活性化

太陽のような恒星、オーロラ、そして核融合炉の炉⼼など、多彩なプラズマが私達の世界を取り巻くが、その多くは不均⼀で乱れた状態にある。揺らぎ・乱れに伴う⾮平衡性や⾮線形性に由来する構造形成や機能創発メカニズムの理解は、多くの学問に共通する難問である。プラズマ中で⽣じる⾃発的な構造転移(輸送障壁や状態遷移)や流れ場形成(ゾーナルフロー)が、乱流場や磁場の幾何構造とどのように関連・結合しているのか︖様々な視点でこの謎を紐解き、乱れから⽣まれる構造形成を⾃在に操ることができれば、新たなプラズマの状態や機能の発⾒に繋がる。

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核融合プラズマは熱・物質が激しく流⼊・流出し、温度・密度について強い不均⼀性を⽰す系である。様々な現象において不均⼀性はしばしば不安定性を引き起こし、波や揺らぎを乱流状態へと発達させる。例えば、磁場閉じ込め炉⼼プラズマに発達する⼤⼩様々な乱流渦はプラズマ中の熱や物質を外へと輸送(乱流輸送)することで閉じ込め性能を阻害してしまう。⼀⽅、乱流渦どうしの⾮線形相互作⽤により、“ゾーナルフロー”と呼ばれる整然たる「流れ」構造が⾃発的に形成される現象が知られている。帯状に連なる流れ構造は、それを横切る輸送を抑制する顕著な機能を持つため、炉⼼プラズマを⾼い閉じ込め状態へ導く鍵となっている。実験観測や第⼀原理シミュレーションの進展により、乱流輸送や⾮線形性に由来した構造形成/⾃⼰組織化としてのゾーナルフローや輸送抑制機構の理解が進んでいる。では、乱流の⾮線形性に由来するそれらの機能を、磁場の幾何構造によって“⾃在に”引き出すことは可能であろうか︖ この問いはこれまでの「観測と理解」を追究する研究から⾃然に導かれるが、これに答える研究は未開拓に近い。⾮平衡系や⾮線形乱流現象に潜む構造形成やそれに伴う機能創発を⾃在に活性化するための⽅法論を探究することは、プラズマの強い⾮線形性と巨⼤⾃由度に真っ向から挑む研究と⾔える。そして、それは同時に核融合プラズマの枠組みを超え、物性・天⽂・⽣命・⽣態・社会といった様々な複雑現象の解明にも通ずるものであろう。⼀⾒異なる複雑現象に共通する普遍性を系統的に探究するためには、幾何学や数理計画、⾼次元データ解析といった先端的な数理科学・情報科学との融合的⼿法が強く動機づけられる。複雑さを定量的に記述するための新たな座標系や定式化など、諸科学と共創的・⽴体的に拡⼤する核融合プラズマ研究の新たな展開が始まっている。

[1] 藤澤彰英ほか、”ゾーナルフロー研究の現状と展望”、プラズマ・核融合学会誌第 81 巻第 12 号(2005)

[2] H. Sugama, T. -H. Watanabe et al., “Gyrokinetic Studies of Ion Temperature Gradient Turbulence and Zonal Flows in Helical Systems”, Plasma Fusion Res. 3, 041 (2008)