課題番号18

横⼭雅之(核融合科学研究所)

多階層複雑系を要素統合で記述する

核融合プラズマの統合コード開発

カテゴリー: A1, A2, B3, B4, B5, B13

⽬指すもの(output)︓

- 多階層複雑系の象徴である核融合プラズマの統合記述と、それに基づく予測・制御

波及(outcome)︓

- 多階層複雑系の統合記述の観点で諸科学分野との連携・⼿法循環

課題18イメージ

核融合プラズマ統合解析コードの⼀例︓
TOPICS(参考⽂献[2])

地球科学、気象学、経済学など枚挙に暇がない多くの研究分野が『多階層複雑系』の問題に挑戦している。様々な時空間スケールにおける要素過程が⾮線形結合を通じて階層構造を成し、それら階層がまた⾮線形的に結合して全体を構成している。個別要素からいかに全体を記述するか、は『多階層複雑系共通の学術的問い』である。多階層複雑系の象徴的媒質である核融合プラズマも、総体として核融合反応を起こすプラズマ状態を⽣成し、さらに、⻑時間にわたってその状態を維持・制御することを⽬指してこの学術的問いに挑戦している。

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核融合プラズマは多様な時空間スケールを有する物理過程が複雑に連関する多階層複雑系媒質であり、総体として核融合反応を持続的に起こしうる状態を実現する必要がある。それら個別の物理要素を記述する研究は、この学術課題集にあるように⼤きく進展している[1,2]。例⽰すれば、閉じ込め磁場構造の幾何平衡、プラズマの運動論的⽅程式、電磁・輻射流体⽅程式、超⾼強度レーザープラズマ相互作⽤、⾼密度爆縮過程、⾼エネルギー粒⼦挙動など、PC レベルの汎⽤計算コードから「富岳」を⽤いる第⼀原理シミュレーションコードまでバラエティに富んでいる。それらを連携させて核融合プラズマの全貌を記述する「統合コード」の開発に挑戦している。また、核融合炉では計測器が限定されるため、統合コードを⽤いた予測に基づく実時間複合制御が必須であり、それら制御⼿法の開発にも取り組んでいる。その⼀例であるTOPICS(トピックス︓量⼦科学技術研究開発機構を中⼼に開発・運⽤)を上図に⽰す。多くの要素コード(図の緑枠がそれぞれの要素に対応)が結合して核融合プラズマの全体記述を⽬指している様⼦を⽰している。計算負荷や資源の観点から、個別要素コードを全てそのまま連携させることが現実的でないため、簡約化モデルや⼤規模データベースの活⽤を図っている。さらに、多階層複雑系における共通の問いである『個別要素が形作る階層、それら階層間の結合や総体としての全体記述』は単なる要素過程の集合体だけでは不⼗分なため、全体の予測や制御の観点で意味のある結合・記述⽅法を模索する必要がある。この過程で、要素過程の物理的追究と相補的なアプローチとして、数理モデリングや機械学習、データ駆動分野との連携研究が進展しつつある。多階層複雑系の統合記述やその検証の観点で多様な学術分野との連携や⼿法循環の基盤として機能しうる研究課題である。

[1] 三間圀興ほか、⼩特集「⾼速点⽕核融合の統合シミュレーション-多階層プラズマシミュレーションシステム“FI3”-」、プラズマ・核融合学会誌 82(2006)135-170.

[2] 林伸彦ほか、⼩特集「統合コードによる磁場閉じ込め核融合プラズマシミュレーションの現状と今後の展望」、プラズマ・核融合学会誌 95 (2019) 423-460.