課題番号20

徳沢季彦(核融合科学研究所)

乱流の理解は深化する

実空間、速度空間から位相空間計測への展開

カテゴリー: A1, A2, B10

⽬指すもの(output)︓

- プラズマ乱流輸送現象の解明

- 新たな閉じ込め理論の探索

波及(outcome)︓

- 効果的な乱流抑制制御⼿法の確⽴

- 多次元かつ⼤規模データ処理⼿法

課題20イメージ

位相空間内で⽣じた粒⼦分布関数の歪み

[参考⽂献1]

⾼い⾃由度を持つ核融合プラズマを効果的に制御するためには、プラズマの特性を徹底的に知っておくことが望ましい。⼈体の免疫メカニズムを理解した上で医者が治療を施すことと同様に。なぜプラズマはこのような構造を⾃発的に形成するのか︖なぜ不安定になって粒⼦やエネルギーを放出するのか︖これらの答えを導くため、プラズマ診断⼿法は発達してきた。そして今、実空間での形状変化だけでなく、粒⼦の速度空間の変化をプラズマ中の様々な事象が発⽣している位置において観測すること、すなわち位相空間計測ができるようになってきた。これは中性流体や固体では不可能なプラズマだからこそ知ることのできる新しい物理の地平を切り拓く研究である。

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⾮平衡なプラズマの閉じ込めには各種の不安定性によって⽣じた乱流が⼤きな影響を与えている。トーラス型磁場閉じ込めプラズマでは、⾃律的に形成された構造が、流れを⽣み出し、この流れにより構造⾃⾝が維持あるいは変形することが知られている。また、粒⼦供給や加熱などの外部⼊⼒がなされることによりプラズマの形状や閉じ込め特性が変化することが知られており、まさにこれらをアクチュエータとしてプラズマを制御している。⾃発的にあるいは外部⼊⼒により温度や密度の勾配が強くなると、その勾配変化によりプラズマの安定性が変化して乱流が発⽣し、ある場合にはその⾮線形性から乱流を抑制するような機構が駆動される。このような物理現象を正確に理解するために、実空間における構造を詳細に観測するための努⼒が続けられてきた(例えば、イメージング計測器のような2-3次元計測器の開発)が、近年これだけでは⼗分でなく、速度空間の変化を知る必要があることが指摘されるようになってきた。⼀般にプラズマ加熱のスキームでは、はじめ各粒⼦には⾮等⽅にエネルギーが与えられ、それが衝突・拡散によって等⽅化していく。しかし、短い時間スケールで変化するような事象がプラズマの閉じ込めを決定する場合や低衝突度の核燃焼プラズマでは、この速度空間の⾮⼀様性やその歪が重要になる。したがって、プラズマのさまざまな領域でこの速度空間の変化を測定すること、すなわち位相空間計測とそれによる粒⼦・熱輸送の理解の進展が、今、求められている。イオンの速度空間分布の歪を分光学的⼿法で発光波⻑スペクトルの⾮マックスウェル分布形状から推定する⼿法など新しい計測⼿法が提案され、初期的な観測が始まった。

[1] ⼩菅佑輔ほか、解説「乱流プラズマ研究の位相空間への展開」、プラズマ・核融合学会誌 90(2014)289-295.